1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. セミナー報告
  6. 第2回NRIグローバル規制 カンファレンス2016報告

第2回NRIグローバル規制 カンファレンス2016報告

2016年9月号

ホールセールソリューション企画部 丹羽陽子

野村総合研究所(NRI)は2016年6月20日に「第2回NRI グローバル規制カンファレンス2016」を開催した。本カンファレンスは、RegTech(※1)の動向を見据え、複雑・高度化が進むグローバル金融規制に対して、金融機関が抱える業務課題とその解決に向けたケーススタディを共有することを目的に実施。第2回となる今回は、「リスク管理システムの最適化実装に向けて~グローバルでの最新事例ご紹介~」と題し、金融機関への豊富な導入実績を誇るソリューションベンダー各社をお招きして開催した。各講演では、最適なリスクマネジメントソリューションを実現するための論点と、海外で取り組まれている先進事例を解説いただいた。

 当日は、銀行、信託銀行、証券会社、保険会社等の各金融機関や業界団体などから、計26社49名の方々に参加をいただいた。以下、当日の講演について報告する。

グローバル金融規制の潮流と海外の金融当局と金融機関のスタンス

野村総合研究所 上級研究員 川橋 仁美

 金融機関のリスク管理に関する規制のグローバルな傾向として、2008年の金融危機前は定量面の比重が高かったが、金融危機以降、定性面の重要性が高まっている。具体的には、コーポレートガバナンスの高度化、リスク・アペタイト・フレームワークの構築と運用(※2)、健全なリスク文化の醸成といった対応である。

 コーポレートガバナンスについては、2015年に新しい国際基準が公表されたが、国内金融機関の対応はこれから本格化していくと見込まれる。国内金融機関では、コーポレートガバナンス強化、リスク・アペタイト・フレームワーク構築、健全なリスク文化の醸成などについて個別に議論がなされており、これらを統合し経営管理プロセス全体の高度化を検討するという、経営レベルでの取り組みに結び付いていない点が課題として挙げられる。

 海外金融機関の取り組み事例として、規制強化への対応が避けられない環境でかつ投資予算には限りがある中、当該機関の主軸となる戦略的なサービスを選別し、業務の取捨選択を進めることで、規制対応にメリハリをつけ、過度に対応コストが掛からない工夫をしているケースを紹介した。定量、定性の両面での規制強化は、金融機関にとって負担のかかる取り組みではあるが、両面のバランスを取りながら資源を投入する対象を選別することで、結果として実効性の高いリスク管理態勢の構築に結び付いている。

 海外の金融当局側の動きについては、行き過ぎた規制強化の反省から費用対効果の小さい規制には調整が加えられる方向にあること、また金融機関のリスク管理の実効性をより重視する姿勢に転じていることが述べられた。

The Trend of Risk Management and Compliances in the Capital Market World

Numerix社 Senior Vice President Erdem Ozgul氏

 Numerixは、デリバティブを始めとする高度な金融商品のリスク計測やプライシングなどの豊富な分析機能を提供するソリューションベンダーで、グローバル規模で多くの金融機関での導入実績を誇る。本講演ではグローバルな金融規制に対する金融機関の取り組みの潮流と、Numerixが提案する最新のソリューションの導入事例を紹介いただいた。

 企業の業務構造の変革を促す「トランスフォメーション」、「デジタライゼーション」といったデジタル化の潮流は、金融機関のリスク管理業務においても取り組むべき課題として迫っている。金融機関でのリスク管理の態勢は、オペレーションの細分化やデータの個別管理が進んだことで、拠点や業務カテゴリーごとに個別最適な構造に留まっているケースが大半である。今後グローバル化が進み、より一層複雑化する業務を効率的にするには、デジタル化を意識した取り組みが必須である。具体的な例として、オープンアーキテクチャの活用、コネクティビティを意識した機能の実現、データのデジタル化による正確性の向上、オペレーションの自動化などが挙げられる。

 特にNumerixが注目するのは、リスク評価、プライシングなどの業務プロセスを可視化し、リアルタイムに把握できるリスクマネージメントである。Numerixのソリューションでは、統合的なプラットフォームを提供することにより、リアルタイムなリスクマネージメントが可能となっている。また、グローバル金融機関におけるソリューションの導入事例として、マニュアル業務をデジタル化したプロジェクトを紹介した。プロジェクトの重要ポイントとして、リアルタイムリスクマネージメントの重要性をグローバル規模で共有し、関係者の意識改革を徹底することを挙げた。

