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スマートコントラクトがもたらす金融サービスの変化

2016年11月号

証券グローバルソリューション事業推進部 システムコンサルタント 北原真由美

スマートコントラクトはブロックチェーンと組み合わせて適用することが多く、取引プロセスの自動化や効率化が期待されている。金融業界においても、新たな技術の実用化に向けて各国で実証実験が行われており、今後、金融サービスにも大きな変化が生じる可能性がある。

スマートコントラクトが拓く新しい金融の世界

 スマートコントラクトとは、プログラム化して自動的に実行できる契約のことをいう。執行条件と契約内容を事前に定義しておき、条件に合致したイベントが発生すると自動執行する仕組みである。デリバティブ契約、不動産の登記、カーシェアリングなど、契約を伴う取引活動全般へ適用されている。

 取引プロセスを自動化できるため、決済期間の短縮や不正防止、仲介者を介さないことによるコスト削減にも寄与すると期待されており、各国で取り組みが行われている。ブロックチェーン上でスマートコントラクトを利用すると、ユーザー同士が直接取引を行う非中央集権型のサービス(※1)を実現でき、金融業界を含めて社会に大きな変化をもたらす可能性があると言われている。中央機関や金融機関を介さずに企業や個人間で取引ができる世界は、そう遠い話ではないかもしれない。

スマートコントラクトの仕組みと応用事例

 金融商品のコールオプションを例に、スマートコントラクトの実行プロセスを説明しよう。

 権利行使価格¥18,000、限月12月の日経225コールオプション(買う権利)をA氏がB氏から購入した場合、(1)スマートコントラクトに契約内容(契約者、権利行使日、権利行使価格)を記載しておくと、(2)日経平均株価が12月に¥19,000であれば、(3)オプションの権利行使が発生し、(4)B氏からA氏へ¥1,000の支払いが自動執行される。これを、ブロックチェーン上のデジタル資産で決済する場合は、決済までが即時完了する(※2)。

 スマートコントラクトはブロックチェーン上で実行すると契約が改竄されないことが保証され、人を介さず確実に執行できる。ただし曖昧な内容や解釈を要する免責条項などは定義できないため、法律上の契約すべてを代替できるわけではない。また、仮にスマートコントラクトにバグや脆弱性があった場合、不正な処理が行われブロックチェーンに誤った情報が書き込まれるリスクがある。プラットフォームやサービスの特性に応じて、自由度と安全性のバランスを考慮する必要がある。

 昨年7月、スマートコントラクトのプログラムを載せるブロックチェーンの汎用的なプラットフォームが英国Ethereum社から提供され、さまざまな業界で使われるようになった。その一つがUjo music(※3)である。これは、著作権やアーティストへの対価を守るために創られた音楽配信サービスで、同10月にデモ版が公開されている。取引はレコード会社などの仲介者を通さず、決済はすべて仮想通貨Ether(※4)によって行われる。ユーザーがWeb上の楽曲を選択してEtherを支払うとそのライセンスが自動発行され、アーティスト達はスマートコントラクトに定義された配分で、直接Etherを受け取る仕組みだ。

 非金融の分野では、P2Pの電力取引やシェアリングエコノミー、IoTなどでもスマートコントラクトの活用が見込まれている。ここでは、モバイルを使ってデジタル通貨で決済するサービスなども増えていくだろう。

金融業界における取り組み

 証券業界では株式、債券の発行、デリバティブ契約、配当、決済などの業務へ適用が検討されており、各国で実証実験が行われている。

 UBSはスマートコントラクトで動くスマート債券のプロトタイプを開発し、昨年10月にロンドンでデモを実施した。債券発行者がクーポン支払日と数量、償還日や支払方法などを明記したスマートコントラクトを作成し、契約に基づいて指定された日にクーポンの支払いが自動で行われる。なお、応募超過や未達の場合に関しても、資金の返還ルールを定義しておく。ミドルやバックオフィスを介さないため、コスト削減効果が期待される。

 また、金融機関4社とDTCC社、Markit社、米国Axoni社がCDS市場における実証実験を行っている。CDS取引のコンファメーションから、権限管理やイベント処理などのロジックを含むスマートコントラクトを作成して分散台帳で共有し、ポストトレードにおける複雑なライフサイクルイベントの管理を効率化した。

 さらに大きな取り組みとして、大手金融機関50社以上が参加するコンソーシアムR3(※5)がある。R3は、金融業界に特化した分散型台帳プラットフォームCorda(※6)を構築して金融サービスの変革を目指している。現状の金融システムでは、金融機関が取引の元帳データを双方で管理しているため、照合やリコンサイル、データ修正などの作業が多く存在している。その複雑な仕組みがコスト増を招き、潜在的な金融システムのリスクにもなっていることから、R3は各国の法基準に準拠し、既存システムとも統合可能なプラットフォームの開発を推進中だ。

 Cordaでは、金融契約の記録、執行と企業間のセキュアな台帳管理ができ、スマートコントラクトのテンプレートを活用すると、契約書の作成や管理を効率的に行うことができる。来年半ばにα版をリリースし、コンソーシアムの参加行が実用性を判断する予定である。

 この他にも、各国の中央銀行や金融機関がデジタル通貨の証券決済への適用を検討している。法整備も含めて課題はあるものの、受渡しのタイミングをスマートコントラクトでコントロールすることにより、ブロックチェーンの中でデジタル化した証券と通貨を金融機関同士で直接DVP決済できる。


 これまで金融業界は、制度を中心に中央機関や金融機関が取引参加者の信頼性を保証し、巨大なシステムの上で成立してきた。金融は、契約や制度に基づいて確実に処理することが強く求められる世界であり、特に取引成立後、定められた手順で処理を行うポストトレードは、スマートコントラクトとの相性がよいと考えられる。

 今後、スマートコントラクトの技術の実用化が進むと、金融機関を介さないデジタル通貨による取引や、仲介者不在の自律型サービスが増加し、金融機関や通貨の役割、金融サービスの範囲も変わっていく可能性がある。

1) 中央の管理者や仲介者が存在せず、取引者間で成立するP2P型のサービス。Decentralizedとも言われる。ブロックチェーン技術を使った分散型プラットフォーム上で実現されることが多い。
2) 現金などの現物資産で決済する場合は、ブロックチェーンの外で従来通りの決済を行い、結果をブロックチェーンへ反映する。
3) http://ujomusic.com/
4) Ether(イーサ)は、Ethereum(イーサリアム)のプラットフォームで使われる仮想通貨で、ビットコインの次に時価総額が大きい。(https://www.ethereum.org/
5) NYのスタートアップR3CEV社が主導するブロックチェーン世界最大のコンソーシアム。
6) R3が開発している分散型台帳プラットフォーム(Distributed ledger platform)で、ホワイトペーパーにCordaのビジョンやコンセプト等が公開されている。(https://r3cev.com/blog/2016/8/24/thecorda-non-technical-whitepaper

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

北原真由美Mayumi Kitahara

証券ホールセール事業推進部
システムコンサルタント
専門:新サービス企画、海外動向調査

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