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国債T+1決済におけるユーティリティサービスの意義

2016年8月号

NRIプロセスイノベーション PSS事業部長 木村栄伸

ここ数年で最も大きな制度変更である国債の決済T+1導入に向けての準備が本格化してきた。ユーティリティサービスを利用したオペレーティングモデルが競争力を維持するためのソリューションとして検討されている。

 2014年に日本証券業協会(JSDA)を中心としたワーキンググループから「国債取引の決済期間の短縮(T+1)に向けたグランドデザイン」が発表された。その中での大きな変更点は、①アウトライト取引(売買)ならびにSCレポ取引(※1)の決済を現行のT+2からT+1(約定日の翌日が決済日)へ短縮、②GCレポ取引(※2)T+0化に伴う銘柄後決め方式の導入である。

 今回新たに導入される銘柄後決めGCレポ取引では、日本クリアリング機構(JSCC)(※3)が担保銘柄割当機能を担い、JSDAと共にマーケットルールの整備と参加者の事務負担軽減に貢献している。本番運用開始は2018年5月が予定され、先日、JSDAより総合運転試験に関する実施概要が発表された。参加者側でも業務フローの整備やシステム開発等のマーケットテストに向けた準備がついに本格化してくる。

国債のT+1決済導入に向けた課題

 当然ながら決済参加者として国債の決済T+1を導入することは簡単な仕事ではない。契約書の更新、新たな業務フローの設計、システム更改、プロジェクトの管理等々考えるべきことは多岐にわたるが、決済実務の観点からは以下のような検討課題が挙げられよう。

①ポストトレード処理の短時間化
 T+1の導入で最も懸念されるのが、約定日当日中にポストトレード業務の大部分をこなさなければならない点である。今まで約定日当日と翌日を使って処理していたコンファメーション、照合不一致の解消、ファンディング、会計処理、例外処理の潰し込み、業務レポート等々の処理を約定日中だけで行うには、F2B(※4)で業務フローを見直し、更なるSTP化が実現できなければ安定運用は難しいと考えられる。

②決済時間中のワークロード増加
 新たな銘柄後決めGCレポの決済フローでは、一日に3回の決済時限がある(※5)。午前中はフェイルをさせないために常に決済状況をモニタリングしなければならない時間が続き、バックオフィスでの作業負荷が増えることが想定される。JSCC、日銀とのデータ処理を行うためのシステム対応が必要なことは当然ながら、実際に決済を行うオペレーションスタッフのリソース確保、ピークタイムのキャパシティコントロールも必要となってくる。

③F2Bでの正確な残高管理
 銘柄後決め方式のGCレポ取引では、バスケットで約定がついた後、取引参加者はJSCCに対して銘柄割当可能通知(担保に出すことが可能な個別銘柄一覧)を連絡する必要がある。ここで重要なのが、F2Bでの正確な残高管理である。たとえば決済日当日にT+0の約定が入ったにもかかわらず、それを把握していないバックオフィスが同じ銘柄を割当可能残高に含めてしまわないように、リアルタイムでの正確な残高管理が必要となる。それができなければ、決済がフェイルするリスクが発生し、ポジションカバーのための調達コストが発生することにもなりかねない。これでは決済リスク削減を目的としたT+1導入の意図から見て本末転倒である。担保に出せる残高の管理については、ある程度ルールベースで可能かもしれないが、今までにないフロントオフィスとバックオフィス間のコミュニケーションが発生することが想定されるため、事前に整備が必要である。

 これらの課題以外に、各社独自に業務ルールやシステムを抱えているケースも多く、早急な検討が求められる。

ソリューションとしてのユーティリティサービス

 このような大きな制度改革では、効率的な移行かつ安定的な運用の確保が必須である。ただ、コスト削減圧力に晒されている多くの金融機関にとって、すべてを自前で行うことは難しい。バックオフィスのコスト削減を考えたとしても、従来のような海外拠点への単純なアウトソースなどでは、業務のクオリティ維持に課題がある(※6)。

 そこで、グローバルでトレンドとなりつつあるのがユーティリティサービスである。これは一般に、他社と差別化を行う必要のない業務プロセスを、業務範囲と業務プロセスを見直すことにより標準化し、それをITと組み合わせて請け負うサービスを指す(※7)。ユーティリティサービスには、長期的な業務コスト削減のほか、今までの単純なアウトソーシングに勝る次のようなメリットがある。

①業務クオリティの維持
 これまで金融機関は業務クオリティ維持のため、自社で優秀な人材の確保、トレーニング、業務フローの改善等を行ってきた。ユーティリティサービスではバックオフィス業務のクオリティ維持をSLAの管理を通して行うことができる。SLAとはユーティリティサービス・ベンダーと結ぶサービスレベルに関する合意書である(※8)。ここで決められたサービスの品質水準はベンダーが責任を持つということである。同時に、ベンダーから配信される日々の業務報告やリスクエスカレーション等を通して、金融機関としてのリスクコントロールを今までと同じもしくはそれ以上のレベルで行うことが可能となる。

②長期的な安定運用の実現
 日々の業務を動かすのは最終的には人である。金融機関ではこれまで規模の縮小や取引量の減少に伴いバックオフィスでの人員削減を繰り返してきた。その度に問題となるのが、特定の人物への依存度の高まりや業務知識が継承されないリスクである。ユーティリティサービス・ベンダーは複数の金融機関の業務をまとめて行うため、人材が確保され、安定的な運営が可能である。また、ローカルマーケットでの制度変更にもシステムと業務の両面で対応し、専門的な知識が常に蓄積される。

③効率的な運営
 業務運営に係るコストも抑えられる。ユーティリティサービスでは通常のBPOベンダーなどと異なり、画一的な処理だけでなく、バックオフィス業務の大部分をカバーしているケースが多い。そのため金融機関側でより効率的な人員配置、システムフローの構築が可能である。また、商品や取引を新規導入する際にも、ユーティリティベンダー側のシステムと人材・知識を活用することで、導入に際してのハードルをかなり下げられる。


日本の決済インフラ自体がグローバルで競争力をつけるに伴い、参加者である銀行や証券会社も競争力をさらに高めていく必要がある。日本の市場からの撤退、縮小とならないためにも、より効率的で安定したオペレーティングモデルを検討することが必要となる。来秋に迫った国債T+1の総合運転試験までの導入準備期間を考えると、今がまさに決断のときである。

1) Special Collateralレポ取引。特定銘柄の調達・運用を主目的とする取引。
2) General Collateralレポ取引。資金の調達・運用を主目的とするレポ取引。銘柄を特定せずに取引が行われる。
3) 日本クリアリング機構(Japan Securities Clearing Corporation)。日本における統一清算機関。
4) Front to Back。フロントオフィスで約定してからバックオフィスで決済が完了するまでのトレードサイクルに関与する一連のチーム。
5) 一日に3回の決済時限が訪れる。渡方のDVP決済時限は10:30、13:30、15:30の3回、受け方の時限は11:00、14:00、16:00になる。3回時限に対して割当可能残高の通知を前日の21:00、当日11:00、14:00までに行う。つまり、正確な残高把握に基づいた割当可能残高の通知を決済が進行している最中に行わなければならない。
6) 海外拠点へのアウトソースでは、日本語対応が可能な人材の確保の限界、複雑な業務の教育の難しさ、離職率の高さなどが課題として挙げられる。
7) 業務プロセスのアウトソーシングであるBPO(Business Process Outsourcing)とITO(IT Outsourcing)を組み合わせて汎用化し、それらを複数の金融機関に提供する。
8) Service Level Agreementの略で、サービスを提供する側とその利用者の間に結ばれるサービスのレベル(定義、範囲、内容、達成目標等)に関する合意書。SLAにより、サービスを提供する事業者が、契約者に対して、どの程度まで品質を保証できるかを明示する。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

木村栄伸

木村栄伸Shigenobu Kimura

NSグローバル事業一部

専門:証券、銀行バックオフィスの運営

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