MongoDB and Risk & Regulatory Technology

MongoDB社 Enterprise Architect Buzz Moschetti氏

 MongoDBは、新しいデータ管理技術として注目されるNoSQL(※3)のソリューションベンダーである。オープンソースでのソリューションも提供しており、金融機関だけでなく他業態での利用実績も高い。NoSQLの技術が金融規制対応に必要なデータの収集・管理においてどのような効果をもたらすのか、事例を交えながら解説いただいた。

 MongoDBが提供するソリューションは、NoSQLの中でも最先端のドキュメント型データベースと呼ばれる技術を実現しており、多種多様な形式のドキュメントを統合したデータとして扱うことが可能である。また、オープンソースで利用できる点も、グローバル規制対応に迅速に対応できる大きな特長である。グローバル金融機関では、当局からの規制要件に対して前もって方向性を見定め、最終案が出されるころにはほぼ対応が完了している、といったスピード感のある取り組みをしている。その中で、機動的に分析や評価を可能とするMongoDBのソリューションが、限られた条件の中で必要な要件と課題を整理するためのプラットフォームとして活用されている。

 また、MongoDBのソリューションでは、データ量や業務量の増加に伴ってその性能を拡張していくスケールアウトへの対応が容易にできる点も大きな特長である。規制関連でその効果が発揮される最も特徴的な例として、OTCデリバティブなどの複雑な金融商品のデータ管理の事例が紹介された。デリバティブ商品は、その商品体系に複数の条件や形式があり、収集すべきデータの様式も多岐にわたるため、画一的な仕様によるデータ管理が難しいとされている。MongoDBのソリューションを利用することで、業務要件に応じて機動的に機能を追加し、性能拡張が容易に実現できる点が紹介された。

MARKLOGICと金融規制

MarkLogic社 Enterprise CTO Ken Krupa氏

 MarkLogicは、MongoDBと同じくNoSQLソリューションベンダーで、主に大規模な基幹業務でのデータ統合・管理に関する導入実績が豊富である。本講演では、グローバル金融機関において、MarkLogicのソリューションを導入することで、既存の業務やシステムで抱える課題をどう解決したのかを紹介いただいた。

 MarkLogic のソリューションは、NoSQLの特徴を活かし、機動的に機能を追加し大量のデータ処理が可能であるだけでなく、企業内で安定して利用するために必要とされる機能が充実している。トランザクションの一貫性をモニタリングする機能や、セキュリティ関連の機能、バックアップや障害発生時の復旧についても工夫がされており、金融機関での取引管理や決済業務など、基幹系業務での適用を得意としている。

 金融機関でのデータ管理のグローバル規制に関しては、BCBS239(※4)に見られるように、リスクデータの集計機能の充実、適切なタイミングでの正確なリスク報告の実施、ITインフラも含めたこれら全体の監督機能など、実現すべき要請事項が多岐にわたっている。加えて、平常時のみならず、金融危機時のようなストレス時にもリスクデータ集計やレポーティングを可能とする態勢を確保することが求められており、限られたコストの中でいかに対応するかが課題となっている。

 金融機関の事例として、MarkLogicのソリューションを活用してBCBS239に対応した、デリバティブのデータ管理が紹介された。既存のデータ管理システムも活かしつつ、自動的に統合する処理にMarkLogicのソリューションを適用することで、現行のシステム構成に対する追加だけではデータ管理のガバナンスを利かせることが困難であった課題を解決した。また、将来の仕様変更や追加にも柔軟に対応できる構成になっている点も挙げられた。

 また、グローバル投資銀行のグローバルオペレーションの事例として、銀行内にある数千のデータベースやファイルドキュメント類をMarkLogicで統合した事例も紹介された。いずれの事例でも、金融機関の基幹業務に関わる変更要件に対して、MarkLogicのソリューションを活用することで、膨大なコストをかけずにBCBS239に機動的に対応している。

金融リスク規制対応に求められるシステム構築ポイントについて

野村総合研究所 上席コンサルタント 三浦 敦
        上席研究員 奥井 謙一

 近年、自己資本規制の見直し(バーゼルⅢ)に代表されるように、金融機関は都度、金融規制への対応が求められており、迅速なシステム対応やリスク管理態勢の強化が急務となっている。金融機関が抱える課題として、迅速な対応を優先して個々の対応を積み重ねた結果、類似システムや類似データが各所に存在することになり、データ収集やその整合性の確保が困難になっている点が挙げられる。

