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保険領域におけるFinTechの動向

2016年10月号

金融デジタルイノベーション推進室 上級コンサルタント 佐々木学

FinTechとして、新たなサービスが続々と登場する昨今の金融業界の中、保険の分野は、やや立ち遅れている感がある。しかし、海外ではInsurTechとして俄かにトレンドが形成されている。今後日本の保険業界も、オープンイノベーションを軸として、将来の変化に備えるべきであろう。

海外で勃興するInsurTechとは

 日本でもFinTechというキーワードが浸透し、新たなサービスの提供が加速しているが、海外では、金融の一分野である保険において、InsurTech(Insurance×Technology)と呼ばれる新たなサービスが生まれ始めている。InsurTechは、図表に示す通り、大きく2つの形態に区分することができる。1つは、「テクノロジーに裏付けられた新たな保険商品の提供」。もう1つは「保険に関する新たな価値・経験の提供」である。

 前者の、新たに提供される保険商品の中には、さらに2つの方向性が見られる。1つは、発現リスクを精緻に分析し、保険料を最適化(パーソナライズ)するものである。その代表的な例が、テレマティクス保険である。自動車保険の一種であるこの保険は、自動車に設置した端末から得られた走行距離や運転速度、急ブレーキ等の運転情報を元に、運転者のリスクを分析し、保険料算定に反映する点が特徴である。他にも同様の事例として、ウェアラブル端末から得られる健康増進の活動に応じてキャッシュバックを行う医療保険等も存在する。

 もう1つの方向性が、これまで規模の確保が困難であったニッチな保障ニーズに適合する保障対象の細分化である。最たる例はP2P保険である(※1)。これは、通常の保険では特約や加入不可となってしまうような保障ニーズ(例えば、ペット保険における特定の犬種(品種改良等により特定の疾病に罹患しやすい)等)に対し、SNSを通じて同様の加入希望者を募り、保険として成立させるものである(※2)。

 InsurTechのもう1つのトレンドである、保険に関する新たな価値や経験をもたらすのは、大きく2種類の事業者である。1つは保険販売代理店や仲介業者で、彼らは保険の販売や保全管理、請求支払といった保険契約者(候補)との接点において、ユーザーにとっての便利さや分かりやすさを前面に押し出したサービスを展開し、顧客を開拓している。具体的には、保険比較や保険証書管理のアプリやサイトを介して、顧客にとってより良い保険への加入ニーズを喚起し、契約行動へとつなげる。もう一つは既存の保険事業者から業務を請け負う事業者で、保険業務の一部に特化し、高度かつ効率的なサービスを展開している。そのサービスは、AIを活用したコンタクトセンターやスマートフォンでのオンライン請求手続き等、テクノロジーと融合した新たな業務のあり方を示すものである。

 これらInsurTechで共通する最大の特長は、提供するサービスを徹底的に顧客本位に組み立てている点である。多くのInsurTech企業が、既存サービスのあり方や複雑さに疑問を持ち、本来のあるべき姿を模索している。その結果として、目新しい体験をユーザーにもたらし、強く惹きつけることに成功している。「顧客に積極的な動機があまりなく、二の足を踏みがちな“保険加入”の場面では、ニーズを喚起し、スムーズに契約手続きを行えるようにする」「保険が必要な“有事”の際には、速やかに対応がなされ、保険の有用性を存分に実感できる」というように、各局面で顧客が求める価値に注目することで、既存の保険サービスに風穴を開けることができたのである。

InsurTech企業の躍進に既存の保険事業者は

 こうした新たな変化のうねりに晒される既存保険事業者の中には、今を好機と捉え変容を試みる企業もある。

 フランス最大手のAXAグループは、同社の事業戦略で掲げるデジタルトランスフォーメーションやイノベーション創出を実現するために、様々な施策を打ち出している。代表的な取り組みの1つに、デジタルチャネルの確立に向けたFacebookとの提携がある。この提携により、これまでFacebookが主に個人向けに提供していたメッセンジャーアプリを、その主要なユーザーである若者層とのコンタクトセンターとして活用するという、新たなカスタマーサポートの形が誕生することとなった。

 AXAグループが着目するのは、大手のテクノロジー企業ばかりではない。シリコンバレーや上海に設置されたR&D拠点である『AXA Lab』では、イノベーティブな企業の発掘や協業に取り組んでおり、有望なスタートアップ企業には、ベンチャーキャピタルファンドである『AXA Strategic Ventures』が投資する。彼らの投資先は、保険ブローカーや天気保険事業者等の保険関連から、AI(機械学習)やデータ分析、ブロックチェーンといった最先端のテクノロジー企業まで多岐にわたる。次に来るイノベーションの波を早い段階から捉え、外部のプレイヤーも含めた将来の姿を思い描きながら、有機的な協業体制の構築に挑戦している。

国内の生保業界は変化の波にどのように向き合うか

 海外の状況に比べると、国内の保険業界は比較的落ち着いた状況にあるものの、変化の波は確実に訪れるであろう。ただし、革新的な保険商品を武器とする新たな保険事業者が続々と台頭する、といった未来は現実的ではない。保険に対する意識や法規制面で大きな違いがあることや、既存の保険会社も、海外の動向を研究し、保険商品の開発やサービス体制の見直しに取り組んでいることが、その理由である。

 このような状況の中、既存の保険事業者が将来の地位を勝ち取る上で重要なことは、前述のAXAグループの例にも見られるように、将来の業界動向や自社の姿を想い描き、そのビジョンに向けて、外部のプレイヤーも巻き込んだ強固なエコシステムを形成することである。これまでのような自前での対応は、環境変化の速さや対応範囲の広さからも限界がある。オープンイノベーションを志向し、新たなアイデアやテクノロジーを積極的に取り入れたスピーディな対応こそが将来の覇権を握る鍵となるであろう。

1) P2P保険以外では、パソコンやカメラ、楽器といった身の回りのモノに必要な期間のみ保険をかける財物保険等も、保障対象の細分化の一例として挙げられる。
2) P2P保険で有名なイギリスのBought By Many社では、パグやプードルといった特定の犬種ごとのペット保険や、年齢(高齢者や子供だけ等)や持病に細分化した旅行保険等を取り扱っている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木学Manabu Sasaki

金融デジタル企画二部
上級コンサルタント
専門:国内外の保険サービス調査、サービス企画

注目ワード : FinTech(フィンテック)

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