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顧客本位の業務運営を求める「金融レポート」

2016年11月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

「金融レポート」は、国民の安定的な資産形成に資するよう、金融機関に顧客本位の業務運営や「フィデューシャリー・デューティー」の徹底を促している。過剰規制に陥らない「ベスト・プラクティス」の形成が求められる。

「金融レポート」の公表

 2016年9月、金融庁は「平成27事務年度 金融レポート」を公表した。この文書は、2015年7月から2016年6月までの1年間における金融庁の活動を振り返り自己評価しており、昨年までの「金融モニタリングレポート」の内容を拡充したものである。

 ちょうど1年前に公表された金融行政方針では、金融庁が取り組む重点施策を明らかにするとともに、いわゆるPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を実践することを表明していた。今回の「金融レポート」は、その具体的な成果物である。

 「金融レポート」の構成は、次の通りである。まず「我が国の金融システムの現状」として金融庁の環境認識を示す。その後、「金融行政の重点施策に関する進捗・評価」として、各政策分野におけるこれまでの金融庁の取り組みやその成果を分析する。最後に「金融庁の改革」として金融庁自身のガバナンスや行政手法の見直しについて述べる。

 このうち多くの市場関係者の注目を集めたのが、銀行や証券会社などによる金融商品販売の現状を分析し、その問題点を指摘した「国民の安定的な資産形成の促進:『貯蓄から資産形成へ』」と題する一節である。

 ここで金融庁は、日本の家計金融資産が預貯金に偏っているため、米国や英国よりも運用リターンが低いと指摘する(図表1参照)。そこで国民の中長期の安定的な資産形成が課題となるが、有力な手法として長期・積立・分散投資がある。ところが、その推進力となる銀行や証券会社は、目先の手数料収入にとらわれており、そのことは日米の投資信託の売れ筋商品比較にも表れている(図表2参照)。従って、金融機関が顧客の安定的な資産形成に資するよう、顧客本位の業務運営を徹底することが求められるというのである。

ポートフォリオ・リバランス

 ここ数年金融庁は、家計の「ポートフォリオ・リバランス」、つまり個人金融資産を預貯金や国債など元本確保型商品中心の運用からバランスのとれたポートフォリオへとシフトさせる必要性を強調している。

 ただし、20年、30年という長期では国内株式への投資がリターンを持続的に提供してきた米国と、バブル崩壊後は長期で見ても株式投資のリターンが振るわなかった日本との違いはある。これまでは米国と同じ投資スタンスでは、良い結果が出せなかったのである。

 だからこそ金融庁は、ポートフォリオ・リバランスを説きながら、同時にコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの制定など、上場企業のガバナンス改革を推進している。「攻めのガバナンス」を通じて上場企業の収益力向上、ひいては株価の上昇と株式投資のリターン向上を目指すというわけである。

 その上で、金融機関が顧客の利益を最優先する「フィデューシャリー・デューティー」や「顧客本位の業務運営」を徹底すれば、国民の安定的な資産形成が可能になるというのが、「金融レポート」に込められたメッセージである。

 もちろん金融庁は、個人向けに金融商品を販売するすべての金融機関が、顧客の利益を軽視するような業務運営を行っていると決め付けているわけではない。「金融レポート」にも好ましい営業手法や管理手法の具体例が挙げられており、そうした「ベスト・プラクティス」が多くの金融機関によって共有されることで、ポートフォリオ・リバランスが進むというのが期待される姿であろう。

フィデューシャリー・デューティーの意義

 もっとも、英米法に由来する「フィデューシャリー・デューティー」の概念を直輸入して現実離れした規制を設けたり、「顧客本位の業務運営」の内容を事細かにルール化したりすることは避けるべきである。

 「顧客本位」といった「姿勢」の問題には、画一的なルールは不向きであり、金融機関が試行錯誤と当局との対話を重ねながら、「ベスト・プラクティス」を見出していくことが望ましい。競争圧力が働けば、長期的には、「ベスト・プラクティス」からかけ離れた金融機関は顧客から見捨てられ、市場から退場していくだろう。

 その点では、「金融レポート」が、金融庁の考える望ましい対応の内容を踏み込んで明示したことは意義深い。金融機関側では、それを自社の業務運営の見直しや当局との対話の材料として活用することが求められる。

 一方、「フィデューシャリー・デューティー」という概念自体には、あまり拘泥し過ぎない方が生産的であろう。金融庁も決して厳密な意味でこの言葉を用いているとは思えない。要は、顧客の利益を少しくらい損なっても自社の利益が短期的に高まれば構わないと言わんばかりの営業姿勢やそれを是認するような経営の排除が求められているということではないだろうか。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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