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MiFID II を機とした運用会社におけるリサーチリソース配分の見直し

2016年11月号

NRIアメリカ リサーチアナリスト 鈴木枝理子

欧州第二次金融商品市場指令の下、約定執行手数料とリサーチ手数料の分別規則が2018年1月より導入される。運用会社ではリサーチリソースの調達体制見直しや社内外で利用可能なリソースオプションの再評価を通じたコスト再配分への検討が始まっている。

リサーチ手数料分別規則の導入とインパクト

 運用会社がフルサービスの証券会社に対して売買時に顧客資産から支払う約定手数料には、一般に「バンドル型コミッション(※1)」として、執行手数料に加え「リサーチ手数料」が内包されている。リサーチ手数料は、証券会社が行う調査レポートの提供や発行体との面会アレンジ(コーポレートアクセス)等の諸々の関連サービス(以下、セルサイド・リサーチ)に対する報酬である。しかしリサーチ手数料を巡っては、提供されるサービスとの対応関係に不透明性が残るといった声が、欧州を含む一部地域の投資家などからも聞かれることがあった。

 こうしたなか、欧州ではリサーチ手数料の投資家に対する説明責任を通じた透明性向上の一環として、2018年1月導入予定の第二次金融商品市場指令(MiFID II)において、欧州連合(EU)を含む欧州経済領域(EEA)の運用会社(※2)が支払うバンドル型コミッションの執行手数料とリサーチ手数料の分別管理を義務付けることとなった。それがもたらす影響は、事務負担増、運用ストラテジーの制約可能性、リサーチ調達態勢見直しなど多岐にわたる。

 事務負担面では、新規則のもとで証券会社は顧客に提供するセルサイド・リサーチに対する公平(※3)な価格付けが求められるが、運用会社側でも、提供されるリサーチ・サービスへの客観的評価に基づくリサーチ予算の設定と管理が課される。運用会社はリサーチ手数料の対価の内訳を顧客に開示し、顧客承認の下で当該費用を分別して支払わなければならない。また、顧客向け年次報告や目論見書等のファンド関連開示、リサーチ対価決定の根拠や支払い状況に関する監査証跡などを含む規制遵守状況の管理体制構築も求められる。

 運用面では、当該規則導入をきっかけにコーポレートアクセスなどで得た情報に基づく投機的運用への制約が強まる可能性を懸念する見方もある。これら売買発注を巡る流動性への影響も含め、幅広い運用ストラテジーを揃える一部の総合型運用会社にとっては予断を許さない。

 さらに、リサーチ調達態勢については、広範な運用会社がすでにリソース確保やコスト配分を見直す好機としての検討を始めている。以下では、この点を中心に、セルサイド、インハウス、第三者というリサーチ調達リソースの見直しを巡る最近の動きを俯瞰する。

セルサイド・リサーチ利用時の選別度は一層強まる

 分別規則導入により、現在は運用会社が日常的に利用するセルサイド・リサーチの調達にも大きな影響があると予測されている。欧州運用会社を対象としたアンケート調査(※4)によると、分別規則導入後のセルサイド・リサーチの取得費については約7割が「削減予定」であると回答している。その主な理由としては、セルサイド・リサーチへの新たな客観的評価基準を設定しなければならないことや、従前は付随サービスとされていたセルサイド・リサーチの価格付けで割高感が強く感じられる可能性があること、および証券会社によるリサーチ提供範囲の縮小が見込まれることなどが挙げられている。

 コミッションの一部として支払われるリサーチ手数料は現在、その多くが一旦証券会社側でまとめてプールされており、セルサイド・リサーチは、ここから賄われている。このため、証券会社は個々の運用会社の顧客が負担するリサーチ手数料と実際の提供サービスを厳格にマッチさせることなくリサーチ・サービスを提供することが可能である(※5)。しかし、分別規則導入後は、証券会社に支払ったリサーチ手数料額に均衡するサービスをきっちり提供していく必要がある。

