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米国金融規制改革のゆくえ

2017年5月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

米国のトランプ新政権が打ち出す成長志向の経済政策や規制緩和への期待感は強いが、政策実行力への懸念も高まっている。金融規制をめぐっても、一部で期待されていたような大胆な規制緩和が実現するかどうかは極めて不透明である。

トランプ経済政策への期待

 2016年11月に行われた米国大統領選挙では、大方の事前の予想を覆し、共和党のドナルド・トランプ候補が、民主党のヒラリー・クリントン元国務長官をおさえて勝利した。

 各州の開票結果が次々に伝えられる中で取引が進んだ11月9日の東京株式市場では、日経平均株価が急落したが、その後のニューヨーク市場では株価は大幅に上昇した。その後、本稿執筆時点(2017年3月下旬)まで米国の株価は概ね上昇基調を続け、市場関係者は「トランプ相場」に沸いた。

 想定外ともいうべきトランプ大統領の誕生が市場に好感されたのは、同氏の経済政策が、大幅な法人減税、大規模なインフラ投資、規制緩和など、企業の成長と雇用の創出に力点を置くものだとされたからである。中国や日本の対米貿易黒字を問題視したり、特定の国からの米国入国を一時的に禁止する大統領令を出したりする排外的な姿勢への警戒感も強いが、企業収益拡大への期待がそれを上回ったということだろう。

規制見直しを指示する大統領

 トランプ相場の主役の一人ともいえるのが、大手投資銀行株など金融セクターである。トランプ氏が、選挙期間中から2010年に制定されたドッド=フランク法の撤廃など、世界金融危機後に強化された規制の見直しを主張してきたことから、金融機関の収益拡大につながるという連想が生まれた。

 2月3日に出された大統領令は、金融規制の見直しにあたっての中核的な原則(core principles)を示し(図表参照)、財務長官に対して、既存の規制がこれらの原則に合致したものであるかどうかを検証して120日以内に報告するよう命じた。

 一方、同日に出された大統領覚え書きは、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を証券会社のアドバイザーを含め退職勘定について助言を行うすべての者に対して適用する労働省の新ルールの再検討を求める内容である。労働省は、これを受けて同ルールの施行を当初予定の4月から6月まで延期すると発表した。

見通しにくい金融規制改革

 トランプ政権発足から約3ヵ月が経過し、経済政策への期待感はやや後退し始めた。その要因の一つは、政権の政策実行力に疑問符が付き始めたことである。

 トランプ大統領は、次々に大統領令や覚え書きを出して選挙公約に掲げた内容の実施を促すことで、政策実行力とスピード感をアピールしようとしてきた。

 ところがイスラム圏7カ国(その後6カ国に変更)からの入国を一時的に禁止する大統領令の効力は裁判所によって差し止められた。オバマ前政権の看板政策の一つだった医療保険制度オバマケアの見直しをめぐっては、大統領の支持する法案に与党共和党内から造反が相次ぐ事態となった。国務省などの幹部職員人事が停滞し、官僚機構は機能不全に近い。減税などを盛り込む予算審議の前途も不安視されるようになった。

 金融規制についても、一部で期待されたような大幅な規制緩和が実現するかどうかは大いに疑問である。

 2月に示された規制見直しの中核的原則の内容は、至極常識的なものともいえ、ドッド=フランク法を初めとする既存の金融規制が、そこに掲げられた諸原則と正面から衝突するとは言いにくいように思える。

 強いて「トランプ大統領らしい」点を探すとすれば、国際的な金融規制の検討・交渉において米国の利益を追求するとうたった(e)項だろう。しかし、G20やバーゼル委員会でのこれまでの議論は、米国が欧州の意見も汲みつつ主導してきたものともいえ、自国が提案した内容を国益に反すると強弁するのは困難ではないだろうか。

 ドッド=フランク法の「撤廃」についても、同法制定を推進した民主党はもちろん絶対反対だし、与党共和党内も一枚岩とは到底言えない。議会共和党は、既にオバマ政権下でも同法の一部修正を求める法案の下院通過を実現しているが、そこには、大手金融機関が強い抵抗を示してきた銀行の自己勘定取引を厳しく規制する「ボルカー・ルール」の撤廃といった内容は盛り込まれていない。

 そもそもトランプ大統領が、対立候補だったクリントン氏のウォール街との結び付きを強く批判してきたという経緯もある。今までのところ規制緩和を主張するウォール街の大手金融機関と政権が足並みを揃えているとはいえ、その同床異夢ともいうべき状況がどこまで持続するかは不透明である。

 民主党のメアリー・ホワイト前委員長が推進してきた証券取引委員会(SEC)による株式市場規制改革の今後も見通しにくい。ホワイト前委員長は、米国株式市場の機能が損なわれているとの見解には与せず、市場間の注文獲得競争や取引システムのスピード向上競争に対して決して否定的ではなかった。一方、トランプ政権が指名したジェイ・クレイトン新委員長は、株式新規公開(IPO)や企業買収の専門家でありウォール街もシリコンバレーも歓迎ムードだが、株式市場構造をどう見ているのかは明らかでない。新体制の下で、どのような改革が進められるのか、注目される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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