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顧客本位の業務運営に関する原則

2017年3月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

金融庁が「顧客本位の業務運営に関する原則(案)」を公表した。国民の安定的な資産形成に資する投資の拡大のためにも、銀行や証券会社、投資運用会社等による顧客本位の業務運営の確立が求められている。

顧客本位原則案の公表

 2017年1月、金融庁が「顧客本位の業務運営に関する原則(案)」を公表した。これは昨年末に取りまとめられた金融審議会市場ワーキング・グループ報告の提言内容を踏まえ、銀行や証券会社、投資運用会社など金融商品の販売や金融サービスの提供に携わる金融事業者が、業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる原則を定めるものである。

 原則に盛り込まれる規範の具体的な内容は、原則2から6に掲げられている。すなわち、①顧客の最善の利益の追求、②利益相反の適切な管理、③手数料等の明確化、④重要な情報の分かりやすい提供、⑤顧客にふさわしいサービスの提供、といったものであり(図表参照)、一部の原則については、本文の理解を助ける「注」も付されている。

 原則の受け入れを表明する金融事業者は、原則1に基づき、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況の定期的な公表や当該方針の定期的な見直しを求められることになる。また、原則7に基づき、報酬・業績評価体系など、従業員に対する適切な動機づけの枠組みやガバナンス体制の整備を求められることになる。

 もっとも、原則は禁止行為を定める法令のような固定的なルールではない。原則の内容をどのように具体化するのかは、受け入れる金融事業者の判断に委ねられる。

 日本の個人金融資産の構成は、国際的にみても預貯金に著しく偏っている。超低金利が持続し、預貯金がほとんど意味のあるリターンを生まない中、多くの国民が社会保障制度だけに頼らない豊かな老後を実現するためには、リスクを伴う投資性の金融商品の割合を高め、安定的な資産形成を図ることが急務である。

 そこで金融庁は近年、中長期的な資産形成に資する「長期・分散・積立」型の投資の拡大を呼びかけている。そのためにも、金融商品販売の最前線にある銀行や証券会社、商品組成を行う投資運用会社などが、短期的な手数料収入ばかりにとらわれない顧客本位の業務運営を確立する必要があるとして、今回の原則策定に至ったのである。

原則案の特色

 今回公表された原則の案は、適用対象となる金融事業者を定義していないなど、多様な解釈と柔軟な対応を可能にするものとなっている。また、例えば原則6の顧客にふさわしいサービスの提供の内容が、法令で求められる適合性原則の堅持を求めているように、既存のルールと重なるような内容も盛り込まれている。

 そもそも原則を受け入れることは法令上の義務ではないので、銀行、証券会社等が原則の受け入れを表明しなかったり、方針の策定・公表を行わなかったりしたとしても、直ちに法令違反として業務改善命令などの行政処分を科されることはない。

 こうした仕組みがとられたのは、金融庁が、銀行、証券会社等に対して、法令が求める最低限の義務を形式的に果たすだけでなく、望ましい対応がどのようなものかを個社のビジネス・モデルや顧客層に即して深く検討した上で、真に顧客本位と言えるような業務運営を実現して欲しいと強く願っているからであろう。

 また、個々の原則に対する対応についても、実施する場合には、原則に付された「注」も含めた対応方針を、実施しない場合にはその理由や代替策を分かりやすい表現で示すことが求められている。

 原則の内容自体が抽象的なだけに、単に「原則を受け入れ実施します」という決まり文句を並べるのではなく、個社の置かれた状況に即した具体的な対応方針の策定が期待されているのである。「コンプライ・オア・エクスプレイン」よりも踏み込んだ「コンプライ・アンド・エクスプレイン」が求められると言っても良い。

期待される創意工夫

 一般顧客向けのリテール業務を行う銀行、証券会社等にとって、自主的な判断に委ねられるとはいえ、原則の受け入れを拒むことは難しいだろう。今後、各金融事業者は、対応方針の策定に向けた具体的検討や方針の実施状況の評価や見直しなどの枠組みづくりに追われることになる。

 その際に検討すべき点は数多い。フィナンシャル・グループで共通の方針を設けるのか、個社に委ねるのか、現場の取り組みをどうチェックするのか、どういうサイクルで方針を見直すのか、新たな金融商品やマーケティング手法の登場にどう対応するのかなど、課題は山積している。

 原則の策定を求めた市場ワーキング・グループの審議過程では、「当局向けではなく顧客向けの対応方針を策定して欲しい」といった声も出た。資産形成のための金融商品購入を考える個人にとって、口座開設や商品選択の手掛かりともなるような分かりやすい方針を策定し、実行することが望まれているのである。

 これまで、ともすれば金融業界の制度変更への対応は横並びになりがちであった。今回の原則への対応方針策定では、各社の創意工夫が強く望まれる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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