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仮想通貨に対する改正資金決済法等の動向と課題

2016年7月号

金融IT グローバル推進部 上級コンサルタント 岡野靖丈

仮想通貨のビジネスの領域でイノベーションが起こっており、政府はそれらを促進していく一方で、顧客保護やマネーロンダリングなどへの対応も迫られている。そうした中で改正資金決済法が成立したが、決済業務等に係る金融規制には課題も残っている。

グローバルに拡大する仮想通貨利用

 Bitcoinを中心とした仮想通貨利用がグローバルに拡大している。米国ではIT企業の直販サイト、旅行予約サイトや飲食店での支払い等に利用が広がっており、米国の大手金融機関でも独自の仮想通貨の開発を進めている(※1)。Bitcoinの時価総額は2016年5月末時点で80億ドル超(図表1)、1日の取引件数も20万件を超える勢いで伸びている。また、債権・証券の電子化が強みのEthereumや数秒間での決済が可能なRipple(Google社出資)など新たな仮想通貨も市場に流通し始めている。

 日本の仮想通貨も拡大傾向にあり、国内のBitcoin市場で言えば、2015年度主要取引所を通じた取引規模は1800億円超まで拡大している。ただし、現状は投機目的が多く、利用できる店舗数はまだ90程度であり、市場の整備もこれからである。とはいえ、三菱東京UFJ銀行が2017年秋以降、安価な取引手数料の「MUFGコイン」サービスを提供予定と発表しており、メガバンクによる仮想通貨事業への本格参入は、仮想通貨利用拡大のドライビングフォースになると期待される。後押しするかたちで、金融庁も2016年5月25日改正銀行法(第16条の2、第52条の23関係)成立により、金融持株会社等の業務範囲を拡大し、ITベンチャーへの出資強化等の環境整備を進めている(※2)。

仮想通貨に対する改正資金決済法の成立

 一方、2014年に世界最大のBitcoinの交換所を運営するMTGOX社が経営破綻したこと、2015年6月のG7エルマウ・サミットの仮想通貨規制の合意や、同年FATF(※3)の仮想通貨交換所の登録・免許制促進等のガイダンス公表、米国FinCENによる監督強化指針のリリース(※4)等の影響より、顧客保護やマネーロンダリング対策上、仮想通貨の監督の必要性が金融庁を中心に議論されてきた。

 そして、今年5月25日、仮想通貨を規制する改正資金決済法が成立した。主な改正内容は下記の通りである。

①仮想通貨の定義(第2条の5)

 不特定多数間での物品購入・サービス提供の決済・売買・交換に利用できる「財産的価値」で、情報処理システムによって移転可能なものと定義される。つまり、法定通貨ではないが、決済手段の一つと解釈されている。

②仮想通貨交換業に係る登録制の導入(第63条の2)

 仮想通貨交換業を定義し(第2条の7)、仮想通貨交換業者に資本要件・財産的基礎等を満たした上で、内閣総理大臣の登録を義務づけている。

③仮想通貨交換業者に対する業務規制(第63条関係)

 仮想通貨交換業者は利用者への取引内容や手数料等の情報提供、システムの安全管理や利用者財産と自己資産の分別管理を行い、定期的にその状況について公認会計士又は監査法人の監査を受けることが求められている(第63条の11)。

④仮想通貨交換業者に対する監督(第63条関係)

 仮想通貨交換業者は、帳簿書類・報告書の作成、監査報告書を添付した報告書の提出、立入検査、業務改善命令等の監督規制を受けることになる。

 これに伴い、マネーロンダリング対策としての犯罪収益移転防止法の義務を負う「特定事業者」に仮想通貨交換事業者を追加し(第2条)、同法に規定される口座開設時の本人確認義務(第4条)、疑わしい取引の当局への届出義務(第8条)等が適用されることになる。

 厳格な規制は事業者側にとって参入障壁になりがちであるが、顧客からみれば、取引所を国が監督することで安心感が生まれ、利用拡大につながるとも考えられる。

改正資金決済法成立の背景と今後の課題

 図表2の通り、資金決済法は商品券やプリペイドカード等の前払式支払手段・資金移動・資金清算(銀行間の資金決済・登録)に係る法律(2010年施行)である。マネーロンダリング対策に係る犯罪収益移転防止法と連携された法規制の構造となっている。Bitcoinのような仮想通貨を送金・決済手段の一つの方法と位置づけると、資金決済におけるITの進展、顧客保護、マネーロンダリング対策といった観点からは、銀行法や金融商品取引法などの業法等ではなく、資金決済法の見直しが妥当であると考えられる。

 一方で、資金決済法等をめぐるいくつかの課題が産業界から指摘されている。例えば、2016年5月、無料通話アプリLINEのゲーム内で販売されるアイテムに前払支払手段などの資金決済法が適用されるかが議論になった(図表2参照)。適用となれば、煩雑な本人確認業務(※5)や立入検査等の対象となる。ライフカードは既にポイントをBitcoinに交換するサービスを開始しているが、ポイント、収納代行サービス、振込代行の規制対応も再度議論の対象となる可能性がある。また、欧州では仮想通貨に対して非課税の方向(※6)であるが、消費税法の解釈変更や税制改正の議論が今後本格化するであろう(※7)。さらに資金決済法の取引金額上限額は100万円であるが、クロスボーダー取引等における利便性の低下が問題視されている。これらの対応について、金融審議会の決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ等でも議論されているが、一律規制ではないリスクベースのアプローチ、業務のアンバンドリング化に対応したEU決済サービス指令(※8)のような決済サービスの包括的・横断的規制の検討は今後より活発になっていくことが予想される。

1)米Citigroupは「Citicoin」、米BNY Mellonは「BKcoins」といった仮想通貨プラットフォームの開発を実施し、米Goldman Sachsも証券決済向けプラットフォームとして「SETLcoin」の開発を進めている。
2)ベンチャー企業に出資する際、銀行が5%、金融持株会社が15%まで比率制限されていたが、これを緩和し、個別認可方式(財務の健全性、優越的地位の非濫用、金融サービスの拡充等)で運用される。
3)Financial Action Task Force on Money Laundering:マネーロンダリングを規制する政府間機関の金融作業部会。
4)Financial Crimes Enforcement Network:米国財務省金融犯罪取締ネットワーク。マネーロンダリング規制「銀行秘密法(The Bank Secrecy Act)」の執行機関。FinCENは仮想通貨事業者を厳格に管理していく方針を打ち出しており、例えば2015年5月RippleLabの子会社XRP IIに対して、同法違反として、70万ドルの罰金を科している。
5)非居住者との間の資金移動を伴う為替取引は、外国為替及び外国貿易法による本人確認が求められる(第18条の5)。
6)2015年10月欧州司法裁判所から、Bitcoin売買に係るVAT(付加価値)の適用は除外されるべきであるとの判決が出された。EU各国では、これに準じて法整備が進むと考えられる。
7)仮想通貨への課税は、グローバル化の観点で、既に諸外国でVATの対象外とする動きが広まっていることや二重課税(仮想通貨購入時及び仮想通貨による物品・サービス購入時)が生じる点において、その是非が議論されている。
8)Payment Services Directive:EU加盟国の決済サービス市場を統合し、決済サービスを効率化し、統一的なEU決済サービス市場を創出することを目的に2007年11月成立した。しかしながら、オープンAPIの義務付け等を加えた新たな指令(PSD2)の策定が現在進められている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

岡野 靖丈

岡野靖丈Yasutake Okano

金融ITグローバル推進部
上級コンサルタント
専門:コーポレートガバナンス、企業・事業価値評価

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