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自動運転技術の発展とその影響

2016年12月号

グローバル製造業コンサルティング部 上級コンサルタント 晝間敏慎

自動運転車の開発競争が、IT企業や大手自動車メーカー、システムサプライヤー間で始まっている。遅くとも2030年までには一般公道を問題なく走行可能な技術・車両ができると考えられる。普及は事故責任や規制に関する共通認識に大きく左右されるが、自動車産業の大きな変化に備え、メーカー各社も自動車販売に頼らない事業構造への転換を視野に入れ始めている。

自動運転とは

 GoogleやTesla、Uberなど、いわゆるシリコンバレーの企業が、数年前から自動運転技術開発への取り組みを発表している。それ以降、世界中の自動車メーカーや各種システムサプライヤーの取り組みも加速した。正確には、欧州の自動車メーカーやシステムサプライヤーは10年以上前から、この分野の技術開発のゴールを自動運転として、開発を進めていた。加速しているのは、ゴールを自動運転にしていなかった日米の自動車メーカーやシステムサプライヤーの取り組みである。ただし、自動車の自動化・インテリジェント化は今に始まったことではない。アンチロックブレーキシステムなどは、1980年代中盤に普及が始まり、現在ほとんどの自動車に搭載されている。「自動運転」の定義は複数あるが、概ね図表の通りと考えて間違いない。

 一般的に、自動運転技術とはレベル3以上の機能を意味することが多い。現在は、レベル2の技術を保有している企業が、レベル3(以上の)技術の開発競争をしている。ちなみに、2016年初頭に死亡事故を起こしたTeslaや、すでに市販が始まっている「いわゆる自動運転機能」は全てレベル2技術に相当する。

自動運転を実現する技術

 自動運転を実現する技術を簡便に整理すると、以下の3つに分類できる。①目的地を理解し、走行ルートを決定し続ける技術、②道路上のどこをどのように走るかを、周辺のクルマ・歩行者・標識・路面・ガードレール・縁石などの状況を常に認識し続けながら決定し、危険を認識・予測して、警告を発したり、回避し続ける技術、③ドライバー(やその他の乗客)の状態を認識し続け、必要に応じて警告・指示を発したり、操作・指示を無視して、安全に走行・停止する技術(※1)。

 2016年現在、シリコンバレー企業、自動車メーカー、システムサプライヤーのいずれもが、レベル4以上の自動運転技術の開発を目指している。ただし、シリコンバレー企業の多くは、2020年前後にレベル4以上の技術を実用化する意向である一方、自動車メーカーやシステムサプライヤーは2020〜2025年頃にレベル3技術の市販を始める意向である。

 技術的な格差はほとんどない。実現目標時期に差がある理由は事故責任に対する認識の違いである。シリコンバレー企業の多くは、開発した技術を自動車メーカーに供与し、事故の責任を自動車メーカー等に負わせるつもりである。一方、自動車メーカーやシステムサプライヤーは、(これまでの長い事故訴訟の歴史に鑑み、)自動運転車の事故の責任を問われることを非常に危惧している。結果的に、事故回避の最終責任をドライバーに負担してもらうレベル3技術から段階的に市場に投入し、世の中の反応をうかがうつもりと思われる。

自動運転実現に向けた産業体制

 自動運転車以前では、電子システムを開発するシステムサプライヤーと自動車メーカーが共同で自動車を開発するのが一般的であった。しかし、現在の自動運転車開発では、先端自動車メーカーも先端システムサプライヤーも、それぞれが独自に自動運転技術を開発している。自動運転技術はほぼ電子技術であり、従来の開発体制ではほとんどの付加価値をシステムサプライヤーが寡占してしまうと、自動車メーカーが恐れた結果である。約10年前から欧州の先端自動車メーカーは、共同開発パートナーをシステムサプライヤーから半導体メーカーやアルゴリズム開発企業に切り替えた。逆に、欧州の先端自動車メーカーとの共同開発ができなくなった先端システムサプライヤーは、競合他社の買収・統合により、自動車に必要なほぼすべてのシステムを手に入れた。

