1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融機関経営
  6. 地域金融機関のRAF導入における留意点

地域金融機関のRAF導入における留意点

2017年2月号

金融ITナビゲーション推進部 上級研究員 川橋仁美

ここ数年、地域金融機関の間でもリスク・アペタイト・フレームワークに対する関心が高まっている。RAF導入に際して大手行の事例を参考としている地域金融機関も多いと思う。しかし大手行の事例を真似るだけでは実効性の高いRAFは構築できない。

 ここ数年、地域金融機関の間でもリスク・アペタイト・フレームワーク(以下、RAF)に対する関心が高まっており、RAF導入を試行するところも出てきている。足もと地域金融機関のRAFに対する関心が高まっている理由は、大きく二つあると考える。一つは、大手行の検証項目になったので、いずれ地域金融機関にもRAF構築が求められるのではないかという規制対応という観点からのものである。もう一つは、マイナス金利や将来の人口減少など様々な経営課題を抱え、抜本的な経営改革の必要性を感じている地域金融機関も多く、RAFがその解決の一助となるのではないかという観点からの関心の高まりである。ここ1~2年は、後者の割合が高まっていると感じている。後者の目的、つまり金融機関の内部管理や意志決定に資する実効性の高いRAFを構築する上で、地域金融機関は、次の3点に留意する必要がある。

自社に合ったRAFの探索

 RAFを構築するに当たって、現状、多くの地域金融機関は、2013年11月に金融安定化理事会(以下、FSB)が公表した「実効的なリスク・アペタイト・フレームワークの諸原則」や大手行の取り組みを参考としている。しかし、諸原則に示された要件を満たすことや大手行の事例を真似ることでは、本当に自社に適したRAFを構築することはできない。それは何故か。そもそも地域金融機関と大手行とでは、規模、ビジネス・モデル、事業ラインや顧客基盤だけでなく、経営や事業運営の考え方に大きな違いがある。RAFは、こうした違いに即したものでなければ、実効性が高まらず、真の意味で経営の意志決定や内部管理に活用することはできない。それ故、海外の金融当局では、金融機関に対してRAF構築を求めているものの、詳細なガイドラインを出していないところも多い。わが国においても、「平成25事務年度金融モニタリング基本方針」で初めてRAFが大手行の検証項目となったが、未だガイドラインは出ていない。

 大手行に限らず、地域金融機関の間にも少なからぬ違いが存在する。ここ2年ほど、RAFについて地域金融機関の方々と意見交換をする機会が増えたが、意見交換を重ねれば重ねるほど、個別性を実感することが多い。それは、経営スタイルがトップ・ダウン型かボトム・アップ型かという違いだけではなく、事業運営に対する考え方やリスクに対する姿勢、企業文化やその浸透度、そして地域性など多岐にわたる。ここに、同じ地域金融機関でも最適なRAFは異なるという理由がある。

 RAF構築プロセスは、自社に合ったRAFを探索するプロセスである。それ故、RAF構築には、時間と労力がかかる。これが、定められた期限までに要件を満たすことに力点を置いたこれまでの規制対応のやり方と決定的に異なる点である。

 自社に適したRAFを構築するためには、第一に他行がこうやっているからという横並び意識を捨て、自社にとって必要な管理フレームワークとはどんなものかを突き詰めて考えることが必要になる。つまり自分自身を良く知ることが重要である。FSBの諸原則や他社事例は、こうしなければならないという要件としてではなく、本当にそうすることが必要なのか、もっと自社に適したやり方があるのではないかについて検討し、判断する一つの視点を提供しているに過ぎない。

 第二に、失敗を受け入れ、フレームワークの改善に取り組む姿勢が必要である。RAFの実効性を高めるためには、試行錯誤は避けて通れない。日本の金融機関には減点主義が根強いが、失敗を許容しないという姿勢は実効的なRAFの構築には大きな障害となる。海外金融機関では、大きな失敗をした後にRAFの実効性が高まったという経験を持つところも多い。

経営資源に見合った取り組み

 一般にRAF構築のプロセスは、大きく二段階に分けられる。まずグループや全社など組織の最上位単位でRAFを構築・運用する段階。次に子会社や事業部門など、より小さな単位でRAFを構築・運用する段階である。実効的なRAFの構築には息の長い取り組みが必要であるが、大手行比、経営資源に限りがある地域金融機関にとっては、上記のような包括的かつ組織横断的な取り組み方法は負担も大きい。その結果、組織全体にリスク・アペタイトが浸透せず、RAFの実効性が高まらないという状況に陥る可能性がある。

 海外金融機関では、より確実なリスク・アペタイトの浸透と定着を図るためにRAF構築の取り組みにも様々な工夫をしている。例えば、リスク・カテゴリ別や事業ライン別に順番にRAFを構築するなど、部分的かつ段階的な取り組みをしているところもある。一般に市場リスクや、市場及び投資銀行部門などは、関係者数も少なくRAF導入が円滑に進むと言われている。こうした部分的な取り組みにより、小さい単位で上手くRAFを構築・運用できれば、グループや会社全体のRAFの構築・運用に弾みがつく。また個々のリスクや事業ラインに着目することで、当該リスクや事業に即したフレームワークの構築が可能になるというメリットがある。自社の経営資源に見合った方法でRAF構築を進め、組織全体で成功体験を共有することが欠かせない。

長期目標との繋がり

 経営環境が厳しさを増す中、足もとの収益目標達成のためにRAFを積極的に活用したいという地域金融機関も少なくないと考える。しかしRAFを足もとの収益向上のみを目的として活用することは、組織としての戦略の選択肢を狭め、そこで無理をすれば、過度なリスク・テイクという予期せざる結果を招く可能性があることを理解する必要がある。RAF構築の最終目標は、RAFの運用を通じて業績向上に寄与する状態を作り出し、それを長期間にわたり維持することにある。足もとの収益にとらわれるあまり長期的な収益機会やリスクを見逃してしまっては本末転倒であり、RAFの本来の趣旨に反する。

 RAFの出発点であるリスク・アペタイトは、地域金融機関としてどうあるべきか、どうなりたいかという組織としての長期目標を示すものである。そしてRAFは、足もとの収益目標の達成に追われがちな日々の業務運営において、長期目標であるリスク・アペタイトを遵守するために、今、何をすべきで、何をすべきでないか、組織全体を正しい方向へ導くツールである。組織の長期目標との繋がりのないRAFは、RAFとは言えないのである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

川橋仁美

川橋仁美Hitomi Kawahashi

金融ITナビゲーション推進部
上級研究員
専門:ALM、リスク管理、内外金融機関経営

このページを見た人はこんなページも見ています