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Citadelの躍進にみる米国デリバティブ市場の構造変化

2016年10月号

ホールセールソリューション企画部 主任研究員

店頭デリバティブ規制を契機に、米国市場は構造変化を遂げつつある。具体的には非銀行プレイヤーの台頭である。米国での変化が日本にそのまま適用できる訳では必ずしもないが、規制導入後数年足らずでプレイヤーのポジショニングが変わる様は大いに示唆に富む。

 金融危機を踏まえて導入が進む店頭デリバティブ規制を契機に、米国デリバティブ市場は構造変化を遂げつつある。店頭デリバティブ規制は、①電子取引基盤での取引、②取引情報蓄積機関への報告、③中央清算機関を通じた清算、④中央清算されない取引にかかる証拠金の授受の4つの義務からなる(※1)。①は米国では2014年2月、日本では2015年9月に導入された。本稿では、電子取引基盤での取引につき、先行する米国で起こった市場の構造変化について述べたい。

電子取引基盤と米国

 電子取引基盤とは、スワップなど店頭デリバティブの取引執行・約定を行うシステム/プラットフォームなどと定義され、米国ではSEF(Swap Execution Facilities)と称される。義務付けの背景には、店頭デリバティブは参加者間の相対で取引がなされていたため、結果として市場透明性を欠いていたとの反省がある。複数の参加者がSEFを介して取引を行うことで、取引規模や価格に関する透明性の向上が期待されている。

 SEFの導入を受け、現在、金利デリバティブでは50%程度、クレジット・デリバティブ(指数)では70%超がSEFで取引されるなど一定の定着をみせている(※2)。また、当局に登録されたSEFは、ベンダーによるものや、取引所、既存ディーラーによるものなど20を超えインフラの定着も窺える。

 SEFの浸透は、清算集中の流れと相俟って、商品の標準化・プレーン商品への移行を促す。これは、金融機関にとっては、取引当たりの収益性の低下を意味する。

 環境変化を受け、すべての銀行が従来型のフル・サービスによるデリバティブ事業モデルを維持し続ける可能性は高くはないとする識者は多い。例えば、米国調査会社CelentのアナリストDr.Anshuman Jaswal氏は、Tier1銀行を中心としたフル・サービス型のビジネスモデルに代わり、Tier2銀行やバイサイド系のファームを中心に、売買注文の取次ぎを専ら行うエージェンシー型のビジネスモデルが台頭するのではないかとの見方を示す。

 実際、各種報道によると、店頭デリバティブのマーケット・メイキングには、HFT(高頻度取引)ファームの参入が相次いでいるとされる。中でも、米国大手ヘッジファンド傘下のCitadel Securitiesは、提示するプライスの良さや執行の速さなどが評価され、代表的なSEFの1つであるBloomberg SEF LLCでのシェアが首位となるなど米国金利デリバティブ市場での存在感を急速に高めている(※3)。

Citadelの強み

 Citadel Securitiesは、米国市場における有力マーケット・メイカーの1つである。米国株式で14%、米国上場株式オプションで21%の取引シェアを持ち、米国債取引でも存在感を高めている。米国金利スワップには2014年秋に参入した。金利スワップのマーケット・メイキングに参入した初めての非銀行プレイヤーとされる。

 同社の強みは、提示するプライスの良さや執行の速さである。例えば、10年もの米ドル建て金利スワップのビッド-アスク・スプレッドは0.2~0.3bpであり、これは銀行の平均スプレッドの約半分とされる。また、気配値要求(RFQ)に対する返答は平均で0.36秒であり、業界平均の4秒を大きく下回る。

 強みの源泉としては4つ指摘することができる。まずは、取扱商品・サービスに関する選択と集中である。同社の取扱対象は、専ら中央清算機関を通じ清算される標準化された金利デリバティブであり、クロス・カレンシー・スワップやスワップションといった清算されない商品や、米ドル・ユーロ建て以外の流動性の低い通貨による商品は対象としない。また、リサーチなどコストを要するサービスも提供しない。こうした取扱商品・サービスの絞り込みにより、大手投資銀行との差別化をまずは図っている。

 次に業務効率の徹底である。これは、他のアセット・クラスでの経験が活かされたものと推察されるが、プライス提示などRFQへの応答のほか、ポジションのヘッジ商品選択・最適化にアルゴリズムを大いに活用するなど、プロセスの自動化が徹底的に図られている。多くの銀行では、過去の買収に伴う旧式のレガシー・システムの存在により、約定処理には手作業がどうしても入らざるを得ないところがある。

 3つめは小口取引への注力である。同社が自動で注文・価格提示を行う取引のサイズは、一定の金額・リスク量の範囲内に抑えられており、そのサイズは金融機関などディーラー間取引と比べると小さいとされる。小口の取引は、運用会社やファンド、事業法人などバイサイドが主であり、Citadel Securitiesはターゲットとする顧客のセグメンテーションも行っている。

 最後に、規制負荷の軽さである。銀行の場合、所要資本やレバレッジ、手元流動性などで規制がかかるが、Citadel Securitiesにはそれがない。ブローカー・ディーラーとしての規制は依然受けるものの、銀行と比べて金融規制の負荷が軽いことは、事業展開に優位に働く。

 Citadel Securitiesのデリバティブ事業モデルは、現物株式などで見られるようなロー・タッチ型のものである。規制負荷などにより、多くの銀行においてデリバティブのマーケット・メイキング余力が低下する中、Citadel Securitiesは、独自のポジショニングにより、新たな流動性供給者としての評判を高めている。更には、米国での経験を活かし、欧州でも同様の事業展開を目指しており、その成否が大いに注目される(※4)。

金融機関のグローバル戦略検討に向けて

 電子取引基盤に関する法律上の定義や注文方法、取引報告の対象となる主体など日米では規制や市場構造に違いがある(※5)。このため、本稿で紹介した米国の状況がそのまま日本へ適用できる訳では必ずしもない。Citadel Securitiesの台頭を米国ゆえのダイナミズムと断じることは容易ではあるが、規制導入後数年足らずでプレイヤーのポジショニングが変わる様は大いに示唆に富む。

 電子取引基盤での取引は2018年を目処に欧州でも導入が予定される。先行する米国、そして今後の欧州における変化をつぶさに見ていくことは、グローバル戦略を考える上で、わが国金融機関においても引き続き参考となるのではなかろうか。

1) 4つの規制のうち、①~③は、2009年9月のG20ピッツバーグ・サミット、④は、2011年11月のG20カンヌ・サミットでそれぞれ導入が定められた。対象となる商品・主体など要件は国毎に異なる。
2) ISDAデータより。厳密にはグローバルでの数値であるが、米国以外では電子取引基盤での取引が少ないため、ほぼ米国市場の状況と推定できる。なお、当該統計では、スワップションなどSEFでの取引が義務付けられてない商品も含まれるため、見かけ上少なめの数値となっている。
3) Bloomberg SEF LLC において、Citadel Securitiesは、取引高、レスポンス・タイム、ヒット・レシオなどで首位。なお、本稿でのCitadel Securitiesに関する記述は、同社HP、Risk Magazine、IFR、Wall Street Journal、Financial Timesなどを参考にした。
4) Financial Times「Citadel pushes into European swap market(2015/9/10)」など。なお、Citadel Securitiesは、2015年、非銀行として初めて、清算機関LCH.Clearnetの金利スワップ清算サービスであるSwapClearの会員になった。可能にしたのは、直接参加者になるための純資産要件の大幅な緩和である。清算機関会員となることで、Citadel Securitiesは、カウンターパーティ・リスクに関する顧客の懸念を低減させることにも成功している。
5) 例えば、米国では、SEFで約定された一定の取引については、取引報告義務をSEFが負うなど、仲介金融機関の負荷が引き下げられているなどの違いがある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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