 他方、一部の証券会社ではリサーチの価格付けや評価基準の精緻化に伴う透明性向上によって、必然的にリサーチ提供範囲の見直しが行われ(※6)、これがリサーチ対象企業数の縮小要因になると考えられている。これらを受けて、運用会社側では、利用目的別に(例えばコーポレートアクセス等の利用に絞り込む等)セルサイド・リサーチの利用先の選別を強めていくものとみられている。

インハウスと独立リサーチの利用拡大へ

 前述の欧州運用会社アンケート調査によると、セルサイド以外からの調達も含めた総リサーチ費については、回答会社の過半数が「現状維持を予定」するとしている。つまり、セルサイドからの調達を削減したとしても、既存リサーチ費の予算枠を維持しつつ他への配分を進めていく意向がうかがわれ、実際にはインハウス・リサーチや独立リサーチ会社への配分が高まる可能性がある。

 運用会社の投資先企業調査においてインハウスで行う分析は、個別企業訪問に次いで重要性が今後高まるとみられている分野であり、なかでも小型株評価においてはセルサイド・リサーチよりも積極的に活用されていくとみられている(※7)。ただし、競争力のあるインハウス・リサーチ体制の構築は運用会社固有の差別化要素ともなりうる一方で、固定費負担による影響への配慮が必要となる。総枠としてのリサーチ費を横ばい抑制とするならば、小型株等の重要カバレッジのなかでも更に選別性を強めたサブセクターへ焦点を絞り、メリハリのあるアナリスト人材の採用や育成を行っていく必要がある。

 また、現在利用が限定的な水準にとどまっている独立リサーチ会社(IRP(※8))の利用についても分別規則導入に伴い約半数の運用会社が今後の拡大を見込んでいる。IRP利用の拡大に際して期待されるメリットとしては、リサーチの価格付けにおける透明性向上や、セルサイド・リサーチではカバーされない専門領域での補完などが挙げられる。運用会社側では現在のIRP利用状況と今後のあり方についてのギャップ分析を早期に行い、個々の運用会社において必要なリソースやメリットに照らしたIRPのデューデリを進めていくとみられる。

グローバルな事業を行う運用会社にも影響

 分別規則発効を控え、一部の欧州運用会社ではリサーチ手数料の完全分別支払いやリサーチ手数料の自社負担を開始しているところもあるなど、すでに影響は顕在化してきている。一方で、グローバルで事業を行う運用会社に対する影響については、当該規則の適用範囲を巡りいまなお明示的な解釈が確立していない部分も少なくなく、米国や日本など欧州域外の運用会社に対する実質的なインパクトの大きさや深さについても、今後注視していく必要がある。

1) バンドル型コミッションに内包されたリサーチ手数料支払いは「ソフトダラーでの支払い」とも呼ばれる。
2) 原則としてメンバー国において設立されMiFID記載の「投資サービス・活動」に従事する投資会社に適用。
3) 分別規則のもと、ブローカーはセルサイド・リサーチの価格付けにあたり、運用会社の取引量(約定執行手数料)を考慮してはならない。
4) BloombergおよびTabb Groupによる調査。約50~100の欧州運用会社を対象。
5) リサーチ手数料プールの80%は上位20%の大手運用会社により支払われていると言われている。
6) CFA Instituteによると、ブローカー側のセルサイド・リサーチ提供に関わる予算は2008年に比べると既に約46%縮小されている(グローバルベース)。米国や英国においては2006年前後からコミッションで取得できるリサーチ商品に関する規定強化が行われており、対策としてコミッションから支払われる約定執行手数料とリサーチ手数料の割合を定める契約書(Commission Sharing Agreement:CSA)の利用率が年々増加している事が主な背景となっている模様である。
7) Extelによる調査。約160の欧州運用会社を対象。
8) 「Independent Research Provider」の略。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

鈴木枝理子

鈴木枝理子Eriko Suzuki

NRIアメリカ
リサーチアナリスト
専門:国際金融政策・規制と金融市場インフラ研究

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