 少なくとも2030年までは、先端自動車メーカーは独自開発の自動運転車を販売すると思われる。一方、自社開発ができない2番手以下の自動車メーカーは先端システムサプライヤーやITベンダーが提供するシステムを(ほぼそのまま)採用した自動運転車を販売することになると思われる。

 これは、パソコンやスマートフォンと同じように、機器ブランドメーカーと実際に製品のコア技術・部品の開発・製造を行う企業の水平分業化が、自動車産業にも本格的に浸透する始まりになるかもしれない。さらに、自動運転車の普及はカーシェアリングの普及を加速させるなど、自家用車の販売台数を大きく押し下げる危険性もあると考えられ始めている。実際、カーシェアリングサービスは欧米を中心に普及が始まっており、タクシー事業の圧迫のみならず、自動車販売にも一定の悪影響があることが定量的に明らかになりつつある。これらの結果を受け、大手自動車メーカーやシステムサプライヤー間では、自動車の出荷台数減少はすでに決まった未来であり、問題は「いつ」、「どのくらい」減るのか、になりつつある。

 このような見通しの下、大手自動車メーカーは、自動車の製造・販売に立脚した現在のビジネスモデルを、サービスを主体とした体制に変更することを考え始めている。考えられるサービスは、「カーシェアリングサービス」、「マルチモーダル移動のコーディネーションサービス」(※2)など移動のサービス化に加え、移動先からの広告・紹介料の徴収(※3)などインターネット広告にヒントを得たようなサービスも含まれる。さらには、事故を起こさない自動運転車で不要になる可能性のある保険サービスを故障予知・保全サービスとして取り込むことも考えている。

 前述のカーシェアリングサービス自体が、「誰が」「いつ」「どこに」行きたがるのかの情報を蓄積し、将来の自動運転サービス等に活用する情報収集とも考えられるし、自動運転サービスの潜在顧客の囲い込みであるとも考えられる。このように、自動運転車による産業構造変化への準備はもう始まっているのである。

1) ①は、ほぼカーナビゲーション機能である。地図に紐づいている情報をより詳細にすることで、より燃費の良いルート、より風景がよいルートなど、到着時間以外の判断を可能にするように発展しつつある。(特に自家用車以上に商用車で重視される。)
②の技術は、クルマの外の環境を常にモニタリングするセンサーとこれらセンサーからの情報を認識・判断する車載コンピュータである。レベル2では、センサーと認識・判断するコンピュータは一体化されており、センサーもカメラ(+画像認識)とミリ波レーダー(+物体認識)の2種類を搭載するのがすでに一般化しつつある。将来的には、これら2種のセンサーに加え、LIDERと呼ばれるレーザーレーダーを搭載した上で、個別センサーで個別の操作を判断するのではなく、3種(以上)のセンサー情報を組み合わせて、より高度な認識と判断をすることが計画されている。
③の技術は、車内のドライバー(等)をモニタリングするカメラやマイクなどのセンサーとこれらセンサーからの情報により、ドライバーが眠っていないか、意識喪失状態ではないか、酔っていないかなど、ドライバーの操作を無視すべきか否か、操作をドライバーに戻すべきか否かを判断する車載コンピュータである。
2) 自家用車、バス、鉄道、航空機など複数の移動手段を組み合わせて目的地までの最適な移動を提案するサービス。一部では、高速鉄道の座席予約まで可能なサービスの試行が始まっている。
3) GoogleなどITベンダーは、自動運転車によるタクシーサービスと検索広告を連携させ、移動料金の一部を検索により選ばれた目的地(の店舗等)から広告料や紹介料の名目で徴収する可能性がある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

晝間 敏慎

晝間敏慎Toshimitsu Hiruma

グローバル製造業コンサルティング部 自動車産業グループ
上級コンサルタント
専門:エレクトロニクス産業全般

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