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国民皆私的年金として活用されるためのiDeCoの条件

2017年1月号

金融ITナビゲーション推進部 上級研究員 金子久

制度改正により60歳未満のすべての人が個人型確定拠出年金を利用できるようになるが、直近のアンケート調査によると、同制度の申込希望者は現状では149万人に留まる。しかし、手続きの簡素化と運営管理業務の専担規制の見直し次第では、申込希望者は846万人に拡大する可能性もある。

 「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」が2016年6月3日に公布された。これにより専業主婦や企業年金加入者、公務員も含め、基本的に60歳未満のすべての人が個人型確定拠出年金(愛称「iDeCo」(イデコ))を利用できるようになった。この改正は主務官庁が企図する私的年金制度の拡充の観点のみならず、政府全体で推し進める経済全体の成長資金の供給という観点からも注目に値する。そこで、本稿では、2016年10月に当社が実施した「iDeCoに関するアンケート調査(※1)」から予想される市場規模や普及のため課題について述べてみたい。

iDeCoへの申込希望者は149万人に留まる

 以下の分析は、25歳以上60歳未満で、確定拠出年金(以下「DC」)に加入していない自営業主(※2)及び民間企業のサラリーマン、公務員・私立学校教職員(以下では「公務員等」という)、専業主婦を対象としており、これら4,063万人のiDeCoに対する意識の推計といえる。

 アンケートではiDeCoについて認知状況と加入意向、加入手続きの負担感等について聞いた(※3)。iDeCoの「内容をある程度知っている」という人は、全体の13.9%(図表中の(A))で、この中でiDeCoに加入したいと考えている人は39.2%((B)。全体の5.5%)であった。さらに、この加入意向者にiDeCoの加入前後の手続きの中で特徴的な5点、①加入手続きはネットで完結しない、②基礎年金番号の記入が必要、③サラリーマンの場合は勤め先の証明書が必要、④申込から口座開設までに1.5~2ヶ月程度の期間がかかる、⑤住所変更や掛金額の変更では書面の提出が必要、を説明し、加入意向に変化があったかを聞いた。その結果、それでも申し込みたいという人は(B)のうちの67.3%((C)。全体の3.7%)となった。

 これを基に人数を推計すると、iDeCoへの加入申込を希望する人は4,063万人の中で149万人に過ぎない。この中の大半は「いつかは申し込みたい」程度の考えの人で、「2017年末までに申し込みたい」と考えている人は60万人(※4)(図表中の(D)。全体の1.5%)に留まる(※5)。

浮かび上がる普及への障害

 この結果をどう評価すべきであろうか。DC制度の実務家の中には想定の範囲とか、想定以上だという人もいるだろう。しかしながら、私的年金制度の普及や経済全体の成長資金の供給という大局的な観点からみれば、もっと多くの人が利用し資産運用に取り組む状況を目指すべきで、アンケートのような受け止められ方ではインパクトに欠ける。こうした状況に留まっている原因についてアンケートを基に考えると、まず、手続きの煩雑さが挙げられる。先に述べたように、申込等の手続きの概要を知っただけで、多くの人が加入意欲を失っている。手続きに関する障害を排除できれば、申込希望者の割合は5.5%(人数は222万人)に増加する。

 また、認知度の低さも問題だ。先に説明したように、iDeCoの「内容をある程度知っている」と言う人は13.9%しかいない。これは、主として金融機関からの情報提供が少ないためと考えられる。今回のアンケートでiDeCoの利用可能範囲の拡大を知っている人に、それを知った情報源を聞いたところ、金融機関の窓口・営業担当から聞いたという人は5%に満たなかった。NISAについて同様の趣旨を導入前にアンケート調査した際には20%程度であったことと比較して、明らかに少ない。金融機関による情報提供が進み、現在はiDeCoの内容を知らない人にもその内容が理解された場合、申込希望者(いわば潜在的利用希望者)の割合は、20.8%(図表の(B)と(E)の合計。人数は846万人)にまで増加すると、今回のアンケート結果から予想される。

