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米国ロボ・アドバイザー市場の再編と近未来展望

2016年8月号

NRIアメリカ 金融研究室長 吉永高士

米国ロボ・アドバイザー市場では新興企業による新規参入が依然として続く一方で、先行者や後発スタートアップ企業による身売りも相次いでいる。身売り先や、身売り後のポジショニングについてはすでに一定のパターンも確立されつつあるなかで、再編進捗後のロボ・アドバイザー市場の近未来を展望する。

2015年以降に先行組を中心に独立系4社が身売り

 2016年7月初頭時点において、米国内で営業する独立系新興フィンテック企業としてのロボ・アドバイザー(以下、ロボ・アド)は約50社が存在している。このうち約半数はサービス開発中であったり、ベータ版の試供段階であったりするので、実際に有償サービスを提供しているのは20社強である(「ロボ・アド」の定義はかならずしも日米間で同一ではないが(※1)、ここでは、米国のロボ・アドとしては最も一般的な、投資一任サービスをネットやモバイルチャネルを中心にセルフで提供する投資顧問サービスまたはその業者とする)。

 米国内でロボ・アドバイザーの概念がおおよそ確立したのは、独立系最大手2社のうちの一角を占めるウエルスフロント社のサービスが本格開始した約5年前である。以後、純粋な新規創業による参入だけでなく、2000年代半ば以前に創業した他のフィンテック企業がロボ・アド・ブームに乗じ業種転換した複数例も含め、15年までは一貫して独立系ロボ・アド企業数は増加の一途を辿ってきたが、ここへきて2つの観点で潮目の変化が感じられるようになってきた。

 1つは、独立系の新規参入の減速である。14~15年にはそれぞれ10社前後の新規参入があったが、16年上半期では3社にとどまっている(※2)。年初からの中国経済成長予測の下方修正、原油相場動向、英国のEU離脱といった複合要因による世界的な相場押し下げが遠因として影響している面もあるだろうが、いまだに黒字化した独立系ロボ・アド業者がいない中、当事者にとっては新興ロボ・アド企業間の競争だけをみても、飽和感やプレーヤー数の過剰感が心理的にも構造的にも感じられやすい業界の発展段階に入った可能性がある。

 もう1つの潮目の変化は、この飽和感の高まりと密接に関係するものだが、15年以降相次ぐ身売りの動きである。同年2月にアップサイド・ファイナンシャルがラップ・ソリューションベンダーのインベストネット社への売却で合意したのを皮切りに、コヴェスター(同4月にディスカウント証券のインタラクティブ・ブローカーズに売却合意)、フューチャー・アドバイザー(同8月に運用会社のブラックロックに売却合意)、ジェムステップ(16年1月に運用会社のインベスコに売却合意)と、エグジット(創業者または投資家による出口)の行使決断が立て続けにみられた。これら4社のうち3社までは、13年以前にサービスを開始した先行組であり、顧客基盤的にも資金調達的にも同業者のなかでは比較的優位な状況にあった者たちである。今後の自力単独のみによる成長の限界を冷静にみきわめつつ、一定以上の達成感とともに、創業者利益を一気に実現しにいったものとみられる。

身売り先の営業基盤の中で一層広範に活かされる

 最近までの独立系ロボ・アド業者の相次ぐ再編を目の当たりにするたびに、筆者が既視感とともに想起してしまうのは、同じく米国において90年代後半において見られたネット専業銀行とネット専業証券の新規開設ラッシュと、その後の再編・淘汰の動きである。いずれも、米国のインターネット本格普及年となった95年から新規創業と既存業者の事業転換によりピーク時にはそれぞれ40社前後にまでプレーヤー数が増加したが、その後は身売りによる淘汰が進んだ。現在米国で独立のネット専業証券としての事業モデルを確立し、かつ現在も預り資産規模で中堅の対面証券会社と同等かそれ以上のプレゼンスを維持するのは、Eトレード1社のみである(※3)。ネット専業銀行に至ってはネット専用預金シェアの約5割のシェア(※4)を占めていた最大手のINGディレクト(※5)が11年に地銀・クレジットカード兼営のキャピタル・ワンに売却されたことで、独立のネット専業モデルで中堅地銀以上の資産・預金規模を持つ者はいなくなった。

 ただし、ネットチャネル中心の独立金融サービス業者の数がピーク時に比べ激減したとしても、それがそのサービスの減少や衰退を決して意味するわけではないことについては、米国のネット専業銀行・証券の再編淘汰後の証券や銀行のネット取引の浸透と定着をみれば明らかだ。彼らの商品・サービスは最終的には既存金融機関に顧客基盤とともに営業譲渡されたり、ビジネスインフラのソリューションサービスとして提供されたものが多かったが、仮に専業者が自力単独で市場を切り拓いていた場合に比べて数百倍以上ものエンドユーザー(個人)に利用されるようになっている。

 米国のロボ・アドについても同じことが起きることは想像に難くない。身売りをした4社を買収したのは運用会社と投資商品販売業者向けベンダーである。いずれも、彼らが抱える営業基盤のなかで、より広範な投資家に利用されることが想定されており、すでにその本格的な実現に向けた動きが始まっている。

買収者側は主に販社向け営業支援ツールとして活用

 これまでの買収例を見る限り、自社で抱える個人投資家に直接的にロボ・アド・サービスを提供(B2C)することを主たる意図として行われたケースはない。運用会社の場合は、直販顧客向けというよりも、むしろ彼らの投信・ETFを販売する証券会社、銀行(※6)、保険代理店等の営業員が小口顧客などに対して従来よりもきめ細かくプロファイリングや提案を行う際の支援ツールとしての提供がメインの想定利用シーンとされている。すでに、ブラックロック社では買収先ロボ・アドのインフラを使い大手地銀や対面証券向けに3件の提携を結んでおり(※7)、今後同様の動きは他の運用会社にも、買収と自前構築の両面で広がることは必至とみられる。同様の構図は投資商品販売業者向けベンダーのロボ・アド供給においても当てはまるとみられており、これらにより、向う10年以内に数百社以上もの販社がロボ・アド提供を実現するだろう。

 ちなみに、筆者の知人であるロボ・アドCEOも、現存する約50社もの独立ロボ・アド業者のうち最終的に単独で生き残れるのは多くても3社であると予測する。しかし、自身が経営するロボ・アドはその3社に入ることは絶対にありえないのだという。彼の会社は15年にサービスを開始した後発組だが、運用会社か投資商品販売業者向けベンダーに身売りをするのを理想とする基本的エグジット戦略を抱いている。これは、成り行きまかせの思いつきや妥協の産物ではなく、ロボ・アド事業やネット専業フィンテック企業の生来的特質や歴史観に向き合った彼が、冷静かつ実直に描いたシナリオである。

1) 日本でもすでに複数の独立系フィンテック企業や既存金融機関が「ロボ・アドバイザー」サービスを提供しているが、日本のロボ・アドのなかには、顧客がセルフでプロファイリングをした後に、証券口座での投信の分散買付けやラップ型投信を提案するタイプのものも含まれている。これに対し米国では、広義通称としての一部例外的な用例を除けば、ロボ・アドの「アドバイザー」の呼称には投資顧問契約であることが業法上も内包されており、基本的にはセルフのラップ(投資一任契約)サービスの提供者を指す。
2) 元スミス・バーニーCEOやバンク・オブ・アメリカの個人部門長を歴任したサリー・クローチェック氏が創業したエルベスト社など。
3) ディスカウント証券大手のチャールズ・シュワブやTDアメリトレードなどは、200 ~ 300ヵ所の実店舗やコールセンターをビルトインしたマルチチャネルモデルであり、また彼らはインターネット普及以前より多数の実店舗と電話を中心に営業しており、ネット専業モデルではない。
4) S&Lファイナンシャル調べ。
5) 蘭保険グループINGの傘下ながら、米国では他事業のチャネルから独立的にネット専業銀行事業を展開。
6) 米銀は投資商品販売が本体ではできないため、グループ証券会社や外部証券会社を通じて販売する形式をとる。
7) BBVAコンパス、LPLファイナンシャル、RBCウエルス・マネジメントと提携済み。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

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