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グローバル金融機関でのデータガバナンス高度化状況~EDMCデータマネジメントサーベイからの示唆~

2016年9月号

ホールセールソリューション企画部 上級研究員 小林孝明

バーゼル文書「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則」により、メガバンクグループだけでなく、大手保険会社や大手地方金融機関などもデータガバナンスの高度化を求められる。欧米金融機関におけるデータガバナンス高度化のサーベイレポートによれば、「データリネージの解明」が一つのポイントである。

欧米金融機関でもなかなか進まないデータガバナンス高度化への対応

 バーゼル文書「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則」(BCBS239)では、メガバンクグループ(G-SIBs(※1))に対して2016年初までにデータガバナンス体制の確立を求めている。また今後数年の間に、メガバンクグループ以外の主要金融機関・大手保険会社や大手地方金融機関など(D-SIBs(※2)を含む)に対しても、何らかのデータガバナンス高度化が求められると予想されている。

 このような背景のもと、野村総合研究所では米国のデータガバナンス啓蒙団体であるEDMC(※3)が2015年11月に発表した、欧米金融機関におけるデータガバナンスの高度化に関するサーベイレポート(※4)を入手し、分析を試みた。当初は、欧米金融機関はデータガバナンスに対する意識が日本より進んでおり、データガバナンスへの対応も相当程度進捗しているのではないかと想定していた。ところが実際の進捗状況は驚くほど先を進んでいるわけではなく、本邦金融機関において今まさに検討しているようなテーマについて、同じように悩んでいる状況であることが分かった。

 具体的には、欧米金融機関では最高データ管理責任者(CDO(※5))やデータマネジメント部門(DMO(※6))などの体制の設置はほぼ完了しているものの、金融機関として重要なデータの優先付け(CDE(※7))が進んでおらず、データリネージの解明(後述)ができていないという大きな壁に直面しているところが多い。

 欧米金融機関においてデータリネージの解明ができていない根本原因を分析することは、今後、本邦金融機関がデータガバナンス高度化を進める上で大いに役立つと考えられる。そこで、国内の金融機関や当局関係者と議論を重ね、原因についての推察をおこなった。

なぜデータリネージの解明が重要なのか

 “データリネージの解明”とはいささか聞きなれない言葉かもしれないが、データガバナンス高度化の上で重要なタスクである。例えば、銀行では営業部門で発生した取引ごとに、取引明細データが蓄積される。この取引明細データは、日次締め処理後に商品別補助簿や日計など、目的別の残高データとして積み上げられ、営業統括部門や財務統括部門が管理するデータとして保管される。さらに経営層に対しては、さまざまな切り口で分解・積上げされて経営報告データとなる。このようにデータはそれぞれの目的に沿った形式へと変換を繰り返していく。その際、それぞれの変換前後の連続性(トレーサビリティ)をシステム的・業務的に明確にすることを“データリネージの解明”と呼んでいる。

 とある先進的な金融機関は、データリネージの解明を、データガバナンス高度化プロジェクトの最初に完了している必要があるものとして位置づけている。なぜなら、データリネージが解明されていなければ、複雑に絡み合ったデータの流れ(データチェーン)全体の中で、どこに問題があるかを見つけ出し、その問題解決の優先順位付けを判断することができないからである。

 欧米金融機関でもデータリネージの解明が達成されているところはまだ数%程度に留まっており、本邦金融機関にいたっては、いまだ未着手の金融機関がほとんどである。なぜデータリネージの解明は進まないのか。関係者との議論から、大きく2つの根本原因が存在するのではないかとの結論に達した。

データリネージが進まない2つの根本原因

 まず一つ目の根本原因として、データリネージの解明に着手する以前に、対象データの整理作業の段階で既に膨大な負荷が発生し、それ以上前に進むのが困難となることが考えられる。

