1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融市場
  6. テーパー・タントラムとイールドカーブ・コントロール

テーパー・タントラムとイールドカーブ・コントロール

2016年12月号

未来創発センター 戦略企画室 上級エコノミスト 佐々木雅也

アメリカのテーパリングでは、FRBが国債購入の縮小ペースを決める代わりに、長期金利の水準は市場が決めた。それとは対照的に、日本銀行は9月に行った政策変更で、同行が金利の水準を決める代わりに今後の国債購入量の減少ペースは市場に決めてもらおうとしているように見える。

テーパー・タントラムの再来はあるか

 ここ数年、低下傾向が続いていた日米欧の長期金利だが、今夏以降はやや不安定な動きを見せている。原油価格の下落が年初にとまったことで、同価格の下落が世界経済全体に与える物価の押し下げ効果が一巡してきていることに加え、日欧の中央銀行が行っている量的緩和政策が、国債の購入に対する様々な制約から縮小に向かうのではないかという思惑が市場に広がったことがその背景にある。

 量的緩和政策を縮小させるという話が出てくると、 市場関係者の頭に真っ先に浮かぶのが、2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が量的緩和政策の縮小について言及したことで始まった米長期金利の急上昇だ。この長期金利の急騰に始まる市場の混乱を、当時はかんしゃく(temper tantrum)という言葉に引っ掛けてテーパー・タントラム(テーパーかんしゃく、taper tantrum)と呼んでいた。

 問題は、今夏以降の長期金利の揺らぎが、これと似た現象なのかどうかである。

 量的緩和政策の効果については、インフレ期待に与える影響をはじめとして様々な観点から議論されているが、その一つとされるのがポートフォリオ・リバランス効果である。中央銀行が量的緩和政策によって国債や長期債の大量購入を行うと、その国の債券市場の需給バランスは、中央銀行が介入していない状態(=市場原理)よりも引き締まるので、国債の価格は本来の水準以上に上がり、長期金利は本来の利回りよりも低下する。すると、運用を行う金融機関などは、債券市場では利回りをとりにくくなるので、新たな収益源を求めて国債以外の資産、例えば、海外を含めた株式や不動産、企業向けの融資などに資金を移すようになり、これが経済に好影響を与えるとされている。

 仮にこの効果が、量的緩和政策によって金融市場で実際に起きているとしよう(実体経済に波及しているかどうかは関係がない)。すると、量的緩和を行っている中央銀行が国債購入のペースを縮小する可能性が高まった場合には、市場参加者は、必要以上に引き締まっていた国債市場の需給バランスが将来、緩むことになると予想するので、市場では起きうることを先回りする形で国債の価格が下がり、長期金利が上昇し始めることになる。

 今夏以降の長期金利の低下傾向のぐらつきが、日欧の中央銀行が購入する国債の量の変化を巡って起きたのであれば、これからも、量的緩和政策の変化に対する様々な観測が出てくるたびに長期金利が急騰する局面が出てくる可能性が高いことになる。

かんしゃくを避けるためにイールドカーブを固定する

 その一方で、量的緩和政策を実施している中央銀行からすれば、そうした政策の副作用を最小限に抑えようとして様々な知恵を絞ることになるはずだ。2016年9月に日本銀行が「総括的な検証」を経た上で、政策の軸をマネタリーベースの拡大からイールドカーブ全体を操作する方向へと移したのは、将来、国債を購入する量を減らすことで起きる金利急騰という副作用を抑えようとした「知恵」の成果ではないかと思われる。

 現在、日本銀行は保有する国債の残高が年間約80兆円のペースで増えるように国債を購入している。これは、日本の年間の財政赤字、つまり新規の国債発行額を大きく上回るペースである。この状況を日本銀行が続ける限りは、国債の市場での希少性は高まる一方なので、国債の利回りは低下(価格は上昇)し続けることになる。つまり、日本銀行が年間80兆円のペースで国債を買い続ける限りは、イールドカーブはフラット化し続けることになるわけだ。

 ところが今回、日本銀行は、10年国債の利回りを0%程度で固定するという新たな政策目標を提示することで、そのイールドカーブの形状を固定しようとしている。これは、日本銀行が現在の国債の新規発行額を大幅に上回るペースで買い続ける政策と明らかに矛盾する。イールドカーブの形状を固定させるためには、日本銀行はイールドカーブが政策目標以上にフラット化しないように国債の購入量を調整する必要があるからだ。

 日本銀行の黒田総裁は新たな金融政策の枠組みを公表して以降、国債購入量の増減はありうることは認めつつも、80兆円の購入量から大きく減少することはないとしている。だが、上記のように見ると、この姿勢は早晩維持できなくなってくると見るのが自然だろう。今後の日本銀行の金融政策を見ていく上では、これまでは政策の主体となっていた「量」の扱いがどのように変わっていくかに注目していく必要がある。

長期金利の水準と国債購入減少量の優先順位の違い

 そうして日本銀行の国債購入量が徐々に調整されてきたことが明らかになると、今度は、国債市場で需給の緩みが意識され、イールドカーブに上昇圧力がかかってくることになるだろう。日本銀行は政策目標を著しく上回る金利の上昇にも対応できるよう、指値オペの枠組みも準備しているが、それでも長期金利の上昇が止まらない場合には、日本銀行は政策目標に近いイールドカーブの形状が達成されるまで、国債の購入量を多少は増やすことも考えられる。

 このようにして、実際には金利の多少の上下動はあるものの、中長期的に、日本銀行が想定する形状にイールドカーブが落ち着けば、それにあわせた形で日本銀行が購入する国債の量も自ずと減っていることになるはずだ。アメリカのテーパリングでは、中央銀行が長期債購入量の縮小を人為的に決める代わりに、長期金利の水準は市場に決めさせたわけだが、今回の日本銀行の場合は、同行が長期金利の水準を先に決めることで、同行の今後の国債購入ペースの減り具合を国債市場に決めてもらおうとしているように見える。

 このように長期金利の水準を先に指し示すことで国債の購入量を減らす「隠れ出口戦略」のような手法は、国債の発行残高が既に巨額で、長期金利の上昇が財政に与えるダメージが非常に大きい日本では、財政に大きな混乱を与えないという意味では現実的な対応策である。だが、このことは同時に、日本の財政政策がこれまで以上に金融政策への依存度を高めることを意味しており、アベノミクス以降の日本のマクロ経済政策運営を一層困難なものにすると考えられる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

この執筆者の他の記事

佐々木雅也の他の記事一覧

注目ワード : アベノミクス

アベノミクスに関する記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています