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改正会社法施行により幕が開いた「真の内部統制」の時代

2016年10月号

金融システムリスク管理部 上席コンサルタント 大澤英季

昨年5月の改正会社法及び改正会社法施行規則の施行に伴い、多くの企業で「内部統制システムの基本方針」が見直された。また、運用状況の開示義務化により、事業報告(株主総会の招集通知に掲載)に運用状況の概要が記載されるようになった。今般の法改正により、企業において既に整備・運用されている「内部統制」は新たな時代に入ったといえるのではないだろうか。

 2015年5月1日、改正会社法及び改正会社法施行規則(以下「改正会社法等」)が施行された。05年に制定され、06年に施行された会社法の初の抜本的な改正といわれている。その中で、業務の適正を確保するための体制、いわゆる内部統制システムに関する主な改正点は3点挙げられる。第一に「企業集団に関する体制強化」である。会社法施行規則の規定が会社法本体へ格上げされ(※1)、会社法施行規則には新たに子会社のリスク管理体制整備等、具体的な内容が規定された(※2)。第二に「監査体制の強化」で、使用人から監査役への報告等が新たに会社法施行規則に規定された(※3)。第三に「運用状況の開示義務化」で、内部統制システムの運用状況の概要を事業報告に記載することが新たに会社法施行規則に規定された(※4)。

 本稿では、第三の「内部統制システムの運用状況の開示」に焦点を当て、実際の開示内容や今後の内部統制のあり方について考察する。

「内部統制システムの基本方針」の抜本的な見直し

 改正会社法等の施行に伴い、多くの企業で自社の「内部統制システムの基本方針」を見直している。その内容は、「企業集団に関する体制強化」や「監査体制の強化」に関する改正点を踏まえたものがほとんどである。

 しかし、最も注目すべきは「運用状況の開示義務化」に関する改正点であろう。なぜならば、「運用状況の開示義務化」は、企業に対して、内部統制の適切な実施、つまり、PDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルを回し続けながら内部統制を高度化していくことを求めたものに他ならないからである。

 仮に不祥事が発生すれば、その一因は内部統制システムに何らかの欠陥が存在することにあり、改善が必要になるのは当然である。また、内部統制システムに何らかの欠陥が存在するということは、「内部統制システムの基本方針」の決定が取締役会決議事項であることから、その責任は取締役会にあるといえる。

 従って、取締役会は、自社の内部統制システムが適切に運用されているかを適時適切に検証し、問題があれば見直す必要がある。「運用状況の開示義務化」を踏まえて「内部統制システムの基本方針」を見直した企業として、東鉄工業株式会社(※5)と東邦化学工業株式会社(※6)があるが、両社とも、「業務の適正を確保するための体制(の運用)は、取締役会において定期的に検証を行う」ことを自社の「内部統制システムの基本方針」に追加しているのは、そのためといえる。「運用状況の開示義務化」によって、「内部統制システムの基本方針」の抜本的な見直しが各社に求められていることを忘れてはならない。

「内部統制システムの運用状況の概要」の記載状況

 では各社は運用状況の概要をどのように事業報告(株主総会の招集通知に掲載)に記載しているのだろうか。
それを見る前に、法務省がパブリックコメント(※7)で公表した見解を確認しておく。ポイントは次の3点である。

  • 単に「当該『業務の適正を確保するための体制』に則った運用を実施している」との記載は不適当である。
  • 財務報告に係る内部統制に限らない記載が必要である。
  • 運用状況の評価の記載を求めるものではないが、運用状況の評価を記載することを妨げるものでもない。

 これらは、必ずしも具体的な記載内容を示したものとは言えず、運用状況の概要をどのように記載するかは実質的に各社に任された格好といえる。

 そこで記載状況を見ると、記載単位(区切り)については、ほとんどの企業で以下のいずれかとなっている。

  • 「内部統制システムの基本方針」で定められた項目ごとに運用状況の概要を記載する。
  • 主要テーマ(たとえば、コンプライアンスやリスク管理、監査など)ごとに運用状況の概要を記載する。

 改正会社法等およびパブリックコメントからすれば、どちらでも法的には問題ないといえる。しかし、「内部統制システムの基本方針」に定められた内容がどのように運用されているかについての開示であることから、原則的には「内部統制システムの基本方針」の項目ごとに記載すべきものであろう。

 次に、記載内容であるが、「内部統制システムの基本方針」で定められた内容に僅かな情報を追記しただけ(たとえば、会議の開催回数など)で、具体性に欠ける表面的な記載に終始するケースが多く見受けられた。これは、改正会社法等の条文(※8)の表現やパブリックコメントが影響したものと思われる。

 しかし中には、より具体的な記述を行っている企業もある。図表に、グローバル化している大手企業や不祥事が発生した企業の記載事例をいくつか紹介した。取締役会における運用状況の評価結果や、不祥事発生を踏まえた改善状況などを記載しており、いずれも他企業より一歩踏み込んだものとなっている。内部統制の高度化に向けて、今後このような記載が増えることを期待している。

 今般の改正会社法等の施行によって、「内部統制システムの基本方針」を事業報告に掲載するだけで済む時代は終わりを告げた。企業が内部統制システムの運用結果を開示し、その内容についてステークホルダーから厳しく問われる時代、つまり、「真の内部統制」の時代の幕がついに開いたといえるのではないだろうか。

1) 会社法第362条第4項第6号
2) 会社法施行規則第100条第1項第5号等
3) 会社法施行規則第100条第3項~第6項等
4) 会社法施行規則第118条第2号
5) 東鉄工業株式会社「業務の適正を確保するための体制(内部統制システム等に関する事項)の一部改定に関するお知らせ」(2015年3月27日)
6) 東邦化学工業株式会社「『内部統制システム構築の基本方針』の改訂に関するお知らせ」(2015年7月29日)
7) 「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」(2015年2月6日)35~36ページ
8) 会社法施行規則第118条第2号法348条第3項第4号、第362条第4項第6号、第399条の13第1項第1号ロ及びハ並びに第416条第1項第1号ロ及びホに規定する体制の整備についての決定又は決議があるときは、その決定又は決議の内容の概要及び当該体制の運用状況の概要
(注)下線は著者記

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大澤英季Hideki Osawa

金融情報システムセンター
企画部次長
専門:内部統制、リスク管理

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