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骨子が固まったフェア・ディスクロージャー・ルール

2017年1月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

新たに導入されるフェア・ディスクロージャー・ルールの骨子が取りまとめられた。上場会社等が投資判断に影響を及ぼすような情報を公平にかつ積極的に発信していくことがルールを適正に機能させるための鍵となる。

FDルールの骨子

 このほど金融審議会のタスクフォースが、今後導入されるフェア・ディスクロージャー・ルール(以下「FDルール」)の骨子を取りまとめた(図表参照)。同ルールは、上場会社等が、未公表の重要な内部情報を証券会社のアナリストなど特定の第三者に対して選択的に開示することを禁じるものであり、欧米諸国では既に制度化されている(詳しくは本誌2016年7月号掲載の拙稿参照)。

 FDルールは、上場会社など発行者の役員やIR(インベスターリレーションズ)部門の担当者など、証券会社や投資運用業者など市場のプロフェッショナルとも呼ぶべき人々に情報を伝達する業務上の役割が想定される者に適用される。それら規制対象者が、市場のプロフェッショナルや発行者から得られる情報に基づいて発行者の有価証券を売買することが想定される者に対して、投資判断に影響を及ぼす重要な未公表情報を伝達した場合、発行者は速やかに当該情報を公表するよう義務付けられることになる。

 ここでいう重要な情報の範囲は、インサイダー取引規制で列挙されている重要事実と基本的に同じだが、それ以外の情報のうち、公表されれば発行者の有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性のある未公表の確定的な情報を含むものとされる。

 ただし、そうした重要な未公表情報を市場のプロフェッショナル等に伝達する場合であっても、守秘義務及び投資判断に利用しない義務を相手に対して課しているのであれば、原則として発行者は公表義務を負わない。もっとも、伝達した相手が守秘義務等に反して情報を他のプロフェッショナル等に漏洩したという事実を把握した場合には、公表義務が生じる。

 ここでいう「公表」には法定開示や適時開示のほか、発行者のホームページへの掲載が含まれる。

規制される情報の範囲

 規制の対象となる上場会社等にとって最も気になるのは、FDルールの下で特定のアナリストや機関投資家だけへの伝達が禁じられる情報の範囲だろう。

 この点をめぐっては、タスクフォースの検討でも実務の混乱を避ける観点からも、できるだけインサイダー取引規制における重要事実と一致させるべきという主張がなされた。そうした見解は傾聴に値するが、他方で今回の制度化が、決算発表前にアナリストが当期の業績についてヒアリングする「プレビュー取材」をめぐる不祥事を機に検討されたという経緯を踏まえれば、規制対象情報の範囲をインサイダー取引規制上の重要事実と厳密に一致させたのでは規制の意義が失われると言わざるを得ない。問題の事案で伝達された情報は、インサイダー取引規制上の軽微基準との関係で、重要事実だとは直ちに断定できない性質のものだったからだ。

 もっとも規制対象情報の範囲が際限なく拡がるのでは、発行者とアナリストや機関投資家との質疑応答などの対話が成り立たなくなる。ひいては市場全体に発信される情報の質や量が低下しかねない。

 この点についてタスクフォースは、他の情報と組み合わさることによって投資判断に影響を及ぼし得るものの、その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない、いわゆるモザイク情報は規制の対象外とすべきだと明言している。発行者側が新たな規制を過度に恐れて萎縮したりせず、明らかに株価を動かすだろうと思われる情報以外は、求められれば積極的に提供するという姿勢を貫くことが強く期待される。

今後の展望

 FDルールをめぐっては、欧米でも定着しており市場に悪影響は与えないと楽観視する向きもある。しかし、法令違反の誹りを受けるリスクを100%回避するために、アナリストや機関投資家との一対一や少数でのミーティングを取りやめる上場会社等が現れかねないとの懸念を単なる杞憂だと一蹴することはできない。

 また、今回取りまとめられた骨子では、報道記者など発行者の有価証券を売買することが想定されない者への情報提供は規制の対象とされていないが、規制への過剰反応が報道の自由に対する事実上の制約となるという懸念も完全には払拭できまい。

 それだけに、新ルールを有効に機能させ、情報へのアクセスの公平性を確保しながら、市場に発信される情報の質や量の維持・向上を図るためには、新ルール導入後の金融庁や取引所による上場会社等への積極的な指導・啓発活動が大いに期待される。

 また、長期的な課題としては、現在の極めて形式主義的で技術的なインサイダー取引規制を見直していくことも必要だろう。インサイダー取引規制を実質主義に転換できれば、フェア・ディスクロージャー・ルールとの整合性も確保しやすくなるからである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

注目ワード : インサイダー取引

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