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海外運用会社の業務アウトソーシングの広がりと深化

2017年3月号

NRIアメリカ シニアリサーチアナリスト 三上直美

海外運用会社によるバックオフィスとミドルオフィスの業務アウトソーシングはグローバル金融危機以降に利用者の裾野、対象業務範囲、利用地域のいずれにおいてもさらなる広がりをみせている。世界的な金融規制強化や投資収益率低下傾向もアウトソーシング利用による業務リソース調達の柔軟性確保を運用会社に一層強く迫るドライバーとなっている。

運用会社によるアウトソーシングのさらなる広がり

 欧米を中心とする海外の運用会社においては、バックオフィスとミドルオフィスの業務を信託銀行や非銀行系の資産管理受託業者(以下、サービサー)へアウトソーシング(外部委託)する動きが着実に広がっている。

 バックオフィスについては80年代以降、それまでも外部委託が一般的だったカストディ分野にとどまらず投信基準価額計算等でも外部委託が米国や英国の運用会社を皮切りに普及してきた。これらバックオフィスの外部委託は、当初一部大手運用会社(運用資産2000億ドル超)やそれ以下の中堅運用会社が主たる利用者だったが、長らく内製主義を続けてきた「超大手」運用会社(運用資産残高1兆ドル超)の多くも最近までに全面的または部分的な利用を行うようになっている。

 また利用者の地域をみると、80年代から2000年代前半までは欧米本拠の運用会社による欧米地域での事業にほぼ集中していたのに対し、それ以降は日本を含むアジアの運用会社や欧米運用会社のアジア営業拠点においても利用が拡大傾向にある。

 対象の業務範囲についても、2000年代以降にはバックオフィスと運用・営業業務(フロントオフィス)の間に位置するミドルオフィス機能をサービサーに委託する動きが拡大している。ミドルオフィスの業務委託分野は当初、照合やキャッシュ管理などのトランザクション管理に関る事務系作業などが主だったが、直近10年間の動きとして、パフォーマンス計算・分析やリスク管理のような大量のデータ分析・管理を伴うものや顧客レポーティングなどにまで中核的な対象が広がっている。

 また、信託銀行や非銀行系サービサーらが取り扱うアセットクラスは、内外株式、内外債券といった伝統資産中心の運用ストラテジーにとどまらず、オルタナティブ(ヘッジファンド、プライベートエクイティ等)にも広がり多様化が進んでいる。

 運用会社における業務委託が利用者と対象業務範囲の両面で地域やアセットクラスを超えて広がりをみせるなか、現在では世界の運用会社上位30社(運用資産残高ベース)の8割以上がバックとミドルオフィスの両方またはいずれかの業務委託を利用するまでに至っている。

アウトソーシング利用拡大のドライバー

 このように運用会社による業務委託が拡大する背景として、3つの大きなドライバーが相互に影響し合いながら利用を後押ししていると筆者は考えている。

 第1は、ITシステムや人的リソースの調達に係る柔軟性の確保の喫緊度合いが未曾有のレベルまで高まっていることである。固定費を変動費化するオプションを持つことに代表されるこれらの柔軟性については、80年代にバックオフィス業務のアウトソーシングが始まった当初から現在に至るまで業務委託の底流に存在し続けてきたものではある。しかし、今日では、資本基盤や営業基盤が比較的小さめの運用会社のみならず、90年代まで内製主義を貫いてきた大規模なグローバル運用会社でさえ、柔軟性の確保は意思決定に際しての重要度を増している。それにはグローバル金融危機以降に台頭してきた、次に述べる第2のドライバーも大きく影響している。

 第2のドライバーとは、2000年代後半からのグローバルな規制強化とその対応負荷の増大である。米国においてはドッド・フランク法(※1)や担保管理新規則、投信流動性新規則等が、また欧州でもUCITS V(※2)、AIFMD(※3)、EMIR(※4)、MIFID II(※5)等がそれぞれ施行済みまたは今後施行予定であり、運用面や業務面での追加的な制約や監視、顧客・当局向けレポーティング等に係るコンプライアンス面での義務や作業負担が着実に増している。新規制による収益の下押し効果もあり、これらの新規制対応に必要な体制をすべて自前の人的リソースやシステムによって整えることは時間的にも採算的にも合理的ではない状況となりやすく、これは大規模プレーヤーにおいても例外ではない。運用会社によっては規制・コンプライアンス関連費用が年間営業費用の11~25%を占めるとの調査結果もあり(※6)、規制負荷が高まれば高まるほど業務アウトソーシングの利用が一層促される構造がある。

 第3のドライバーは、同じく金融危機以後に広範なアセットクラスで観察されてきた投資収益率の中長期的な低下傾向である。これは運用会社が従来提供してきた投資戦略、アセットクラス、事業範囲等の見直しや選別的な事業拡大を迫る要因として働き、新規事業参入やアセットクラス追加等に伴う新たなプラットフォームを確保する必要性を生じさせた。

 たとえば、伝統資産分野を中心に機関投資家向け事業を提供してきた運用会社がSMAのかたちで富裕層個人向け事業に横展開したり、ヘッジファンドなどのオルタナティブ投資分野に進出したり、それらの投資戦略を公募投信やETFのかたちで広範な個人等にも提供するリキッド・オルタナティブ運用事業に参入するなどもしばしばみられる動きである。こうした慣れない新規分野で迅速な参入を実現するために、オペレーション機能の提供で実績があるサービサーを使い業務体制を短期間に確保することはきわめて有用な選択肢となる。ある米国中堅運用会社は成長性の高い個人向けSMA運用事業に参入する際に、ミドルオフィス機能を外部委託することにより3ヵ月の準備期間で事業を開始することができた。

業務態勢最適化を実現するための委託先変更・集約も

 以上のように運用会社による外部委託の利用が拡大している一方、最近ではその利用の仕方に関しても、既存の委託先の集約や変更という新たな潮流がみられる。

 委託先の集約がみられるのは、買収により複数の運用子会社を傘下に置いてきた金融グループなどである。ある英国大手保険会社グループでは長らく傘下20社以上の運用子会社で計10社以上のサービサーに業務委託をしてきたが、最近になって2社にまで集約した。このケースでは、集約することにより多数の先に少しずつ委託するよりも有利な価格条件を引き出すことができた。しかしそれと同等以上に重要だったのは、委託先集約を機に、それまで子会社毎にばらばらだった業務プロセスを業務効率面で最も優れた方法に一元化できたことにある。これは、サービサー側で対応可能な業務受託範囲が徐々に拡充され、一方で金融危機以降は各運用子会社も従来の業務プロセスや体制の変更に柔軟に応じる姿勢が強まった現在だからこそ初めて実現した、アウトソーシングの深化系である。

1) ウォール街改革消費者保護法
2) Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities Directive V(譲渡可能証券の集団投資スキーム指令)
3) Alternative Investment Fund Managers Directive(オルタナティブ投資ファンド運用会社指令)
4) European Market Infrastructures Regulation(欧州市場インフラ規制)
5) Markets in Financial Instruments Regulation II(第2次金融商品市場指令)
6) E&Y“Managing complexity and change in a new landscape-Global survey on asset management investment operations”

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

三上直美

三上直美Naomi Mikami

NRIアメリカ
シニアリサーチアナリスト
専門:海外資産運用業務調査

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