 さらに、運用商品の選択や配分に関する人々の判断も資産運用に取り組むに当たって障害になっている。潜在的利用希望者の中で商品の選択や配分を決めることが難しいと思う人は63.0%に達し、希望する資産配分を尋ねても、元本確保型商品の配分割合が平均で72.4%となった。商品選択や資産配分で参考にしたい情報としては、担当者の説明や資料等を含む金融機関の情報が過半を占め、多くの人々が資産運用に取り組むことになるかの鍵は、金融機関の対応が握っているといえる。

iDeCoが広く活用されるための2つの条件

 これらの障害を克服するための条件もアンケートから明らかだ。第一に手続きの簡素化が挙げられる。短期的には、職域での加入手続きを一般化する等の対策が重要だ。アンケートでも5つの手続きの中で勤め先の証明書の取得を負担に感じている人が最も多かったことから、勤め先の協力を前提とする職域での加入手続きを一般化することは、加入希望者の負担軽減につながる効果が期待できる。さらに長期的には、申込手続きの抜本的な簡素化のため、制度そのもののシンプル化を検討すべきだ(※6)。複雑な拠出限度額は加入者の公平性を保つ上で重要であることは理解するが、それが普及への大きな障害になっているのであれば、大きく公平性を崩さない範囲で拠出限度額のルールを単純化すべきであろう。

 また、金融機関における金融商品の営業業務とDCの運営管理業務の兼業禁止規定(※7)の大幅緩和がもう一つの重要な条件だ。現状でも営業担当者がDC加入前の人に制度を紹介することなどは限定的に認められているが、多くの金融機関は顧客と継続的な付き合いが期待される担当者に制度の紹介を担当させることについて慎重に考えざるを得ない。この兼業禁止規定があるために、加入後の顧客に対して営業担当者は商品の説明が行えず、顧客に年金運用として適切な資産配分を促すことにも支障を来すことが予想される。兼業禁止規定は顧客の金融機関に対する期待からも乖離しており、制度の幅広い普及のためには、兼業禁止規定の見直しは喫緊の課題だ。

 以上の2つの条件が整備されるのであれば、確定拠出年金は改正趣旨に沿う形で、普及に弾みがつくと今回のアンケートは示唆している。

1) 本調査は25歳以上60歳未満の人を対象に2016年10月15日~18日に実施したインターネットアンケートである。公的年金の被保険者の種類や保有資産構成などは他の信頼できる統計と差があったため、集計において他の信頼できる統計に合わせてサンプル数補正(ウェイトバック)を行っている。
2) 自営業主以外の第1号被保険者(学生・無職の者・家族従業員など)もiDeCoに加入することは可能であるが、サンプル数が少なかったり判定が難しかったりしたため、今回の集計から外している。
3) 「iDeCo」という愛称が知られていないことを踏まえて、アンケートでは「個人型確定拠出年金」という名称を使い、申込意向などを聞いている。
4) もっとも、手続きについてはアンケートの中で概要が理解されたに過ぎず、現実に手続きを行う段階では躊躇する人はさらに増え、加入手続きを行う人は減少するはずだ。従って、iDeCoの加入申込者は当初年間数十万人程度と考えるのが適当であろう。
5) 「2018年」と考えている人は、最大でも7万人と見積もられる。
6) 現在、iDeCOでは、公的年金や企業年金の加入状況によって、拠出上限が事細かく定められている。加入者の拠出額が限度額を超えていないことをチェックするために必要とされる手続きも多い。
7) 現在、「確定拠出年金の運営管理業務は加入者等の利益のみを考慮して中立な立場で行う必要があり、運営管理業務を行う機関に対する国民の信頼性が確保されるよう、金融商品の販売等を行ういわゆる営業職員は運用関連業務を兼務してはならない」として、金融商品の営業と確定拠出年金の運営管理業務の兼業が禁止されている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融ITナビゲーション推進部
上級研究員
専門:個人金融マーケット調査

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