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顧客本位の運用報酬体系に向けての新たな試み

2017年2月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員 堀江貞之

運用会社が顧客から受け取る運用報酬は、これまで固定報酬制と実績連動報酬制の2つの体系が存在した。どちらも顧客との利害の一致という面では課題があり、付加価値シェア制という新たな報酬制度が登場した。運用会社の運用能力と財務力を見極める必要があるが、顧客本位の運用報酬制を議論する上で興味深い。

 国民の安定的な資産形成を促進する上で、運用会社や販売会社が顧客本位の業務運営を行っているかどうかは極めて重要であり、日本でも大きな議論になっている(※1)。その中で、顧客へのサービスの対価として受け取る手数料をどう決定するのかについても様々な意見が出されている。本稿では、運用会社が顧客から運用の対価として受け取る運用報酬について、顧客本位の内容とはどのようなものか考えてみたい。

主たる2つの体系:固定報酬制と実績連動報酬制

 運用報酬体系には、大きく固定報酬制と実績連動報酬制(成功報酬制とも呼ばれている)の2つが存在する。固定報酬制は、投資金額に一定の料率を掛けた額を運用報酬として受け取るものである。投資金額が増加するにつれ、料率を逓減させるのが一般的である。例えば投資額100億円までは1%の料率とし、200億円に増加すると追加的な100億円に対しては0.5%の料率を適用するといった方法である。

 一方、実績連動報酬制は、固定報酬制よりも基本報酬率を低く設定する替わりに、ベンチマーク(※2)に対し獲得した超過リターンに一定料率を掛けた成功報酬を受け取る。例えば、ベンチマークに対して10%の超過リターンを獲得した場合、その超過リターンに1割の料率を掛け、10%×1割=1%の成功報酬を受け取るのである(図表のA点からB点の期間)。

 固定報酬制では投資金額が大きくなるほど運用会社の運用報酬額が増えるため、運用会社には投資金額を増やしたいという誘因が働く。しかし株式投資では投資金額が大きくなるに従い売買による取引コストが嵩み、超過リターンが出にくくなる傾向がある。投資金額を増やしたい運用会社の利害と、超過リターンを高めてほしい顧客の利害は対立しやすくなる。

 こうした点を考えると、顧客本位という観点からは実績連動報酬制の方が良いように思われる。超過リターンが上がるほど運用会社の運用報酬額は増加するが、顧客が運用報酬支払い後に得る絶対リターンは高くなり、顧客と運用会社の利害がある程度一致していると考えられるからである。

 しかし実績連動報酬制にも課題が存在する。高い超過リターンを上げ、多くの成功報酬を得た後に、超過リターンがマイナスになった場合を考えてみよう(図表のB点からD点の期間)。顧客がA時点からB時点の超過リターンに対して既に支払った成功報酬(このケースでは1%)は、超過リターンがマイナスになっても一般的には戻ってこない。さらに基本報酬率も支払わなければならない。顧客から見ると不公平と感じる点である。

 運用会社の動機付けという観点からみても課題がある。運用会社は投資開始来の累積超過リターンが、過去、成功報酬を得たレベル(図表のE点)まで達しない限り、追加的な成功報酬を得ることができない(※3)。そのため、過度のリスクを取っても超過リターンを獲得しようとする誘因が働く。また現在の累積リターンの水準が投資開始来の累積超過リターンの水準よりもかなり低い場合(例えば図表のD点にいる状況)、もう一度成功報酬を獲得することは難しいと考え、運用会社を一度解散して新たな運用会社を立ち上げる方がビジネス戦略上得策だと思うかもしれない。つまり実績連動報酬制でも顧客と運用会社の利害が一致しない場合が発生するのである。

付加価値シェア制度の利点と注意点

 今述べた実績連動報酬制の欠点を補うべく、登場したのが「付加価値シェア制」と呼ばれる報酬体系である。その特徴の一つは固定報酬が発生しない点である(※4)。その替わり、決められたベンチマークに対する超過リターンの一定割合を成功報酬として顧客から受け取る。この割合は典型的には50%程度で、実績連動の報酬制に比べてかなり高い。一方で超過リターンがマイナスになった場合は、そのマイナス分に一定割合を掛けた金額を顧客に支払う(※5)。例えば図表のC点で超過リターンが累積でゼロになると、A点からB点までの超過リターンに対して払われた成功報酬を顧客に戻すのである(※6)。

 この報酬体系は、決められた割合で超過リターンを顧客と運用会社の間で完全にシェアするものであり、超過リターンがプラスにならない場合、顧客には手数料が全く発生しない。実績連動報酬制のように、超過リターンの出方によって運用会社と顧客の間で超過リターンの配分に不公平が生じることはない。運用会社が運用報酬を得るために、できるだけ高い超過リターンを獲得しようという動機付けがなされた報酬体系と言えるだろう。

 しかし注意点も存在する。運用会社が付加価値シェア制を維持するには、長期にわたって超過リターンを獲得することが必要になる。そうでなければ運用会社は顧客から報酬をもらわずに運用を継続することになるからである。これではビジネスとして成立せず、遠からず報酬体系を維持できなくなるだろう。運用会社がこの報酬体系を維持するに足るだけの運用能力及び財務力を備えていることが付加価値シェア制の前提条件になるのである。

 付加価値シェア制は、筆者が知る限り10年以上前から存在しているが、今に至るまで利用は極めて限定的である。長期継続的に超過リターンを提供するのが難しいこと、財務力の高い大規模な運用会社でこのような報酬体系を採用しているところがないなどの理由が関係しているのであろう。しかし、近年、大規模な運用会社の中にもこの報酬体系を顧客に提示し始めたところが現れている(※7)。

 運用報酬は安ければ良いというものではない。優れた投資商品を提供するにはコストが掛かり、そのコストは運用報酬という形で顧客が一部を負担しなければ、商品を継続して提供することができないからである。顧客本位の報酬体系とは、運用会社が顧客に高いリターンを提供できるようにインセンティブが付けられたものであり、顧客と運用会社がパートナリングできる内容が望ましい。そのような運用報酬体系は何かを、顧客と運用会社が継続的に議論していくことが重要ではないか。

1) 例えば、金融庁の金融審議会・市場ワーキング・グループ報告「国民の安定的な資産形成に向けた取組みと市場・取引所を巡る制度整備について」(2016年12月22日)の中で、運用会社を含む金融事業者に対して「顧客本位の業務運営に関する原則(プリンシプル)」が提示されており、金融事業者が顧客本位の業務をどのように行っているのかについて積極的に情報開示することが求められている。
2) 日本株式の場合、TOPIX、JPX日経400、日経225平均などが主要なベンチマークである。
3) この投資開始来の最も高い累積超過リターンの水準をハイウオーターマークと言う。この水準を超えない限り追加的に成功報酬を受け取ることが出来ないという条件をハイウオーターマーク条項と呼ぶ。
4) つまり基本の運用報酬はゼロということである。
5) 一般的にこれをクローバック条項と呼んでいる。これまでもクローバック条項の付いた報酬制度は存在したが、固定報酬ゼロという事例はほとんど存在しなかった。
6) ただしC点からD点までのように超過リターンがマイナスになった場合、運用会社がマイナス部分に対して追加的に報酬を支払うことはない。報酬の下限はゼロであり、マイナスにはならない。
7) 例えば運用資産額が3兆円を超えるOrbis Investment Managementはこの報酬体系を顧客に提供している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

堀江貞之

堀江貞之Sadayuki Horie

金融ITイノベーション研究部
上席研究員
専門:資産運用関連の先端動向調査・研究

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