1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. セミナー報告
  6. 第1回NRIグローバル規制カンファレンス2016報告

第1回NRIグローバル規制カンファレンス2016報告

2016年7月号

ホールセールソリューション企画部 上級システムコンサルタント 丹羽陽子

野村総合研究所(NRI)は2016年3月10日に「第1回NRIグローバル規制カンファレンス2016」を開催した。本カンファレンスは、RegTechの動向を見据え、複雑・高度化が進むグローバル金融規制に対して、金融機関が抱える業務課題とその解決に向けたケーススタディを共有することを目的としている。

 RegTechは、規制(Regulation)×技術(Technology)を組み合わせた造語で、2015年頃より英国を中心に注目されている。複雑・高度化が進む金融規制に対応する、新しいITを活用したソリューションを指している。

 第1回となる今回は「顧客管理の先進動向クライアント・オンボーディング&ライフサイクル・マネージメント(※1)」と題し、クライアント・ライフサイクル・マネージメントの分野で先駆的なソリューションを提供しているFenergoとそのユーザであるHSBCを招待して開催した。

 当日は、銀行、信託銀行、証券会社、保険会社など各金融機関13社から30名の方々に参加をいただいた。参加者からの質疑も多く盛況なカンファレンスとなった。

グローバル金融機関におけるクライアント・オンボーディング先進動向

ホールセールソリューション企画部 上級研究員 小林孝明

 近年、クライアント・オンボーディング業務のなかでも、AML(マネー・ロンダリング規制)やFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)などの各種法規制の強化に伴い、顧客の居住属性や取引内容の確認を行う「KYC(Know Your Customer)」の重要性が増している。特に顧客がグローバルな取引を行う場合、複数の国・地域にまたがってさまざまな法規制に照らし合わせるKYCが必要となるため、その業務内容の複雑性や難易度が増している。加えて、欧米ではKYCチェックの対応不足による金融機関への処罰事案も増加しており、クロスボーダーな規制監視へどう効率的に対処していくかが各金融機関共通の喫緊の課題となっている。

 こうした背景を踏まえ今後想定されるリスクとしては、口座開設までのリードタイムが増加することによる顧客サービスの低下や機会損失、またインシデント発生による風評低下や多額の罰金支払いなどがあり、いずれも経営に重大なインパクトをもたらすと考えられる。これらのリスクを未然に防ぐための対応策を、欧米の金融機関でのケーススタディを交えながら整理した。

 業務プロセス改善のケーススタディでは、KYC用のデータをグローバルで統合することにより各拠点の業務品質を高めた例や、ドキュメントの標準化を図り、事務コストを削減した例などを解説した。また、クライアント・オンボーディングでは、口座開設のための書類入手、各種申請などの事務作業が多岐にわたるため、業務を選別し、部分的にアウトソーシングを利用することで取引開始までのリードタイムを短縮したケースも紹介した。

 データの共有、業務の標準化をグローバルで推進することで、限られたリソースで稼働する海外拠点で大きなパフォーマンスを発揮することができるといったポイントを整理し、国内の金融機関においても今後のビジネス拡大に向けて重要な検討テーマであることを解説した。

Regulatory Client Onboarding

Fenergo COO Colm Heffernan氏

 Fenergoはアイルランドのダブリンに本社を置き、クライアント・ライフサイクル・マネージメントに関するソフトウエアソリューションを提供するプロバイダーである。今回、本カンファレンスに合わせてCOOのColm Heffernan氏が来日し、国内で初の講演となった。Heffernan氏からは、今後のグローバル金融規制に対して金融機関が取り組むべき方向性、および各社が抱える業務課題に対してFenergoのソリューションがもたらす効果を説明いただいた。

 Fenergoは、ドッド・フランク法、FATCAなどの法規制に加えFINRA、EMIR等規制当局のレギュレーションなど、幅広い規制の内容を継続的にウォッチし、最新の内容を利用できるようなロジック(ルールエンジン)を提供している。顧客の属性情報やその取引内容とそのルールエンジンとをマッチングすることにより、具体的にどのような業務処理を行えば正確にクライアント・オンボーディングが遂行できるかを確認することができる。

 一連の業務プロセスの中で重要なポイントとHeffernan氏が強調するのが、ライフサイクル・マネージメントの可視化である。Fenergoのソリューションを活用することで、オンボーディング業務を中心に据えながら、顧客の取引内容の変化、居住地などの顧客属性そのものの変化をとらえ、持続的なKYCが可能となる。また、データが拠点間で個別管理されているために起こるタイミングギャップを埋めるため、グローバルに統合したプラットフォームを活用することのほか、業務プロセスを可視化して関係者がモニタリングする必要があり、これにより業務の効率化、顧客サービスの均質化を図ることができるとのことであった。

HSBCにおけるクライアント・ライフサイクル管理について

HSBC Banking Middle Office, Interim Head Japan Terri Reynolds氏

 Reynolds氏はHSBC各拠点でのFenergoソリューションの導入を推進するプロジェクトマネージャであり、本カンファレンスでは、HSBCでのFenergoソリューション選定の経緯や導入のプロセスをご紹介いただいた。

 HSBCでは多数の拠点でクライアント・オンボーディング業務を抱えており、年々複雑になる業務プロセスに対し、簡略化・標準化に加えて、データプライバシーの保護やグローバルで一貫したアクセスコンロールの実現が喫緊の課題であった。Fenergoのソリューションを選び、導入プロジェクトを立ち上げた経緯説明のなかで、効率的に導入を推進できたポイントとして、地域別にフェーズを分けた導入のマイルストンを紹介した。段階を踏んで機能を拡張し各拠点へ展開していくことで、HSBC内においてもソリューションの理解を深め、円滑に導入を推進することができたとのことである。

 金融機関でのソリューション評価や効率的な導入方法については参加者からの関心も高く、活発な質疑応答となった。各拠点での導入は数ヶ月の短期間であるが、それに至るまでのプロジェクト計画の策定にはかなりの期間とパワーを投入しており、Reynolds氏からは導入プロジェクトの事前検討の重要性が改めて語られた。

カンファレンスの評価と今後について

 参加者からのアンケートでは、特にHSBCでの導入プロジェクトの説明が参考になったといった感想や、Fenergoのソリューションについても具体的な活用事例の質問などがあり、高い関心が寄せられた。クロスボーダーなクライアント・オンボーディングへの取り組みはまだ目新しい領域でもあるが、グローバル規模でビジネス展開する金融機関にとっては、今後非常に重要度の増す業務プロセスである。高水準の顧客サービスを提供しビジネス規模を拡大していくために、各海外拠点での業務プロセスの効率化、コストの適切な配分の実践について非常に関心が高いことがうかがえた。

 本カンファレンスでは、今後もグローバルビジネスを展開する金融機関の関心の高いテーマを取り上げ、課題解決へのヒントを共有する企画を予定している。

1)「クライアント・オンボーディング」は口座開設に伴う一連の業務内容を指し、一般に「口座開設申請~KYCチェック~与信チェック~契約~口座登録」までの一連の業務を含む。加えて、開設後の取引状況のモニタリング、取引終了の口座閉鎖(クライアント・オフボーディング)も含めたプロセス全体を「クライアント・ライフサイクル・マネージメント」と呼ぶ。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

丹羽陽子Yoko Niwa

金融デジタル企画一部
上級システムコンサルタント

この執筆者の他の記事

丹羽陽子の他の記事一覧

注目ワード : RegTech

このページを見た人はこんなページも見ています