 例えば、データリネージの解明の前段階で、まず金融機関内部の重要なデータの棚卸しを行い、複数の商品ラインやサービスラインで業務的に同義となるデータについて、その整合性の確認を行うことがある。その際、業務的な観点から本来同じ意味が定義されているはずのデータ同士で、異なった意味が定義されていることがあり、その際には修正が必要となる。直接修正を行わずにデータディクショナリ(※8)を別途作成する場合もあるだろう。しかし、本来同じコード体系で番号が付与されているはずのデータにそれぞれ異なったコード体系の番号が付与されていた、などの重大な不整合が見つかった場合は、データベース自体を再構築しなければならなくなるケースも出てくる。こうなると、なかなか本題のデータリネージの解明にまでたどり着けない。

 金融機関がデータリネージの解明を進める際には、その前段階として「データの棚卸」を実施し、「データ同士の整合性を確認」することが必要となり、場合によっては「データディクショナリを作成する」など、派生的なタスクが大量に発生することを予め織り込んでおくことが肝要である。

 二つ目の根本要因は、営業などのフロント部門がデータガバナンスの高度化プロジェクトに、積極的な参加ができていないことではないだろうか。事実、多くの欧米金融機関では経営が率先してデータガバナンスの重要性について啓蒙を進めているものの、フロント部門から“積極的”なデータガバナンス高度化への協力を得られていないようである。

 うまくいかない理由としては二つのことが考えられる。一つはフロント部門に対してもミドル部門やバック部門と同じガバナンス方針・規程を適用しているため、フロント部門にとっては煩雑であるなど、効果的な統制を効かせられないケースである。もう一つは、フロント部門が準拠すべきルール内容が業務に直結しておらず、何故これをやる必要があるのか、やれば業績向上に結びつくのか、という納得感がないケースである。

 このような非効率な状況に陥らないためには、フロント部門の業務内容や業績目標に合致した業務マニュアルとしてデータガバナンス方針を紐解き、フロント部門の言葉で解説することが重要である。もちろんフロント部門の業務は多種多様であり、何種類のマニュアルを整備するかという検討も必要である。

 データガバナンスの高度化を推進する際には、以上のようなさまざまな欧米金融機関の試みや、本邦金融機関における議論の内容を参考にすることが、最も安全で早い進め方ではないだろうか。

1) Global Systemically Important Banksの略で、グローバルなシステム上重要な銀行。日本では3メガバンクグループが指定されている。
2) Domestic Systemically Important Banksの略で、国内のシステム上重要な銀行。日本では三井住友トラスト・ホールディングス、農林中央金庫、大和証券グループ本社、野村ホールディングスが指定されている。
3) 正式名称はThe Enterprise Data Management Council。2005年に金融機関におけるデータ管理実務の発展を目的にニューヨークで設立。J.P. Morgan、Goldman Sachs、Wells Fargo 等米国のTier 1銀行のほか英国、カナダの金融機関等がメンバー。実質的な業界標準である「データ管理評価モデル:Data Management Capability Assessment Model(DCAM)」や「金融商品の体系モデル:Financial Industry Business Ontology(FIBO)」を提唱、リリース。NRIは2014年12月よりメンバー登録しDCAMの日本語化などで活動。
4) サーベイ報告書“2015 Data Management Industry Benchmark Report”。本サーベイにはEDMCの非メンバー金融機関も含めグローバルに活動する128の商業銀行や投資銀行、資産運用会社などが参加している。
5) Chief Data Officerの略。最高データ管理責任者。
6) Data Management Officeの略で、CDO’s Officeとも言われ、一般にCDOの下で全社的なデータ管理・運営業務のとりまとめを担う。
7) Critical Data Elementの略。金融機関の経営戦略などの観点より、最も重要な業務の素データを特定し、そのデータが金融機関としてどのように活用されているかを明確にする作業。
8) 部門ごと、システムごとにデータの定義内容が異なっていた場合、それらの関連性を整理したデータディクショナリを別途作成するケースがある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

小林 孝明

小林孝明Takaaki Kobayashi

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:リスク経営管理、規制動向調査・分析

注目ワード : RegTech

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