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資産運用ビジネスに変化をもたらす積立NISA

2017年5月号

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室 上級研究員 金子久

2018年1月より積立NISAを導入するのに先だって、金融庁は対象商品の要件を定めようとしている。これは長期・積立・分散投資に適切なファンドとしてお墨付きを与えることを意味しており、徐々に、資産運用ビジネスそのものに影響を及ぼす可能性がある。

導入決まる積立NISA

 国民の間に少額からの積立・分散投資による資産形成を広く普及させるため、現行のNISAよりも年間投資額を少額としつつ、非課税適用期間をより長期とする「積立NISA」の創設が2017年度税制改正において決定され、3月末までに関連する税制改正法案が国会で可決・成立した。これにより同制度が2018年1月から開始されることが決まった。

 積立NISAの概要は図表1の通りで、年間投資上限額は40万円、非課税適用期間は20年となっている。投資対象商品は長期の積立・分散投資に適した一定の公募等株式投資信託とされ、現行のNISAで認められている上場株式は対象となっていない。また、投資方法は契約に基づく定期かつ継続的な方法による買付け(いわゆる定時定額購入サービス)によるものに限定されている。なお、同制度の実施期間(買付が可能な期間)は2018年~2037年までの20年間とされている(※1)。

 現行のNISAが3年前に導入され、それにより投資口座を開設する人が相当程度拡大したと当局自身が評価しているにも関わらず、何故新たに積立に特化したNISAを創設するのだろうか。それは、多額の資金がなければ投資はできないというイメージが固まっていて、そのために投資に踏み切れない人が多いと考えられるためだ。NISA口座を開設しても、実際には投資していない人は半分以上いる。そして、彼らを含む、投資の必要性を感じている投資未経験者に投資を行わない理由を尋ねると、7割以上の人が「まとまった資金がないから」と回答するという。一方で、NISAを利用して実際に投資している人、中でも若年層は、積立投資の利用割合が高く、潜在的には積立投資による資産形成の必要性が認められていることが窺える。これらの状況を踏まえ、積立に特化したNISAを創設することにより、投資の裾野の大幅な拡大を狙ったものと考えられる。

厳しい条件により絞り込まれる対象商品

 金融庁は積立NISAの導入にあたって、対象商品を公募株式投信の中で要件をみたすファンドに限定しようとしている。そして、その要件が「長期・積立・分散投資に資する投資信託に関するワーキング・グループ」で検討された(公募株式投信に関する要件は図表2の通り(※2))。この中では、長期の資産形成に適した商品として、コストが安いこと、投資タイミングが特に重要とされるファンドでないこと、投資の複利効果が得やすいことが重視されている。具体的には、コストに関しては、ノーロード投信であることや信託報酬が一定水準以下であるなどの条件を設定している。また、運用の経過年数や資金流出入の状況、資産規模に関する要件を設けることにより、テーマ型のアクティブ投信等の、投資タイミングが特に重要と考えられるファンドが対象から外れるようにしている。また、投資の複利効果が得難いとの理由で毎月分配型投信は積立NISAの対象外と明記されている。投資の複利効果が得難いとの点では、四半期以上の頻度で分配を行う投信も毎月分配型と同様であり、これらも積立NISAの対象商品として適当とはいえないと考えるべきであろう。

 このような要件を満たす投信は、5千本を上回る公募株式投信の中で50本程度に過ぎない。積立NISAの導入までに信託期間やコストに関する条件を満たすインデックス投信の新設が予想されるが、それでも、対象商品が少数に限られることには変わりない。

変貌する個人向け資産運用ビジネス

 積立NISAはどの程度普及するであろうか。それを具体的に予想する材料を持ち合わせていないが、少なくともスタート時の現行NISAのような勢いを持つことは考えにくい。年間40万円(月間2.5万円)以内の積立投資であれば、現行NISAでも可能である。このため、現行NISAで積立投資を行っていた人が切り替えることはあっても、積立NISAが始まったからといって、積立NISAを始める人はそれほど多くはあるまい。さらに、金額的な観点でみれば、積立型であるだけに急激に残高が拡大することは考えにくい。

 しかし、だからといって積立NISAの導入の影響を軽視すべきではない。当局が積立NISAの対象商品の基準を設けたことにより、その要件を満たす投信には長期の資産形成に適切な商品として一種のお墨付きが与えられることになる。そのようなファンドは(積立NISAを選ばず)現行NISAを利用している人や課税口座で投資している人にも一定の訴求効果があるはずで、投信の売れ筋に変化をもたらすことも考えられる。また、積立NISA向けには提供しない投信の手数料水準にも波及し、資産運用ビジネスの収益構造にも徐々に影響を与えることになろう。だとすれば、金融機関はターゲット顧客やサービスの付加価値等、資産運用に関わるビジネスモデルを変更する覚悟を持つべきであろう。

1) 2037年中に投信を購入した場合も非課税期間は20年となるため、積立NISAは2056年末まで存続することになる。
2) 公募株式投信の他、ETFも積立NISAの対象とされ、その要件は①最低取引単位が千円以下であること、②国内上場ETFについてはマーケットメイクにより円滑な流通のための措置が講じられていること、外国上場ETFについては1兆円以上の残高があること等が挙げられている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融ITイノベーション事業本部 事業企画室
上級研究員
専門:個人金融マーケット調査

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