 今後もグローバル規制は続くことを考えると、個別最適の積み上げから一段ステップアップし、規制の全体像を見据えたシステム構築やデータ管理の方針決めなど、組織横断的な対応が、金融機関の重要な経営戦略の一つになると想定される。本講演では、金融規制に対応するシステム構築において考慮すべき論点や、構築する際の工夫について、具体例を交えながら解説した。

 規制対応には、分析ロジックの構築に加え、必要なデータの収集や管理の負荷が伴う。収集したデータを個々の規制対応での活用に留めず、相互に共有できる仕組みを構築することが求められる。金融機関内の各システムから収集されるデータを、直接計算エンジンに投入するのではなく、異なる分析や計算エンジンで利用されることを想定したデータとして管理する考え方を紹介した。これにより、データを一元管理することでデータ品質を確保することができるほか、計算ロジックの変更や追加に柔軟に対応できるなど、データガバナンスの点からも効果を上げることができる。

 上記のコンセプトをふまえ、NRIでは複数のベンダーのソリューションも活用しながら、SA-CCR、FRTB-SA(※5)システムを構築した。構築において工夫した点や考慮した内容について、具体例を交えながら紹介した。

 店頭デリバティブの取引データの接続形式にはFpML(※6)を適用し、収集したデータの格納にNoSQLを使用した。これにより、多様な様式のデータを一元的に管理することが可能となる。

 同じ分析内容であっても金融規制によって報告の仕様が異なる場合があり、仕様に合わせて同じような計算を重複して行っているケースが見受けられる。これらに柔軟に対応する工夫として、金融商品と分析するリスク要因(金利、為替、信用等の各リスク)の組み合わせで計算すべき処理パターンを定義した。計算処理の簡素化を図ることで、自社内での評価システムと整合性を保って当局報告に必要なデータを生成することが可能となり、規制ごとに個別にロジックを組み立てるのではなく、柔軟かつ拡張性も持ち合わせたシステム構築が可能となる点を説明した。

カンファレンスの評価と今後について

 参加いただいた方々からのアンケートでは、特にデータ管理に関するシステムソリューションや導入事例が参考になったといった感想が多く寄せられた。講演後には、実際に構築したシステムのデモンストレーションを実施した。多くの参加者にお集まりいただき、実際の収集データの活用イメージを見て、仕様に関する質問も多く寄せられた。

 グローバル規模でビジネス展開する金融機関では、現行のシステム資産を活かしながら、いかに規制対応に柔軟に対応し、適切なコスト配分を実践するかが、最適なシステム構築の実現に向けて重要となる。

 本カンファレンスでは、今後もグローバルビジネスを展開する金融機関の関心の高いテーマを取り上げ、課題解決へのヒントを共有する企画を予定している。

1) 規制(Regulation)×技術(Technology)を組み合わせた造語。2015年頃より英国を中心に注目されている領域。複雑・高度化が進む金融規制に対応する、新しいITを活用したソリューションを指す。
2) リスクと収益を一体化して経営判断や事業運営を行う経営管理の考え方。
定量化できるリスクだけでなく、定量化できないリスクも内包する管理フレームワーク。経営層のみならず、各業務部門などが関わることでコミュニケーションを活性化し、組織全体で早期のリスク検知、対応が可能になることが期待される。
3) Not Only SQLを意味し、現在広く利用されている関係データベース管理システム(RDBMS)以外のソリューションを指す。データの形式や種類が多岐にわたるような場合に、データ構造を固定せず格納・管理することができ、機能の拡張性が高いとされる。
4) 「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則」。銀行のデータの集計能力と内部のリスク報告実務を強化することを企図したものとして、2013年1月にバーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision:BCBS)が公開。
5) SA-CCR(Standardised Approach for measuring Counterparty Credit Risk ):デリバティブ取引の倒産リスクの計測。FRTB(Fundamental Review of Trading Book):トレーディング勘定における市況変化に伴う価格変動リスクの計測。
6) FpML(Financial products Markup Language):店頭デリバティブの電子商取引におけるオープンソースのXML標準。国際スワップデリバティブ協会(International Swaps and Derivatives Association:ISDA)の後援を受け開発されている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

丹羽陽子Yoko Niwa

金融デジタル企画一部
上級システムコンサルタント

この執筆者の他の記事

丹羽陽子の他の記事一覧

注目ワード : RegTech

このページを見た人はこんなページも見ています