1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. リテールビジネス
  6. 注目高まるロイヤリティマーケティング

注目高まるロイヤリティマーケティング

2016年8月号

ブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパン株式会社 取締役 川津のり

自社のロイヤルカスタマーに対し、ステータスに応じた特典を提供することで囲い込みと売上拡大を実現するロイヤリティプログラムは、デジタル化により昨今急速に進化を遂げている。米国の金融業界でも導入事例が増えつつあり、適切な戦略立案とIT活用、アナリティクスによるCRMの高度化はもはや無視できない重要テーマである。

急速に進化するロイヤリティマーケティング

 人口減少と高齢化による市場の成熟・縮小が顕著である日本では、企業の競争が厳しさを増している。ここで注目が高まっているのが、従来のマスマーケティングに対し、個人を特定して行うパーソナルマーケティング、特に、優良顧客を判別し優遇することで囲い込みと売上拡大をはかる「ロイヤリティマーケティング」である。

 ここでの「ロイヤリティ」とは顧客のブランドや製品・サービスに対する愛着・忠誠心を意味する。ロイヤリティの高い顧客は、一般顧客に比べて最新取引日(Recency)、取引頻度(Frequency)、取引金額(Monetary)などの基本指標のそれぞれについて業績に対する貢献度が高く、企業にとっては最も重視すべき存在であり、「ロイヤルカスタマー(優良顧客)」と呼ばれる。

 ロイヤリティマーケティングは以下をゴールとする。
①業績貢献度の高いロイヤルカスタマーを増やす
②ステータスに応じた特典でロイヤルカスタマーの離反を防ぐ

 米国はロイヤリティマーケティング先進国であり、マーケティング部門に専門チームが設置されていることが多い。また、昨今は重要度も高まり予算も増える傾向にある。なぜならデジタル化の進行によりロイヤリティマーケティングは飛躍的に進化しており、これに遅れることはビジネスにおける大きな機会損失に直結するからである。モバイルデバイス・ソーシャルメディアの普及、位置情報活用、AIや機械学習(レコメンデーション、顔・行動パターン認識)技術の進化は、顧客構造の把握、顧客理解、顧客との関係構築を一挙に高度化している。

ロイヤリティプログラム≠ポイントプログラム

 日本でもロイヤリティプログラムを導入する企業は徐々に増えつつあるが、その多くが全会員に対する一斉・同一の「お知らせメール配信」や「クーポン送付」、ほぼ一律にすべての顧客に対してポイントを付与して実質値引きをすることに終始している。値引きは顧客にとってわかりやすい価値ではあるが、慣れも早いため反応が鈍りやすく、他社との競争に継続的に勝つ要素、つまりロイヤリティの醸成につながりにくい。

 ロイヤリティマーケティングの本質は、顧客が自社との関与(利用・契約・取引など)を継続し、さらに関与度を高める(利用件数・契約数・取引額を増やすなど)ほど、より自分自身のカスタマーエクスペリエンス(顧客経験価値)が良質になる、優越感を感じる、ゆえに離れがたくなる、という世界を創り出すことにある。これを理解し、単なる競合とは異なる「自社顧客の特性を深く理解した上での自社に合ったオリジナルプログラム」を構築しなければ、差別化要素にはならない。

米国の金融業界における状況

 米・フォレスター社調査によると、米国の金融業界がロイヤリティプログラムを通じて狙う主な成果は「関与度向上」「ブランド擁護」である。他業界と比較すると、新規顧客(契約)獲得を目的とした導入も多く、既存顧客の維持・育成と同等に考える企業が約7割存在する。また、従来はDM、コールセンター、Eメールがプログラムの主要コミュニケーションチャネルであったが、今後はモバイルアプリやソーシャルメディアの活用に移行を表明する企業も増えている。

 米国の金融業界におけるロイヤリティ戦略に関するトレンドのキーワードは「モバイル・ロイヤリティ」「オムニチャネルコミュニケーション」「データアナリティクス」「パーソナライゼーション」「リアルタイム」であり、既存チャネルとデジタルチャネルをいかに複合的かつ効果的に組み合わせて顧客と高質なコミュニケーションをとり続けるかが競合他社との差別化において重要なポイントと認識されている。

 たとえば保険業界では、もともと顧客維持率は高い特性があるが、米プログレッシブ社はCS向上と主軸事業の自動車保険における他社との差別化を目的に、独自プログラムの導入を決めた。特徴は「アクシデント・フォーギブネス」で、ロイヤルカスタマーとして認定された顧客は、1回~数回の事故であれば保険料が据え置かれる。事故の規模や回数など、容赦される内容は顧客の階層に応じて変えられている。また、米アメリカンファミリー社は2016年1月からオリジナルプログラムのパイロットテストを一部地域で開始した。会員は、同社が指定した特定の活動(車のタイヤ交換など)を実行するごとにポイントを獲得でき、ステータスに応じた特典が得られる。

ロイヤリティプログラム構築の要諦

 売上拡大に寄与する、効果的な自社独自のロイヤリティプログラムを構築するには、適切な戦略立案と適切なITソリューションの導入、運営体制の構築が重要

 になる。例えば米国ではCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)がリードするロイヤリティマーケティング部門がCEOやCIO、関係部署と連携しながらKPIをモニタリングする体制を構築している。そして、その多くがパートナーとして総合ロイヤリティ・ソリューション・プロバイダー(※1)を採用している。

 戦略立案フェーズでは、まずロイヤルカスタマーを定義付け、判別することから始める。ここでターゲット顧客を抽出、各顧客層の特徴を考慮したプログラム設計とそこから得られる顧客経験価値をデザインする。

 ロイヤリティプログラムはいったん始めたら、顧客との関係を続ける限り、その質を高め続けなくてはならない。そこで重要になるのが単なる集計ではなく、会員のアクティビティデータの高度な分析を繰り返し行い、深い洞察を導く「アナリティクス」である。「誰に、何を、どのくらいの特典(優待サービス)として与えることが最も投資対効果が高いか」を定量的に導き出す役割を担う。必要な投資とプログラム導入によって得られる期待効果を財務的収益モデルとして数値化した上でプログラムの内容を決定するこのデザインフェーズこそが、成否を分ける最も重要なプロセスである。そして、運営にあたって適切なKPIを設定し継続的に効果を検証することが、ロイヤリティプログラムの成功には欠かせない。

1) 米国には多くのロイヤリティ・ソリューション・プロバイダーが存在し、ブライアリー・アンド・パートナーズ社がリーダーポジション、続いてイプシロン社、エイミア社が大手として続く(フォレスター社調べ)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

川津のり

川津のりNori Kawazu

ブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパン株式会社
取締役
専門:マーケティング戦略

このページを見た人はこんなページも見ています