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銀行におけるファンド投資の課題と解決に向けて

2016年7月号

資産運用サービス事業三部 上級システムコンサルタント 馬場崇充

銀行のファンド投資はますます増えており、効率的な管理態勢の整備や業務の見直しが急務である。その中で、この課題に取り組む銀行がいくつか出てきている。ファンド投資の規模や内部の態勢に応じ、段階を踏んでファンド管理の高度化を進めることが必要である。

 近年、銀行のファンド投資は拡大基調にあるが、日銀によるマイナス金利が開始され、銀行のファンド投資はさらに増加していると考えられる。そうした中、ファンド投資規模が大きい銀行に対し、当局からファンドが投資している銘柄の適時把握について指摘があった、という声も聞こえている。銀行が今後もファンド投資を拡大していくためには、ルックスルーを行いファンドの中身を管理する態勢を整えることが重要となる。既にいくつかの銀行では、ファンドルックスルーの管理およびファンドのリスク管理の高度化に向けて動き始めている。

先進的な取り組み大口与信管理等を日々実施

 はじめに先進的な銀行(A銀行とする)の取り組みを紹介したい(※1)。A銀行はファンドへ積極的に投資しており、有価証券運用全体の中でも一定の地位を占めている。

 従来はこのファンド投資分のルックスルーに関し、資産の把握が比較的容易なファンドのみ日次で行い、大部分のファンドは月次または四半期での実施となっていた。そのため、大口与信管理(※2)等の既存のリスク管理では、日次ベースで管理されている自己投資分やローンと、ファンド投資分を合わせて実施することが困難な状況であった。しかし昨今の規制強化を受け、基本的にすべてのファンドについて日次でルックスルーを実施し、正しく大口与信管理等を行うことを目指し、改善を行った。

 まず、ファンドのルックスルーを日次で実施するため、ファンドの運用会社やカストディにデータ開示協力を求めた。その際、運用会社が出しやすい最低限のデータ項目を設定し、項目定義を厳格に行い、統一の開示フォーマットを定めた。これによりどの相手先、どのファンドでも同じ基準のデータを扱えるようにしたのである。

 この施策におけるポイントは、一定金額より小さい資産や分解できない金額を切り捨て、それによって運用会社が容易に開示に対応できるようにしたことである。キャッシュなどの要素を完全に分解して精度を求めようとすれば、運用会社側で会計システムに存在しないデータを手作業で補充する必要が生じ、負担が掛かる。また完全に分解したところで、全体からすると微々たる金額であり、負担の割に効果が薄い。よってこれらを切り捨て、効率的なデータ把握を行っている。

 更にA銀行では、この統一フォーマットで提供されるファンドルックスルー情報を、日々自動的に受信するシステムインフラを導入した。その結果、運用会社・カストディはそれぞれの会計システムから、このA銀行のシステムへほぼ自動的にデータ送信を行うことができ、非常に効率的な開示の仕組みができあがった。

 こうしてA銀行では、ファンドルックスルー情報を日々取得し、ファンドの中に新規銘柄や新規ブローカーが発生する都度、社内に保有している取引先マスタと突き合わせを行うことが可能となり、ファンドを既存の大口与信管理の枠組みに組み込むことに成功した。また、副次的な効果として、常にフレッシュなルックスルーデータを得られたことで機動的な資産配分やヘッジを行うことも可能となった。

標準的な取り組みルックスルーをデータベース化

 A銀行のような日次のルックスルーが理想の形であることは間違いない。しかし、このような先進的な取り組みをすべての銀行で行えるわけではない。多くの銀行はシステムインフラや人員面の確保ができておらず、四半期毎のルックスルーデータでさえ、適切に管理できていないのが現状である。それでも、今後ファンド投資の拡大が必至である状況下、段階を踏んだ高度化を目指し、まずはファンド関連業務の効率化を図ることが必要だろう。

 ファンド関連業務とは大きくは次の3つである。一つ目は社内向けの日々の運用報告で、ファンドの収益等の運用状況を確認するものである。二つ目はファンドの投資方針自体の確認である。あらかじめ定めたガイドラインに沿った運用が行われているかを月次でチェックし、リスクイベント発生時に個別の発行体や国、通貨別のエクスポージャを集計するなどの当局報告用の確認作業を行う。三つ目は自己資本比率算出のための、資産運用会社からのルックスルーデータの収集である。これらの業務を手作業で実施していればファンド本数の増加により業務負荷が急増し、適切な管理も困難になる。

 まさにこうした状況にあったのが、次に紹介するB銀行である。B銀行ではファンド投資が2年間で2倍以上に増加、今後もさらに増やしていく方針だが、四半期ごとのルックスルーも含めファンド関連業務を手作業で実施していた。上述のファンド関連業務では、特に後者二つの業務において運用会社から適切にデータを受け取ることが重要となるが、B銀行では運用会社から各社別のフォーマットのデータを紙やEXCELで受領していた。集計タイミングも異なるそれらのデータに、外部格付などの不足しているデータを追加し、直近の運用状況に変化がないか資産運用会社や販売会社に逐次確認した上でシステムへ手登録を行っていた。

 B銀行ではこれらの課題を解消し業務負荷を軽減するため、ルックスルーデータのデータベースシステム化を行った。運用会社から取得するデータに統一フォーマットを定め、データごとに受領する頻度を四半期・月次と設定した。そして社内の運用報告のような定型でのデータ参照はボタン一つで行えるようにし、それ以外のチェック業務においても想定される様々な切り口でデータのチェック・加工・集計が行える機能を備えた。

 この施策におけるポイントは、システムへの単純なデータ蓄積ではなく、ファンドの管理に特化したデータベースを導入したことである。ファンドは、銀行の他の有価証券運用などと異なり、管理には複数ファンドや多様な運用資産が扱える専用のデータモデルが必要となる。これらの機能により、B銀行ではファンドに特化した報告業務やチェック業務が自動化され、データを集中管理することで複数部門での二重管理が解消された。以前と比較して手作業は格段に減り、今後はルックスルーデータの自動取得の検討を予定している。

 B銀行の取り組みは、ファンド投資がある程度の規模になっている銀行にとって、目指すべき一つのステップを示している。2017年にはファンド向けエクイティ出資の資本賦課(※3)が予定されており、ルックスルーしない資産について所要自己資本が上がることも考えられる。ファンド投資において、ルックスルーの頻度向上・リスク管理の強化はより重要となり、システムインフラの整備や業務見直しによる課題解決が急務である。今回紹介した取り組みを参考に、検討の実施が望まれよう。

1)本稿で示した事例は、幾つかの銀行で行われているファンド管理の高度化の動きを集約し、仮想的な銀行として表している。
2)BIS規制や当局モニタリングにおいて、特定の企業・グループに対する与信額(投資額)を自己資本の一定額以下にするといった内容である。
3)バーゼル銀行監督委員会による最終規則文書では2017年1月より適用となる、ファンドのリスクウェイト適用方法に関する規制の変更である。ルックスルーがきちんとできるほどリスクウェイト(所要自己資本)は小さくなる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

馬場崇充Takamitsu Baba

資産運用サービス事業部
上級システムコンサルタント
専門:資産運用向けソリューション企画

注目ワード : BIS(国際決済銀行)

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