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アジアにも広がるか ファンドパスポート

2017年3月号

投資情報サービス事業部 主任コンサルタント 窪寺祐也

APECの参加国内で組成され基準を満たしたファンドを相互に販売可能とするアジア地域ファンドパスポート(ARFP)の導入に向けた検討が進んでいる。課題はあるものの、日本で組成されたファンドの海外での販売や、海外で組成されたファンドの日本国内での販売が容易になり、市場の活性化が期待されている。

ARFPの概要

 アジア地域ファンドパスポート(ARFP)は、ファンドの組成に関して参加国の間で共通の基準を設け、参加国内で組成され基準を満たしたファンドが、他の参加国内において短期間でかつ簡便な方法により販売可能となることを目指した枠組みである。

 パスポートを得るためには①参加国、②ファンドのオペレーター(ファンド会社)、③ファンド、の3つに関する要件を満たす必要がある(※1)。

 参加国については、他の参加国からの同意のほか、証券監督者国際機構(IOSCO)が策定した各国証券監督当局間の協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書(MMOU)(※2)に調印していることが要件の一つとされている。執筆時点における参加国は日本、オーストラリア、韓国、タイ、ニュージーランドの5ヵ国であり、フィリピンについてはARFPへの参加表明をしているものの、MMOUに調印していないことから正式な参加国とはなっていない。

 ファンドのオペレーターに関しては、オペレーターの最低所要資本額やCEOを含む役員や従業員の経験年数に関する要件が定められている。

 ファンドに関する要件としては、母国で公募されていること、対象商品が株式・債券や短期商品等のプレーンな商品に限定されていることの他、貸借取引やデリバティブ取引の制限や空売りの禁止等が規定されている。

 パスポートを得るためにはオペレーターが、ファンドを組成した母国の当局にパスポートの申請を行い、承認を受ける必要がある。承認を受けたファンドについて母国の当局から他の参加国の当局に申請が行われ、原則21日以内に結果がわかる仕組みとなっている。

ARFPへの期待と課題

 ARFPが導入されると、投資家、運用会社、販売会社はどのようなメリットを享受できるであろうか。

 日本では、参加国を含む他国で組成されたファンドを購入する場合、その国からファンドを直接購入する方法とそのファンドを組み入れている国内籍のファンドを購入する方法が考えられる。日本国内の投資家にとっては、他の条件が同じである場合、一般的にはファンドを直接購入する方がコストが安いため、ARFPではより低いコストで他国へ投資することが可能となる。

 また、これまで購入できなかったようなファンドに投資できる可能性があり、投資先の分散化が期待できる。さらに、ファンドがパスポートを得るためにはオペレーターやファンドに関する条件を満たす必要があるので、投資家にとって馴染みのない海外の運用会社が組成したファンドでも、ある程度信頼してパスポートを得たファンドの購入ができるのではないかと考える。

 運用会社にとっては、日本のファンドを海外に輸出することで運用資産額が拡大し、収入の増加が期待できる。また販売会社は他の参加国のファンドを日本で販売する際の販売代理店となることで、手数料収入の増加が期待できる。

 一方、ARFPにはいくつかの課題も考えられる。アジアには既にARFPに類似する制度として、ASEAN CISと、香港と中国本土の相互取引制度(MRF)が存在する。これらの現状から今後の課題を考察したい。

 ASEAN CISとMRFはそれぞれ2014年8月、2015年4月に開始された新しい枠組である。ASEAN CISではシンガポール、マレーシア、タイが参加国となっており、タイがARFPと重複している。MRFについては香港と中国本土間のファンドの相互販売を可能とする制度で、株の相互取引と同様の制度である。ASEAN CISとMRFは、制度開始からそれほど時間が経ってないということもあるが、大きく普及しているとは言い難い状況である。その原因としては以下の点が考えられる。

①言語の相違

 ASEAN CISでは申請フォーマットや投資家への目論見書の言語が英語となっており、普及の障壁となっている。ARFPにおいても参加国間で言語が異なっており、同様の課題が発生すると考えられる。

②販売チャネルの問題

 海外でファンドを販売したい運用会社にとって、現地の販売会社とのネットワークが問題となり、普及の障壁となっていると言われる。例えばタイでは、一部の大手銀行が寡占でファンドの販売を行っており、基本的に銀行グループ内の運用会社のファンドを販売する習慣がある。そのためタイ国外の運用会社は市場に参入し難い状況となっている。実際、2016年12月時点でタイにおけるASEAN CISのリテール向けファンドは1つしかない。

 またMRFにおいても、特に香港のファンドの中国本土における販売が思わしくなく、その原因はファンドを販売する本土の銀行に対してファンドが上手く訴求できていないことにあると言われている。

③既存ファンドとの共食い

 マレーシアやタイでは既にシンガポールに投資するフィーダーファンドが存在するため、シンガポールのマスターファンドが直接マレーシアやタイで購入できるようになると、既存のファンドとの共食い現象が発生する。そのため運用会社は販売戦略を見直す必要が出てくる。

④税制面における取り扱い

 各国で税制度が異なるため、税制度における公平性を担保するための調整(※3)が課題とされている。実際、シンガポールはARFPの議論に参加していたものの、協力覚書(MOC)には署名していない。これは報道によると、税制面における取り扱いがMOCにおいて規定されていないためと言われている。

 上述の通りARFPの普及に向けた課題は少なくないと思われるが、まずは参加国内でのルールをしっかりと定め、シンガポールを含めた既存のASEAN CISの参加国をARFPに取り込むことが成功の鍵となる。その上でさらに多くの国や運用会社にARFPへの参加を呼びかけていき、EUのUCITS(※4)のように、ARFPのファンドが自身の制度の範囲域外(アジア域外)にも広がるように制度が育っていけば大きな成功と言えるだろう。

 ただし、UCITSの普及には多くの年月がかかっている。ARFPでも開始直後は様子見という国も多いだろう。そうした点も含め、普及にはある程度の時間を要すると思われる。そのため、長い目で制度が成熟するよう育てていく必要がある。

1) 詳細はAPECの以下のサイトに公表されているMOCの文書を参照のこと。
http://fundspassport.apec.org/files/2016/04/Asia-Region-Funds-Passport-Memorandum-ofCooperation.pdf
2) MMOUはクロスボーダーの取引が増加する中、不正取引の防止に向けた国家間の活動の協力を定めたものである。MMOUに調印している機関のリストはIOSCOの以下のサイトに公表されている。
https://www.iosco.org/about/?subSection=mmou&subSection1=signatories

3) これは例えばA国籍のファンドをA国、B国の投資家がそれぞれ保有した際の様々な益に掛る税の論点(投資家レベルの税の公平性)や、A国籍のファンドとB国籍のファンドがA国の銘柄に投資した際の様々な益に対してそれぞれのファンドに掛る税の論点(ファンドレベルの税の公平性)等がある。
4) UCITSはUndertakings for Collective Investment in Transferable Securitiesの略で、欧州版のファンドパスポート制度である。

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Writer’s Profile

窪寺祐也

窪寺祐也Yuya Kubotera

投資情報サービス開発部
主任コンサルタント
専門:証券分析と金融制度調査

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