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暮らしのデジタル化が進む中で、金融機関が目指す姿

2016年12月号

金融デジタルイノベーション推進室 上席コンサルタント 五十嵐文雄

FinTechの言葉は定着し、多くの金融機関が様々な対応を進めている。その中で、果たして金融機関は何を目指して、FinTechの対応やイノベーションの推進をしているのだろうか?金融機関は将来目指すべき姿を考える時期にきている。

 FinTechという言葉も随分と聞きなれ、定着してきた感がある。一方で、改めて何のためにFinTech対応をするのかという素朴な疑問を金融機関の方から聞く機会が増えてきている。

加速する暮らしのデジタル化と産業構造の変化

 我々の暮らしのデジタル化がものすごい勢いで進展しており、暮らしが大きく変わろうとしている。若者はスマートフォンでソーシャルネットのアカウントを使い、通話やメッセージの交換、写真・動画の共有を行う。電話番号やメールアドレスはもはや必要ない。デジタル化の流れは速く、つい最近、大手ECサイトの運営会社は10年続いたオークションサイトのサービスを停止した。これは、顧客のスマートフォン中心のフリーマーケットへのシフトという流れを見ての判断だという。

 身の回りでどんどん浸透しているデジタル化の波は、単に暮らしを変えているだけではなく、産業構造自体をも大きく変える。自動運転車の開発競争には目覚ましいものがあり、従来の自動車メーカーの競争に、テスラなどの新しい自動車会社のほか、グーグルやアップルなどのデジタル世界の大企業が次々と参入・提携を進めている。各社は争って、人工知能(AI)の導入のために多額の投資を計画し、通信大手とも共同の検討を進める。これは単なる自動車製品への活用ではなく、設計・製造工程などすべての工程への適応を考えてのことだという。すでに、様々なセンサーと通信が自動車自体と融合し、さらに人工知能の技術が注ぎこまれており、自動車はデジタルデバイスそのものである。自動車産業ではデジタルIT企業が主役になる可能性すらあり、従来の自動車メーカーもデジタル企業への変身を目指している。

FinTechで何を目指すのか

 暮らしのデジタル化にあわせ、金融機関各社はFinTechの対応を急いでおり、毎日のようにニュースリリースが出されている。家計簿ソフトの利用が拡大するなか、家計簿ソフトと連動する別のサービスを提供したり、家計簿ソフトと銀行のサービスが連携するなど対応を進めている。同時にAPIの活用についても議論が行われている。また、AIの活用やブロックチェーンの活用等も進められている。では、金融機関はなんのために対応を進めているのだろうか?

 他の金融機関や新規参入企業との競争に生き残るため、顧客視点のサービス提供と利便性の向上への取り組み、という回答は多い。顧客の利便性が上がり、使いやすくなることは非常に良いことであるが、現在の対応は、従来の産業構造の中で暮らしのデジタル化に合わせ必然的にやらなければならないことをやっているだけである。金融の産業構造が大きく変わることも予想される中で、いくら新しいスマートフォンのサービスを提供し顧客の利便性を高めたところで数年先にはその金融機関は生き残れないのではないか?

デジタル化の推進による生産性向上とコスト削減

 欧州金融機関では、今自動車業界で進んでいるようにデジタル企業が主役になることが金融業界でも起きると信じているトップが多い。また、従来の延長で単に顧客のデジタル化に合わせ対応しているだけでは、コストが積みあがるだけで、競争力の低下につながるとの意見も多い。その中で一昨年頃から、自らデジタル化を推進することにより生産性向上・コスト削減を目指し、新たなビジネスモデルへと舵をきる姿が見られている。

 たとえば代表的な取り組みとして、既存の融資審査プロセスの見直しがある。プロセスを見直し、ビックデータをAIで解析するなどにより審査時間を短縮し、融資の業務効率を高めている。ミスを削減するだけでなく、細分化された顧客分類毎の審査が可能となることで貸し出し先の拡大につなげている。更に、顧客基盤を持つ他の企業のECサイトから融資サービスを利用できるようにし、従来アクセスができなかった顧客への商品提供機会の拡大も行っている。このプロセスの見直しには、複数の部署のメンバーが集い、従来プロセスの見直しではなく、AIなどデジタルの活用を前提に新しいプロセスをつくることを主眼に検討を進めたとのことであった。店舗についても、人がサポートするデジタルチャネルの一つという意識が広がっている。店舗で顧客も社員も同じデジタルツールを使い、新たなプロセスで低コスト・高品質のサービス・商品を提供することを目指している。従来の効率の悪い非デジタル処理は極力排除するとのことである。

 これまでは顧客に直結する部分で顧客視点のサービスのデジタル化競争が行われていたのが、金融機関本来のビジネスプロセスのデジタル化競争になるということである。

従来型基準からの脱皮とデジタル企業への変身

 規制産業で変化がおきにくいと言われる日本の金融業界であっても構造変化は起きる。自らがデジタル技術を業務・サービスに取り入れ、生産性向上とコスト削減で競争力をつけ、顧客の間口を広げ、新たな体験、新たな金融を提案する銀行へと変革することが求められる。そうなれば、顧客は必要なときにいつでもどこでも使える金融インフラを通じ、それぞれの顧客の特性にあったサービス・商品を低コストで受けられることになる。

 この実現には、役職員がデジタルに精通し、従来の概念にとらわれないデジタルを活用した業務・サービス・商品を新たにつくることを考えなければならない。特に、従来人手の対応では採算性が低いといわれた分野であっても、音声応答やAIなどを活用し、積極的に取組む必要がある。

 そうした取り組みの際に必要となるのは、「従来の基準」を捨て去ることだ。筆者は今年イタリアの2つの銀行を訪問した。従来型の大手A銀行と2008年頃に設立されたB銀行である。どちらも店舗からテレビ会議を使って手続き/アドバイスを行うサービスを導入していた。A銀行の担当者は「以前より大幅な低コストで導入できた」と自慢げに話してくれた。ところがB銀行の担当者が言うには「A銀行もうちのサービスを取り入れているらしいが、コストはうちの2桁多い」。コスト削減についてもこれまでの「基準」を踏襲していては、変革は望めないということだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

五十嵐文雄

五十嵐文雄Fumio Igarashi

金融デジタルイノベーション推進室
上席コンサルタント
専門:国内外の金融サービスの調査、サービス企画

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