1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. ホールセールビジネス
  6. 変局点を迎えつつある米国レバレッジド・ローン市場

変局点を迎えつつある米国レバレッジド・ローン市場

2016年9月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 嶋村武史

再拡大していた米国レバレッジド・ローン市場が近時縮小傾向にある。背景には、年初の金融市場の混乱という循環的な要因に加えて、投資家と金融機関に係る規制環境の変化という構造的な要因も見られる。このような中、同市場を補完する形で、ファンドを活用した資金調達が拡大しつつある。

 近時拡大傾向にあった米国のレバレッジド・ローン(※1)市場が不安定化しつつある。以前述べた通り(※2)、同市場は世界金融危機以降に一時縮小していたが、2011年以降拡大基調に転じ、2013年には過去最大の残高に拡大。2014年に入ってからも発行は順調であった。このような環境は借手企業の資金繰りを容易にする一方、市場の過熱感を警戒し、その市場動向を注視する向きもあった。そのような中、2015年に入ってから組成額が減少傾向に入り、特に、2016年Q1には2013年の約半分程度まで組成が急激に落ち込んだ(図表1)。

 金融市場の混乱の中で、相対的にリスクが高いレバレッジド・ローンへの投資を敬遠する向きが増えたためというのが大きな要因の一つだが、発行体のタイプ別に比較するとより理由が明確になる。まず、エネルギー・セクターにおける組成額の縮小が際立って大きい。これは、2015年以降不安定化した原油価格との相関によるものと推察される。加えて、ファイナンシャル・スポンサー(※3)(以下、F/S)関連(※4)の組成額の減少も著しい。F/S(特にバイアウト・ファンド)は買収の際レバレッジを活用することが一般的であり、関連するローンは相対的に財務リスクが高いと見なされやすいことが背景にある(※5)。

規制とガイドラインの強化に伴う構造変化

 2016年Q1に組成額が急減した要因の多くは市場環境の変化に伴う循環要因と考えられる。実際、原油価格の下落に一定の歯止めがかかり、Brexitまでは金融市場が落ち着きを取り戻していた2016年2Qにおいては一定の発行額の回復が見られた。一方、循環要因の背後に、規制や当局の監視強化を発端として、投資家(※6)とローンを組成する金融機関に係る構造的な変化の兆しが見られる。今後を見通す上ではこれらの変化がより重要であろう。

 第一に、米国レバレッジド・ローン市場における最大の投資家であるCLO(※7)に係るリスク・リテンション規制が挙げられる。同規制は金融危機時に問題となった証券化商品の組成に伴う不適切なリスク移転等を防止する目的のものであり、運用マネジャーに5%以上の継続的なリスク(証券)保有を義務付ける。CLOに係る当該規制は2016年12月に施行が予定されている。現時点では実務的な対応が明確になっていない点もあり、事前に規制のインパクトを定量化することは困難であるが、アナリストの中には2016年のCLO発行額が昨年から6割程度低下すると見る向きもある。市況の変化の影響も大きいが、その要因の一つとして当該規制が挙げられている(※8)。

 第二に、レバレッジド・ローンを組成する金融機関側に対する金融当局の監視の強化が挙げられる。その発端は2013年3月にFRB、OCC、及びFDICが共同で出した高レバレッジの貸出に係るガイドラインである。同ガイドラインは、過熱するレバレッジド・ローン市場を受けて、貸手の引受基準やリスク管理の厳格化等を打ち出したものである。あくまでガイドラインに過ぎず、当初はその効果に関して疑問視されていたが、その後規制当局が大手行に対して個別の働きかけを行い、ガイドラインの遵守を求めていった。結果として、2014年後半~2015年初頃から徐々に効果が現れ始めているように見える(※9)。

今後の見通しと注目点

 上記の規制強化に伴う構造的な市場環境の変化に関連し、以下の3点に注目している。第一に、銀行を介さない資金調達チャネルの拡大である。上記の流れを受けて、シンジケート・ローン市場での資金調達に頼らず、ファンドからデット性資金を調達する借手が出てきている。具体的には、金融機関向けのガイドラインが強化された2013年以降、北米においてダイレクト・レンディング・ファンド(※10)の資金調達が拡大傾向にあり(図表2)、レバレッジド・ローン市場の一部を補完する動きが見られる。規制の流れに鑑みると、この流れは暫く続くのではないか。米国レバレッジド・ローン市場の残高に対して、現状のダイレクト・レンディング・ファンドの規模は遠く及ばないため、そのすべてを代替することはないが、特に中規模以下の案件(※11)においてその存在感を発揮するであろう。

 第二に、金融機関の収益への影響である。レバレッジド・ローンの組成に関して発生する手数料は、投資銀行事業の重要な収益源の一つである。特に、欧州系の大手金融機関は、米国において投資銀行部門のレバレッジド・ローン事業への依存度が相対的に高い。米国レバレッジド・ローン市場が変局点を迎えつつあり、かつ、ファンドの台頭という新たな競争環境に突入する中で、欧州系投資銀行が米国においてどのように収益源を多様化していくのかという点は重要な課題の一つであろう。

 第三に、規制の評価である。上述したファンドの役割の拡大は、金融当局にとって悩ましい問題を提示しているように見える。即ち、当局の規制下にある金融機関の役割が低下し、ファンドの役割が拡大することで、当局がコントロールし辛い領域にリスクが移転しているように見えるためだ。2016年7月末にFRB、OCC、及びFDICが共同でまとめた報告書(※12)においては、高レバレッジの貸出に係るガイドラインとその後の個別指導の結果、近時のレバレッジド・ローンの組成について引受やリスク管理の面で改善が見られたと述べているが、金融システム全体を見て実質的にどの程度効果があったのかという観点で評価することは依然として難しい。この点については、より長い時間軸で評価する必要があろう。

1) レバレッジド・ローンとは、一般的に、シンジケート・ローンの中で、借手の格付けがBBB未満、もしくは、発行時のLiborに対するスプレッドが一定以上のローンを指す。満期までの期間は1-8年程度で、借手は変動金利指標(Libor等)にスプレッドを上乗せした金利を支払う。LSTAによると、米国の同市場の残高は2015年9月末時点で約1.2兆ドルである。
2) 「再拡大する米国レバレッジド・ファイナンス市場」金融ITフォーカス2014年7月号。
3) ファイナンシャル・スポンサー(F/S)とは、プライベート・エクイティ・ファンド等の投資ファンドの総称。
4) F/S関連のレバレッジド・ローンの発行は、企業買収する際の資金調達や投資先企業の借換目的が主である。
5) 実際、2016年Q1においては、米国の大手投資ファンド・グループのCarlyleが手掛ける買収案件向けファイナンスが予定通り調達出来ない事例や、組成したF/S関連のローン案件に関連して米国の投資銀行である
Jefferiesが多額の評価損を計上する事例等が見られた。
6) 米国レバレッジド・ローン市場は流通市場が発達しており、財務管理の観点から金融機関は組成したローンを投資家に売却することが多い。
7) Collateralized Loan Obligationの略称。金融機関の貸付債権を証券化したもの。
8) Reuters、Forbes等の報道による。
9) 当該ガイドラインの対象外であるノン・バンク・レンダーの台頭やバイアウト・ファンドが投資先を買収する際のEBITDAに対する負債倍率の低下といった事象が見られるようになった。
10) 借手に対してシニア・デットを提供することで、リターンの獲得を目指すファンド。
11) ここでは1件当たり2億5千万ドル程度以下の買収案件に対する貸出等を想定。
12) Shared National Credit Review

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

嶋村武史

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

この執筆者の他の記事

嶋村武史の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています