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原点回帰を求められる証券アナリスト

2016年9月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

日本証券業協会が、アナリストの発行体への取材や投資家への情報伝達行為に関するガイドライン案を作成した。中長期的な観点から企業価値を分析するというアナリストの原点への回帰が求められている。

ガイドライン案作成の背景

 このほど証券業者の自主規制機関である日本証券業協会(日証協)が、証券会社に所属するアナリストによる発行体への取材や投資家への情報伝達行為に関するガイドライン案を作成・公表した。

 証券会社のアナリストは、一般的な公開情報のほか、独自の企業取材で得た情報に基づいて上場企業の企業価値を分析し、投資情報の提供や投資推奨を行う。アナリストが日常的に接触する投資家のほとんどは機関投資家だが、アナリストが執筆したレポートやその内容を加工した様々な投資情報は、個人投資家向けにも提供される。投資家の投資判断を助け、市場の機能を高めるアナリストの社会的意義は大きい。

 しかし、アナリストの活動をめぐっては、問題点も指摘されてきた。2002年には、米国でのアナリストに対する規制強化の動きなどを踏まえ、日証協が、アナリストの引受部門及び投資銀行部門の業務への関与を禁止するとともに、アナリストが上場企業等から入手した投資判断に影響を及ぼすような未公表情報の適正な管理を求める自主規制規則を定めている。

 ところが、昨年から今年にかけて、複数の証券会社に対して、アナリストが取材等で法人関係情報、すなわち顧客の投資判断に影響を及ぼすような上場企業に関する未公表情報を入手し、当該情報を顧客に提供して勧誘を行ったとして行政処分が科された。

 こうした事案の背景には、決算期末に近い時期に、アナリストが足下の業績動向についてヒアリングするプレビュー取材と呼ばれる慣行があった。また、問題となったアナリストは、電話や電子メールを通じて未公表情報を社内の営業員や顧客に伝達していたが、従来の規則はアナリスト・レポート以外の手段による情報伝達のあり方については規定を設けていない。

 そこで日証協は、発行体からの未公表情報、とりわけ未公表の決算期の業績に関する情報の入手やレポート以外の手段による顧客への情報伝達のあり方について、ワーキンググループで検討することとしたのである。

ガイドライン案の概要

 ガイドライン案は、プレビュー取材で得た法人関係情報等の未公表情報を特定顧客に伝達するといった行動は、早耳情報の提供に過ぎず、アナリスト本来の姿から逸脱し、市場の透明性・公正性の確保の観点から問題とされるべきものだという認識に立つ。

 その上で、アナリストに対して、概ね次のような行動指針を示している。

① アナリストは原則としてプレビュー取材を行わないものとする。
② 意図せずして未公表の決算期の業績に関する情報を取得した場合、管理部門等に報告し適切に管理する。
③ 公表済みのアナリスト・レポートと矛盾せず、かつ投資判断に影響のない範囲の情報は、電話や電子メールなどレポート以外の手段によって特定顧客に伝達しても差し支えない。

 ガイドライン案は、アナリスト・レポート以外の伝達手段を6つの類型に分け、各類型について問題のある情報伝達にあたると考えられるような行動を詳細に説明するといった丁寧な手法をとっている。それだけに、一瞥しただけでは細かな記述が多く、煩雑なルールを設けようとしていると受け止められるかも知れないが、それは大きな誤解であろう。

 また、これはあくまでガイドラインであり、拘束力のある一律のルールを定めるものではない。従って、アナリストがガイドラインに反するような行動をとったとしても、直ちに所属証券会社に対して、日証協による過怠金賦課などの制裁が科されるわけではない。

ガイドライン案の意義

 2016年4月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告は、アナリストの行動をめぐる行政処分事案を踏まえ、上場企業が未公表の重要な情報を特定の第三者に対して選択的に開示することを禁じるフェア・ディスクロージャー・ルールの導入を検討するよう提言した(7月号掲載の拙稿参照)。

 しかし、フェア・ディスクロージャー・ルールは、制度設計次第では、違反を恐れる上場企業の過剰反応が市場における情報の質と量の低下を招いたり、現在進められているコーポレートガバナンス改革の目玉とも言うべき上場企業と投資家の建設的な対話(エンゲージメント)に水を差しかねないといった懸念が払拭できない。その導入に向けては慎重な検討が必要である。

 それだけに、証券業界が統一的な行動指針を示すことで、アナリスト自らが襟を正す姿勢を明らかにし、アナリストに対する上場企業や投資家の見方を変えていくことが重要である。

 そもそもアナリストの役割は、企業に対する深い分析と理解に基づき、中長期的な観点から企業価値と株価のギャップを判断することである。ガイドライン案は、アナリストの原点回帰を促すものと言って良いだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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