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アセット・オーナーとマネジャーの関係の変容

2017年4月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 浦壁厚郎

年金等の海外の機関投資家(アセット・オーナー)が統合やインハウス運用の拡充を進めた結果、運用機関(アセット・マネジャー)との関係に変化が生じている。

中小アセット・オーナーの統合とCIOアウトソーシング

 資産運用の世界では至る所に規模の経済性が働く。例えば規模の小さいアセット・オーナーの場合、分散投資の可能性が限られたり、高い報酬率を甘受せねばならないため、リターンが減じられる。また内部組織を見ても、有能な理事や専門人材を採用できないため、運営目的の実現に最適な運用管理ができない懸念がある。

 このような課題に対して、他のアセット・オーナーと運用資産その他を統合することで解決を試みる動きがある。例えば英国の年金には、統合によって複数事業主による大規模スキームとなった例がいくつかある(古くはUSSやRPS。最近の例としてLGPS(※1))。金融当局であるFCAは年金資産を統合する利点を認めており、一般の職域年金についても広く統合を促すような動きを示している。またオランダの年金でも実際に統合する例は多く、当局(DNB)が年金の理事の専門性に対する要件の厳格化や、APFという新しいタイプの制度(※2)の創設などを通して、統合を後押ししている。

 これらの統合の具体的な形態は多様だが、特にプライベート資産への投資を有利な条件で行ったり、アセット・マネジャーに対する交渉力を高めたり、人材やインフラ等の観点で効果的なプラン運営の実現を目指していることは同じと言ってよい。後述するインハウス運用の実践もこの延長にある。

 中小のアセット・オーナーが規模の経済性を享受するいま1つの方法としてCIOアウトソーシング(OCIO)がある。これは、資産配分やマネジャー構築・選択など運用管理の執行権限をプロバイダー(アセット・マネジャー等)に委譲して、年金内部での執行を代替するものである。プロバイダーは複数のOCIOマンデートをまとめるなどして効率化を図ることが可能であり、年金自身よりも専門能力が高く機動性もあるといった期待もある。プロバイダー自身が合同運用するファンドを活用して安価な分散投資を提供したり、顧客資産を背景に再委託先に報酬の引き下げを求めることもできるだろう。OCIOは、運用管理を担う専門人材を内部で雇用するのが難しい、閉鎖・凍結状態にある企業年金で特に広がっている。

大手アセット・オーナーにおけるインハウス運用の高度化

 他方で、特に大手のアセット・オーナーには、インハウス運用を高度化させ、それに伴ってアセット・マネジャーとの機能分担を見直す動きがある。

 インハウス化は、それが合理的であるような資産や手法が対象になる。その有力な判断基準の1つがやはりコストである。例えば、大手のアセット・オーナーの場合、パッシブ運用などのシンプルなベータ戦略は委託運用よりもインハウスの方が安価と判断されることが多い。外部委託による一般的なアクティブ運用が、インハウスのスマートベータに代替されるケースも少なくない。

 また、既存のプロセスや組織を見直してリターンを改善しようという試みもある。例えば2017年に野村総合研究所が実施した大手アセット・オーナーの調査によれば、内部人材の協業を促進することで多様な投資アイディアの創出を促し、その多面的な評価を通じてインハウス運用の高度化を実現しようとする例が多かった。近年低リターンに甘んじているハーバード大学基金の運用を担うHMCも、従来のような資産クラスごとに専門化するサイロ型のアプローチを改め、「ジェネラリスト・モデル」を採用すると表明している(※3)。その理由の1つは、有望ではあるものの、どの資産クラスに属すのかが不明確なために実践できなかった投資アイディアを取り込むためである。

高度に特化したスキルを活用した代替回避と、パートナー化によるスキル補完

 インハウス運用の対象資産や手法が拡大すると、外部委託は減少し、アセット・マネジャーの事業機会は縮小するだろう。これに対して、アセット・マネジャーは2つの方向で活路を見出すことができる。その1つがインハウス化の難しい非常に特化されたスキルを提供することである。例えば、グローバル指数に含まれない国の資産などニッチなベータにアクセスする戦略や、ヘッジファンド戦略が考えられる。これらは人材やインフラを内部で抱えるには割高になるし、ポートフォリオのコアにはなり得ない(※4)ので、顧客自身によって代替される懸念が少ないからである。

 いま1つが、顧客のインハウス能力の高度化を支援することを目的として広範なサービス提供を行うことである。具体的には、マルチアセット型の戦略を提供して顧客資産の一部を運用するとともに、社内リソースを幅広く活用した知識移転・サポートを行い、顧客の組織を補完するサービスである。戦略的パートナーシップ(SP)と呼ばれる。

 単なる情報提供サービスに留まらずマルチアセットの運用を提供するのには、顧客のインハウス運用のチームと同一の運用目標が与えられたときに、どのような投資行動を採るのかを実践的に示す意味がある。顧客にとっては実際の投資行動やその背後にある判断、情報、能力の差異を分析することが学習機会となり、長期的にインハウス運用の能力強化に繋げることができる。また、アセット・マネジャーにとっても、リレーションが深まることで顧客のニーズをより良く理解できて提案の幅を広げられたり、他のアセット・オーナーにも適用可能なソリューションを開発できるといった利点がある。アセット・オーナーとパートナーシップ関係にあるアセット・マネジャーが、低流動性資産の有望な案件に対して共同投資を行うケースもあるなど、アセット・マネジャーにとってSPはビジネスではあるものの、互恵的な側面もあるといえる。

日本の資産運用ビジネスへの示唆

 以上、海外の機関投資家ビジネスについて状況を紹介したが、国内での同様の動きはごく緩慢にしか生じていない。例えば年金の統合については、企業年金連合会が共同運用事業を開始しており、それは実質的な統合の1形態として十分検討に値するものである。しかし、現在のところ強い関心を引くには至っていないようだ。

 このような動きが広がらないのは、非効率性が認識されていないか、競争原理が働いていないことを意味しているのかもしれない。

1) USSはUniversity Superannuation Scheme、RPSはRailway Pension Scheme、LGPSはLocal Government Pension Schemes。
2) APF(Algemeen Pensioenfonds)とは、事業主の業種等にかかわらず複数の年金が参加し、単一の理事会の下で運用管理を行える制度である。資産は年金ごとに分別管理され、それぞれの投資方針も異なる可能性があるが、理事会はそれらのバランスを採った投資方針を策定して運用管理にあたる。小規模な年金が実質的に統合することで効率性を高め、清算・終了を回避できる効果が期待されている。
3) HMCはHarvard Management Company。
4) コアの投資対象とならないということは、投資自体を止める可能性があるということである。その場合には、担当者を解雇せねばならなくなるだろう。アセット・オーナーが専門人材を雇用してインハウス運用を行うのは、そのような投資を継続する見込みであることが前提である。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

浦壁厚郎

浦壁厚郎Atsuo Urakabe

金融ITイノベーション研究部
上級研究員
専門:資産運用

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