1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. デジタルイノベーションPreview
  6. ベイエリアのデジタルイノベーション

ベイエリアのデジタルイノベーション

2016年11月号

NRI IT Solutions America 出向 上級テクニカルエンジニア 幸田敏宏

新たなサービスが日々立ち上がるベイエリア(サンフランシスコとシリコンバレーを含む地域一帯の名称)から、注目サービスの一部を取り上げながら今後の活用を考察する。

イノベーションの羅針盤、ベイエリア

 GoogleやApple、Facebookを始めとした巨大企業が軒を連ね、今やマンハッタンを抜き全米で最も地価が高いといわれているベイエリア(サンフランシスコとシリコンバレーを含む地域一帯の名称)。オフィス賃料の高騰やエンジニアの確保の難しさから、別の地域に注目が移るのでは、という声もある。しかし、優秀なエンジニア、投資家の注目、政府の支援など、起業を促進するエコシステムを土壌に今も様々なサービスが立ち上がり、ITサービスの今後を考察する羅針盤として相変わらずふさわしい土地だ。

シェアリングエコノミーとその周辺サービス

 近年、自家用車をタクシーのように提供できるライドシェアリングのUberやLyftをはじめとしたシェアリングエコノミーが注目されている。家の貸し借りをマッチングするAirbnbは世界一のホテル産業となり、買い物代行のInstacartは提携している小売店の店内に専用レジを設けるほどだ。ユーザも利用に慣れ、生活を支えるインフラとなっている。

 シェアリングエコノミーは個人が保有する資産の貸出を仲介するサービスだ。物や家の貸し借り、スキルの活用、お金のやり取りなどシェアする対象は多岐にわたる。すべて含めると全米人口の約19%が携わっているとも言われ、まさに一つの巨大な産業となっている。特に米国の人口構成比で最大を占めるミレニアム世代(1980年~2000年生まれ)はデジタルネイティブで、シェアすることへの抵抗感が低く、効率よく消費することを重視している。今後更にシェアリングエコノミーの規模は拡大しそうだ。

 しかしこの注目を集めている業界は課題も抱えている。働いているのは独立事業者であり従業員ではないというスタンスの企業もあり、保険などの仕組みが整備されていない。例えばUberは独自の自動車保険を提供しているが、ドライバーが加入している個人向け保険を当てにしていたり、乗客を乗せていない間のカバーが薄いなどの課題がある。また、ドライバーの多くは複数の企業に所属しており(UberとLyftの両方のマークを付けている車が多い)、ドライバー自身が保険を管理したいというニーズもある。

 そこで、ライドシェアリングのドライバー向けの保険に注目するスタートアップも登場してきた。Slice.labはドライバーが状況にあわせ利用する保険を切り替えられるサービスを提供し、新たな仕事の形態により生まれるニーズを狙っている。エコノミーの周辺サービスに注目が集まっているのだ。

新たなユーザー接点、チャットボット

 新たなユーザー接点として注目を集めているのがチャットボットだ。文字ベースの会話を自動で行い、情報の提供を行うサービスである。以前から存在していたが、近年のAIブームによる精度向上を受け、再び注目が集まっている。話題を限定しない自由会話には未だ対応が難しいものの、利用シーンを限定すれば実用に足るレベルがみえてきた。

 例えばx.aiは打ち合わせ調整を自動で行うパーソナルアシスタントだ。メールベースでお客様と直接やり取りを行い、時間や場所を整理し調整を行う。多忙な営業担当者を定型業務から開放し、その時間を本来、人が担当すべきである顧客開拓や重要顧客へのサポートに割けるようにすることを目指している。

 データ分析によるマッチングもシステムの得意分野だ。SensayはAIにより人と人とを繋ぐことで、ユーザーの疑問・質問を解決するプラットフォームである。ユーザーが質問を投げかけると、その答えを知っている別のユーザーにAIが繋いでくれる。これまではユーザーが細かく情報を登録したり、人が分類したりしなければならなかったが、AIを活用することで新たなノウハウ共有プラットフォームが実現できるようになった。

 このように、チャットボットは今後ユーザーの重要な接点の一つとして期待される。そのため、そのやり取りを分析し、改善するサービスもまた登場している。人と会話するようなインターフェースであるため、利用頻度などのデータだけではなく、ユーザーがどのように感じたかといった感情分析の視点も重要だ。Affectivaはチャットボットのやり取りからユーザーの感情を分析するサービスを提供している。

APIエコノミーを活用したサービス構築

 ユーザーとのインターフェースであるチャットボットとは別に、ユーザーに有益な情報を提供するために様々なクラウドサービスを統合する流れが進んでいる。2020年にはネットワークに接続されるデバイスは340億台になるとも予測され、今後もデータの種類、量は増加していく。その活用のためにAPIによる連携が進んでいる。

 例えばマーケットデータをAPI経由で提供するXigniteなどの企業の利用が進む中で、それらのAPIをマネジメントするサービスも多く登場している。構築できるサービスの幅が広がるとともに、サービス構築にかかる期間を短縮し、スピーディにサービスを提供することも可能になっていくだろう。

 しかし、API経由でサービスを利用しても、自身が負う責任やトラブルがなくなるわけではない。データを確実に収集・管理できるシステムインフラ設計や問題に柔軟に対応できるロジックを作る技術力が改めて重要になる。

試行を通したイノベーションの推進

 今回は注目されるトピックとともに、一部の具体的なサービスをまとめた。しかし提供されているサービスの成熟度合いは様々であり、すぐには大規模導入が難しいものもある。重要なのは、その技術・サービスの特色を正しく理解し、自社にとっての新たなサービスを模索することであろう。そのためには実際にそのサービスを体験し、活用を検討するとともに、トライ・アンド・エラーによる試行が重要になるだろう。スピード感を持った検討を行うためにはNRI未来ガレージのようなオープンイノベーションの枠組みも積極的に活用して頂きたい。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

幸田 敏宏

幸田敏宏Toshihiro Kouda

NRI IT Solutions America出向
上級テクニカルエンジニア
専門:顧客との共創によるサービスデザイン

この執筆者の他の記事

幸田敏宏の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています