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中国の積極財政への依存と注意点

2017年5月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

中国では金融政策が中立的になる中で、財政政策の経済成長下支えにおける役割が大きくなっている。そうした中、地方財政の透明化には一定の進捗が見られる一方、一部の地方政府では依然として隠れ債務の懸念がある。

強まる財政政策依存

 2017年の中国のマクロ経済政策は、「積極的な財政政策と穏健な金融政策」の方針が継続する(※1)。

 「穏健な金融政策」については、2016年は、特に年前半の景気減速を受けて緩和方向にバイアスがかかっていたが、2017年は資産バブルが懸念されていることなどから、中立という色彩が濃い。一方、財政政策はより積極的になると見られる。

 そうした中、足元の財政状況は悪化している。2017年の政府の予算報告(※2)を基に一般公共予算の状況を見ると、2016年の財政収入は16.7兆元、財政支出は18.9兆元で、財政赤字は2.18兆元と当初予算通り(対名目GDP比2.9%)となった(図表1)。但し、財政赤字を、繰越剰余金等による調整を除いたベース(「一般公共予算収入」ー「同支出」)で計算すると、2.83兆元の赤字となる。この調整後の財政赤字の対名目GDP比は2014年1.8%、2015年3.4%、2016年3.8%と拡大している(図表2)。

 背景には、景気鈍化と減税・行政手数料等(※3)の引下げを主因とする財政収入の伸びの鈍化がある。減税は、営業税の増値税への転換(「営改増」)の影響が大きい(※4)。2016年は5月から建築業・不動産業・金融業・生活サービス業に「営改増」を拡大したこともあって「営改増」による企業の税負担の軽減は5,736億元に上った。

 予算報告によれば、2017年の財政政策は「より積極的で効果的」になる。財政赤字(予算報告ベース)は2.38兆元で前年比2,000億元増加する。内訳は中央政府の財政赤字が1.55兆元、地方政府の財政赤字が8,300億元である。2016年と同様に減税と手数料等の引下げが重視されており、企業の税負担は約3,500億元、手数料等の負担が約2,000億元減少すると予想されている(※5)。

 2016年の中国景気は、インフラ投資の比較的高い伸びと不動産投資の持ち直しで下支えされていた。2017年は、不動産市場が過熱している大都市を中心に、不動産市場に対する引締め策が強化されていることから、不動産投資は落ち着くと予想される。このため、景気下支えが必要な場合、インフラ投資の役割が増すと思われる。政府主導で資金をインフラ投資等に流すことによる経済成長の維持が続くならば(※6)、財政政策依存と財政状況悪化が長期化するおそれがある。やはり、減税・費用引下げによる企業の活性化等を通じ、新たな経済の成長点が生まれるかが鍵となる。

残る地方政府債務の問題

 財政状況が厳しい中、以前から財政難が指摘されてきた地方政府財政の健全性に注意が必要である。

 地方政府財政は、過去数年で透明度が増した。2014年10月の「地方性債務の管理強化に関する意見」(国務院)等により、地方政府は地方債発行による資金調達が可能になり、また、地方債が予算管理されることになったからである。それまでは、地方政府自体は借入ができず、融資平台(資金調達プラットフォーム会社)を作るなどして資金調達をしていたが、全体の規模や地方政府保証の有無が不透明なこと等が問題視されていた。

 2017年の地方債発行を見ると、新規資金調達のための発行は、財政赤字8,300億元(2016年は7,800億元)分の調達に加え、上述の一般公共予算とは別勘定の政府性基金予算(※7)における専項債8,000億元(同、4,000億元)を合わせ計1.63兆元(同、1.18兆元)となる(※8)。

 これらの新規財源分に加えて、過去の融資平台等の債務の返済のために発行される置換え(借換え)債がある。置換え債は2015年に3.2兆元、2016年に4.9兆元発行されていることから、2017年も2016年並みに発行されるとすると、2017年末で累計発行額は約13兆元となる。過去の債務は15.4兆元であることから(※9)、2017年でこの部分の置換えがほぼ完了し、透明化されることになる。また、地方債は融資平台発行の債券より金利が低いことから、地方政府の金利負担も軽減する。ちなみに、2016年には、累計8.1(3.2+4.9)兆元の置換え債発行により金利負担が4,000億元減少した(※10)。

 その一方で、相変わらず影の債務が存在していることも注目される。具体的には、一部の地域において、ここ数年、地方政府の財政負担軽減のために導入が進められているPPP(Public Private Partnership、官民協力モデル(※11))等で問題が生じている(※12)。

 例えば、建設プロジェクトにおいて、地方政府がサービス購入の名目で建設資金の支払いを約束したり、プロジェクトに資本参加している投資基金等に対して、プロジェクトの買戻し・収益保証・分割払い(政府予算から支出)等を承諾したりすることで、事実上の地方政府の債務となっている場合がある。これは政府と投資基金等のPPP参加者が事業リスクを共同で負担するというPPPの基本原則にも反している。

 結局、不透明さが問題となった以前の融資平台に似た状況が一部で出現している。これを受けて、昨年来、中央政府は取締りを強化し、2017年も摘発が続いている。地方政府の債務問題が依然として残っている点には注意が必要であろう。

1) 2016年12月の中央経済工作会議。2011年以降、「積極財政と穏健な金融政策」の組み合わせが続いている。
2) 「2016年中央・地方予算執行情況と2017年中央・地方予算草案に関する報告」(2017年3月全国人民代表大会)
3) 国家機関が徴収する手数料や費用等。
4) 二重課税(営業税納付者が仕入れ分の増値税を控除できないなど)を避けるための税制改革。
5) なお、財政赤字の対GDP比率は3%と不変である。
6) 本誌2016年5月号「拡大する中国の財政赤字」も参照。
7) 特定目的のための基金。例えば、土地使用権譲渡収入により土地の開発を行う等。
8) 地方政府債券のうち、収益のない公益事業については「一般」債を発行して一般公共予算で償還。一定の収益のある公益性事業は、「専項」債を発行し、事業に対応する収入から償還(レベニュー債に相当)。専項債は政府性基金予算に組入れられる。
9) 2014年末、偶発債務は除く。
10) 「予算報告」による。
11) 2016年末時点で1,351件が実行に移されており、投資額は2.2兆元。
12) 審計署(会計監査院)の2015年の報告など。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融システム研究部長
専門:中国経済・金融資本市場

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