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流動性リスク管理への取り組みとその課題

2017年1月号

資産運用サービス事業二部 上級システムエンジニア 馬場崇充

アメリカでは流動性リスク管理に対する規制が予定されており、日本でも資産運用会社において流動性リスク管理に関する議論が始まりつつある。ただ、流動性リスク管理は難易度が高く、取り組みには課題が多くある。

 流動性リスクに関する議論は、世界的に近年盛んに行われている。2016年6月に金融安定理事会(FSB)より公表された「資産運用業の活動からの構造的な脆弱性に対応する政策提言案」では、特にファンドの投資とファンドユニットの解約に係る契約条件の間の流動性ミスマッチが、重要な脆弱性として指摘された。2015年9月には米国証券取引委員会(SEC)から、「投信及びETFの流動性リスク管理の規制案」も提案されている(※1)。

 こうした動きを受けて、日本の資産運用会社の間でも徐々に議論が始まりつつある。しかし流動性リスク管理の重要性は理解するものの、実務上の有効性に懐疑的であったり、管理が困難であるとの認識であったりと、実際の管理へ向けてはまだ課題も多い。そこで本稿では流動性リスク管理の概要と、取り組みへの課題をまとめる。

ファンドの流動性リスク管理とは

 そもそも、なぜ流動性リスク管理が必要なのか。例えば、ハイ・イールド債券のように流動性の低い資産で構成されたファンドを投資家が解約した場合を考える。投資家は即時解約が可能だが、ファンド側はその解約により相対での債券の売却相手(買い手)を探さねばならず、資金の投資運用と設定・解約の間に期間の相違が発生する。こうしたファンドで大量の解約が出た場合には、流動性の高い資産から順に売却されて流動性が低い資産だけが残るため、投資家の負う流動性リスクのコストはいつファンドを解約したかで全く異なる。このようなケースをIMFでは「流動性ミスマッチ」と呼んで、危険性を指摘している。こうした状態に陥ることを防ぐためには、ある一定程度の流動性を常に保有しておくこと、つまり流動性リスク管理が必要となる。

 では流動性リスク管理の具体的な方法はどのようなものか。SECが提案した流動性リスク管理プログラムより概要をまとめる。このプログラムでは、流動性リスク管理について大きく3点の方針を挙げている。

 1点目はポートフォリオ資産を換金性により6つに分類することである。ファンドの各資産について、換金可能な日数が1営業日、2~3営業日、4~7日、8~15日、16~30日、30日を超える場合、の6つに分けて管理を行う。同じ資産内でも、1営業日で換金できる金額と2~3営業日で換金できる金額を分解して管理を行う。各資産の流動性を適正に評価することがこの管理のポイントである。上場の有無、出来高に対してのポジションの量、取引価格のボラティリティなどを資産毎に確認し、換金性を把握して管理しておかねばならない。

 2点目はファンドの流動性リスクの定義の見直しを定期的に行うことである。ファンドが「NAVに著しい影響を与えずに投資家の解約に応じる」ことができる、リスクの低い状態であるかどうかを把握するため、流動性リスク(リスクとなる水準)は適宜見直しを行う。ファンド毎に、過去の設定解約の規模や、購入している投資家の投資性向、解約のポリシーの内容などに鑑みてファンドのキャッシュフロー予想を行い、ファンドの運用戦略や資産の流動性と見比べて、リスクとなる水準を見直すことが必要となる。

 3点目はファンドの解約を行う3営業日以内に換金可能な流動資産の割合に、下限を設定すること、である。下限数値は、ファンド毎の流動性リスクに基づき設定される。また、同時に非流動性資産、プライベートエクイティの保有については保有割合の上限値を15%とする制限も設定される。こうした資産割合の制限により一定の流動性確保が求められる。

 さらに、これら3点の取り組みについて、取締役会の認可と監視を義務づける点も言及している。

流動性リスク管理に取り組む場合の課題

 受託者責任の強化が課題となっている昨今、米国で問題となった流動性の低いハイイールドファンドの組み入れは日本でも行われており、まさに危機意識を持って今後の規制適用やそれに先んじた取り組みの実施が必要となる。そこで、実際に流動性リスク管理に取り組む際に課題となるポイントを、ここでまとめておくことにする。

 まず一つ目は、資産ごとの流動性を計測するために必要なデータの整備における課題である。上場株式のような資産は流動性計測のモデルが発達しており、計測に必要な時系列ごとの取引データや価格データが入手しやすい。しかし例えば債券の場合は同様のデータをすべて入手することは困難だ。店頭デリバティブなどの資産では更にその傾向は強まる。現状資産運用会社で行っている流動性の計測は、発行額に対しての保有割合の確認など、入手可能なデータを用いた簡易的測定に留まっている。流動性計測の精度を向上させるには、現状入手困難なデータの入手方法を検討・確立する必要がある。ただまずは、簡易的であっても測定を開始することが望まれる。

 二つ目は、シナリオの設定に関する課題である。流動性の評価では、様々なストレスシナリオを策定し、その影響が及ぶ範囲などから各ファンドの流動資産の保有水準の妥当性を確認することが肝要となる。しかしこのシナリオの設定は容易ではない。例えば資産売却におけるストレス期はリーマンショックのような市場が荒れた時が適当と考えられるが、ファンド解約におけるストレス期は投資戦略や保有開始時期によって投資家の解約行動が異なるため、両者のストレス期が必ずしも一致する訳ではない。また、疑似的に通常状態からストレス期を増幅させて設定する方法も考えられるが、この場合は逆にリスクを過大もしくは過小評価してしまう可能性もある。つまりは各ファンド一律の機械的な設定ではなく、ファンドの投資戦略や投資家層に沿ったシナリオを個別に確認し設定していく必要がある。

 最後は、流動性リスク管理に取り組むためのモチベーション形成の課題である。定期的に流動性リスクを計測する体制の整備にはかなりのコストが掛かる。ファンドマネージャーの自由度を削るため、パフォーマンスにも影響する。また、未だ日本では解約停止やそれに類するような状況に陥った前例はないため、逼迫感が薄いのが実状である。しかし、実際には低流動性のファンドは現実に存在し、危機意識の醸成が望まれよう。

 流動性リスク管理は難易度が高いが、2014年12月の投信法改正により信用集中リスクの管理とデリバティブ取引実施ファンドへのVaR計算が義務付けられたように、それでも確かに資産運用会社が次に取り組むべき課題の一つであることは間違いない。

 今後業界においてベストプラクティスへの議論が盛り上がっていくことを期待する。

1) その後、ファイナルルールが制定されており、2017年1月からの対応となる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

馬場崇充Takamitsu Baba

資産運用サービス事業部
上級システムコンサルタント
専門:資産運用向けソリューション企画

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