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モバイルペイメントの実現方式をめぐる動向

2016年8月号

デジタルビジネス開発部 上級研究員 藤吉栄二

モバイルペイメントの実現方式として、国際標準のNFCがあるが、最近はスマートフォンのアプリケーションを利用するスマホアプリ型が登場している。ICカード取引を普及させたいクレジット業界やクレジット決済手数料を抑えたい小売の思惑もあり、モバイルNFC型かスマホアプリ型かといった実現方式の決着は当面先になりそうだ。

 リアル店舗向けのモバイルペイメント(支払い)は古くて新しい技術である。日本では、2004年におサイフケータイが登場し、コンビニや駅のキオスクなどで利用できるようになっている。一方、海外で普及の兆しが見え始めたのは、Apple Payの登場からである。米国では先行したIsis(※1)が普及に至らず、モバイルペイメントの先行きを不安視する声もあったが、2014年9月にApple Payがリリースされた後、グーグルの「Android Pay」、サムソンの「Samsung Pay」などが相次いでリリースされた。また、2015年後半以降は、ウォルマートやJPモルガンチェース銀行などの大企業も参入を表明し、大きな話題となっている。

モバイルペイメントの実現方式は2つ

 モバイルペイメントの実現方式は、モバイルNFC(※2)型とスマホアプリ型の2つに大別される(図表)。

 モバイルNFC型は、NFC専用のICチップを搭載した端末が必要となるため、iPhone6/6plus以降のiPhone、NFC搭載のAndroid端末など、利用可能な機種が限定される。ただし、対応機種は増え始めており、2016年夏にはNFCを搭載したウィンドウズ10モバイル端末も登場する見込みとなっている。

 支払いにおける基本的な動作は非接触ICカードと同様である。POSレジ側のリーダー(読み取り機)にスマートフォンをかざすと、端末からリーダーに対して決済情報(口座情報など)が渡される。モバイルNFC型の特徴は、EMV(※3)仕様にもとづいた国際標準であることだ。そのため、NFCによる決済であれば、加盟店はリーダーを1台用意するだけでよい。米国や欧州では、2010年ごろからマスターカードやビザが非接触ICカードを用いた決済を推進するため、NFCリーダーの設置を進めてきた。Apple Payの発表に際し、アップルが「全米の20万店舗で利用できる」と宣言したのには、こうした背景がある。モバイルNFC型の課題は初期コストの高さである。基本は非接触ICカードのプラットフォームであるため、スマホアプリ型よりもリーダーが高額になる。

 一方のスマホアプリ型決済は、NFCを利用せず、スマートフォンのアプリを利用した決済であり、支払方法は事業者によって異なる。Walmart Payの場合、スマートフォンのカメラを使ってレジに表示された2次元コードを撮影する。Chase Payは、利用者のスマートフォンの画面上に2次元コードを表示させ、レジ側のリーダーで読み取る。日本のOrigamiPayでは、レジ側から発せられたビーコンをスマートフォンで受信する。いずれの場合もスマートフォンとレジの間で行われるのは、決済サービスの利用者を認証するための本人確認であり、決済ではない。決済情報はあらかじめ、決済事業者のサーバに登録され、上記の本人確認が完了すると、サーバから店舗側に決済情報が送信されて決済が完了するという仕組みである。

 スマホアプリ型は、機種を問わず利用できるメリットがある(※4)。また、決済情報がサーバ側にあるため、モバイルeコマースでの利用も可能である。課題は、決済サービス毎に専用機器をレジに用意しなければならないことである。さらに、支払い時にアプリケーションを立ち上げたり、2次元コードをカメラで撮影するなどの手間がかかる点もネックである。

本命の決着は当面先に

 現在、モバイルNFC型の決済サービスは、クレジット決済が普及している国へ拡大している。Apple Payは、米国に加え、英国、カナダ、オーストラリア、中国、シンガポールへ進出した。2016年中には、香港、スペイン、フランス、スイスにも展開予定となっている。Samsung Payも、韓国、米国に加え中国、オーストラリアなどに進出している。グローバル展開を進める背景には、ICカード対応を急ぐカード会社の思惑が絡んでいる。不正カードによる取引の増加に悩むクレジットカード業界にとって、セキュリティを強化できるICカードへの移行は不可避であり、ビザやマスターカードはライアビリティシフト(※5)を発令し、ICカードの利用を推進している。その際、決済端末ベンダーはNFCにも対応したICカードリーダーを提案し、導入先の拡大を図っている。

 一方のスマホアプリ型の決済サービスは、小売事業者や銀行が自社の顧客向けアプリケーションの一機能として提供し、利用可能な店舗を拡大している。たとえばウォルマートは、系列のスーパーセンターやネイバーフッドマーケットでのWalmart Payの導入を進めており、2016年中に米国内の全店舗で利用できることになっている(※6)。JPモルガンチェース銀行は、ChasePayの利用を促進するためにスターバックスとシェル石油と提携した。今後は、彼らのアプリの中にChasePayが組み込まれ、スターバックスカードや給油カードの残金補充時に利用可能となる。

 大手小売や銀行がモバイルペイメントを提供する背景には、クレジットカード業界と距離を取ろうとする思惑がある。例えばChase Payの決済ネットワークは、取引金額に数パーセントの手数料を課すクレジット取引と異なり、固定料制で提供され、利用企業にとっては魅力がある。スターバックスは、9400万口座を要するJPモルガンチェース銀行と提携することで、残金の補充先をChase Payに誘導できる。モバイルペイメントは顧客サービスの一環であると同時に、クレジットカード業界との関係の見直しを図る上で格好の交渉ツールなのである。ウォルマートは、Walmart Payで各種カードに対応しているものの、カード会社との関係は決して良好ではない(※7)。Walmart Payの普及次第では、自社に有利な口座に顧客を誘導する可能性もある。

 現時点では決済をめぐる対応で、各社の隔たりは大きい。NFCかスマホアプリか、モバイルペイメントの本命の決着は当面先になりそうだ。

1) ベライゾンなど通信事業者のジョイントベンチャーが始めたモバイルNFC支払いサービス。2012年に開始したが利用者が伸びず、事業名称を変更したのち、5000万ドルでグーグルに売却された。
2) NFCは、近接無線通信の規格。Near Field Communicationの略。
3) EMVは、国際ブランドのEuropay、MasterCard、Visaの頭文字。
4) ただし、スマートフォン用のアプリケーションが提供されることが前提となる。
5) EMV準拠の非接触ICカードに対応したリーダーを設置していない加盟店における不正カードの債務責任がアクワイアラー(加盟店契約会社)に課せられること。
6) 2016年7月4日時点では、37州の約5000店舗で利用可能。
7) ウォルマートは、カードの決済手数料負担をめぐって、度々ビザを提訴している。2016年7月には、カナダのウォルマートでビザカードの取扱いを停止した。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

藤吉栄二

藤吉栄二Eiji Fujiyoshi

IT基盤イノベーション本部 ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:モバイル技術、サービス

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