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日本籍外貨建投信への期待

2017年4月号

資産運用サービス事業部 上席システムコンサルタント 古賀智子

銀行を中心とする金融法人のニーズを満たすファンドとして、日本籍外貨建投信への期待が高まっており、株式配当に関する税の優位性などのメリットが注目されている。私募投信では実現性が高まっているが、個人向けの公募投信を考えると課題も多い。今後検討を重ね、海外でも評価される日本籍外貨建投信が実現することを期待したい。

 銀行を中心とする日本の金融法人は、近年、有価証券投資を積極的に実施しており、特にファンドを利用した外貨運用に対する関心が非常に高い。

 ところが国内籍の投信では、外貨運用が中心の投信であっても邦貨建がほとんどであり、購入時と解約時は日本円での受払いが必要となる。金融法人のニーズは外貨を円転せずに運用したいというものであるが、そのためのソリューションとしては、外国籍の外貨建投信を購入するしか手段がないのが現状だ。

 そのような中、2016年、日本籍外貨建投信第1号と言われる私募投信ファンドが設定されることになった。

金融法人が日本籍外貨建投信を求める理由

 そもそも日本籍外貨建投信は、1998年頃に外債償還後の資産の受け入れ先商品として検討が開始された。設定に向けて法整備も進められたが、この時点では実際の設定には至らなかった。その後も幾度か検討の俎上に載せられたが、関係する各金融機関等で事務フローの大幅な変更が必要となるため、多大なコストがかかるというハードルがあった。そのコストに対する収益性が見出せず、検討が進むことなく15年以上が過ぎた。

 では何故過去15年検討が進まなかった日本籍外貨建投信が設定されることになったのか?それは、近年の情勢下で、投資家にとって日本籍外貨建投信が外国籍投信と比べ優位となる点が改めて明らかになったためである。優位点としては、大きく以下の2つが挙げられる。

 1点目は、租税条約の有無による税率の相違だ。金利は歴史的な低水準にあり、投資家は少しでも高い配当利回りのあるファンドを求めている。そうした中、ファンドが保有する株式の配当金への税に注目が集まるようになった。投資国によっては、外国籍投信より日本籍投信の方が税金が安い、というケースがあるのだ。

 たとえば、ケイマン籍の投信のケースで見てみよう。ケイマン籍の投信が、ケイマンと租税条約のない米国の株式に投資する場合、その配当金には米国で税率30%が課税される。しかし、同じ米国株式への投資を日本籍投信で行った場合、税率が10%となるケースがある。日本と米国の間では租税条約が締結されており、条件を満たせば日本の税率が適用されるのだ。日本籍投信では、この税率の差が投信の運用パフォーマンスに有利に働くことになる。

 配当税率は、投資先国やそのほかの諸条件により変わってくる。その最適な組み合わせを考えることにより、日本籍の投信で外国籍よりパフォーマンスの高いファンドを組成することも可能になる。

 2点目は、日本籍外貨建投信は外国籍投信に比べ、リスク管理のための情報をよりスピーディに入手できると金融法人が考えていることだ。

 近年、銀行が保有するファンドに関しリスク管理規制が強化されている。金融庁からの金融レポートや、日本銀行からの「2016年度の考査実施方針等について」などの資料でも、ファンドが内包するリスクファクターごとにリスクを把握する必要性が述べられている。そのため、投資家である金融法人では、保有するファンドについて中身のルックスルーをより正確・迅速に実施したいという要求が高まっている。

 外国籍投信の場合、海外の運用会社に情報開示を依頼する必要がある。その際、情報開示の正確さやタイミング、開示フォーマットなどが、日本の金融法人のニーズ通りにならないケースも多いという。日本籍外貨建投信の場合であれば、日本の運用会社に依頼することができるため、より扱いやすい形式でのスピーディな情報開示が可能になるのではないかと期待する投資家は多い。そうした情報開示ができれば、金融法人にとって日本籍外貨建投信は、ルックスルーなど規制対応の面でも優位な投資対象となる。

 もちろん、日本籍外貨建投信は運用会社にとってもメリットがある。金融法人のファンド購買意欲が高まる中、そのニーズに訴求できるファンドを設定することは、商品の幅を広げ、新たな顧客獲得の可能性を高めることにつながるだろう。

公募投信への拡大に向けて

 金融法人のニーズにこたえる日本籍外貨建投信は、私募投信の形で実現しつつある。しかし外貨建ての投信に対しては、外国債券の償還後の資金を外貨のまま運用したい場合など、個人投資家の潜在的ニーズもある。個人投資家への販売を視野に入れ、本格的な日本籍外貨建投信市場を構築するには、公募投信の設定が必要となる。しかし、それには多くの障壁が存在する。

 公募で日本籍外貨建投信を設定する際には、受益証券の完全ペーパレス化が必須となる。私募投信の場合は、投資家の数が限られているため券面発行の形式でも事務処理が可能だが、公募投信となれば、不特定多数の投資家に対して券面発行管理、および、その後の事務処理が必要となるため、ペーパレス化は避けられない。しかし、日本籍外貨建投信の業務フローはまだ整備がされておらず、フローの確定やそれに沿ったペーパレス化対応を実施しなければならない。

 また、公募投信の場合は、販売会社の顧客管理に関する業務フローも整備していく必要がある。最大の問題は投資家向け報告資料の税金計算に関する事務である。外貨でファンドを購入したとしても、税金はあくまで邦貨での支払いになる。そのため販売会社は、通貨ごとに税金計算を行い、顧客に対し納税に関する報告を行わなければならない。

 さらに、法制面での整備も残っている。複数の通貨で運用を行うファンドの設定には、現行法の修正が必要となる。そのほか、財務諸表の記載方法を外貨建投信に対応したものに見直さなければならず、変更内容によっては法改正の必要も考えられる。

 こうした諸問題について、今後多くの関係者を交えて継続的に検討を重ねていく必要があるだろう。

 おりしも、2017年12月からアジア地域ファンドパスポート(※1)が導入される。これにより日本の投資信託(公募)の販売が、調印した5カ国で制度上可能となる。諸外国では外貨建てのファンドに対するニーズが高いと見込まれる。公募の日本籍外貨建投信の設定が広まれば、海外へのファンド輸出も現実味を帯びる。課題を乗り越え、日本の資産運用業界の日本籍投信が海外でも評価され、多くの投資家に愛される日が、近い将来やってくることを期待したい。

1) アジア地域ファンドパスポートは、ファンドの組成に関して参加国の間で共通の基準を設け、参加国内で基準を満たしたファンドが他の参加国内において簡便な方法により販売可能となる仕組み。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

古賀智子

古賀智子Tomoko Koga

資産運用サービス事業部
グループマネージャー
専門:資産運用サービス企画

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