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FinTechサービスのユーザー利用実態と顧客満足度

2016年7月号

金融コンサルティング部 主任コンサルタント 伊部和晃

BtoC領域のFinTechサービスを対象に、実際のサービス利用者における顧客満足度や金融行動の変化に着目したアンケートを行った。サービスが顧客に選ばれ勝ち残るためには、「消費者自身の金融行動に対する意識・姿勢に変化を起こせているかどうか」という視点が重要である。

 デジタルテクノロジーを活用し新たな価値を提供する金融サービス、いわゆるFinTechサービスについて論じる時、現在は「海外発のサービスが国内既存サービスの脅威となるか」、「既存金融機関がスタートアップ企業等との協業体制をどう構築するか」といった、事業者の視点が中心となることが多い。野村総合研究所では、このような事業者視点に加えてFinTechサービスを利用する「消費者」側にも着目し、実際のFinTechサービス利用者を対象とした消費者調査(※1)を行った。

普及は家計管理サービスが先行

 まずFinTechサービス利用者を抽出するため、約4万人を対象として、4つのサービス(家計管理、SNS送金、クラウドファンディング、資産運用アドバイス)を利用しているかどうか聞いた。その結果を見ると、家計管理サービスの利用率が6.0%と、他サービスの1~2%台(※2)と比較して普及が大きく先行している。

 また、新商品・新サービスに対する関心・利用傾向(イノベーター度(※3))を元に、回答者を2つの消費者層に分類した。1つは、新しいモノであることや流行に価値を見出し、情報感度も高い「先行ユーザー(イノベーター層・アーリーアダプタ層)」。もう1つは、実利に価値を見出し新サービスの採用に積極的ではない「一般ユーザー(アーリーマジョリティ層~ラガード層)」である。各サービスのユーザーをこの分類で分けると、家計管理サービスでは利用者に占める「一般ユーザー」の割合が既に8割を超えている(図表1)。家計管理サービスが一般消費者層にも浸透し始めていることが伺える。

先行ユーザーと一般ユーザーの満足度に大きな差

 実際に前述の4つのサービスを利用している人はサービスにどの程度満足しているのか、上述のユーザー分類で比較したのが図表2である。イノベーター度の高い「先行ユーザー」では、利用するどのFinTechサービスでも「非常に満足」しているという回答が40%を超えるものの、一般ユーザーにおける「非常に満足」の割合は10%台にとどまり、大きな差がある。

 この傾向は、一般ユーザーに普及が進みつつある家計管理サービスにおいても変わらない。普及が進むにつれて一般ユーザーの満足度も高まり、先行ユーザーの水準に近づいていくという構造ではないのである。サービスを成長させ収益化を進める上で、一般ユーザーの満足度をいかにして高めるかが重要な課題になると考えられる。

一般ユーザー攻略の鍵は「金融行動を楽しく」すること

 では、一般ユーザーでありながらもサービスへの満足度が高い消費者は、どのような理由から高い満足を示しているのだろうか。

 消費者調査分析の結果、前述のイノベーター度に次いで満足度に高い影響を示したのは、性別・年代や年収などのユーザー属性ではなく、「FinTechサービスの利用前後で金融行動の変化があったかどうか」という項目であった。中でも顧客満足度に強い影響がみられた金融行動の変化は、「家計管理が面白くなってきた」「金融に関する勉強・知識取得に興味を持った」という、消費者自身の金融に対する意識・姿勢の変化である。

 こうした「楽しさ」や「興味関心」を感じたのは何故か。どんなサービスならもっと満足を感じられるのか。これらは、価格や機能と異なり、ユーザー自身でも表現することが難しい。まして事業者にとっては、一層ニーズの把握が困難なものである。

 実際、多くのユーザーからの支持を得ているFinTechサービス事業者においては、定点的なユーザー調査やマーケティング企画よりも、グロースハック(※4)と呼ばれる地道なトライ&エラーの積み重ねが重要視されている。具体的には、アクティブユーザー数や初回利用後の定着率、滞在時間のような定量化可能な項目を重要指標として設定し、サービス内容の改善仮説の実行と、それによる重要指標の変化の観測を高頻度で繰り返している。ここでのサービス内容の改善は、機能追加のような大きな変更の他に、グラフや、メッセージ文章、画面上のボタン配置や配色など、ユーザーが気持ちよくサービスを利用するための(そして重要指標にも好影響を与える)あらゆる要素が対象となっている。その改善が積み重ねられ、結果的にサービスがユーザーにとって使いやすく、満足されるものになっているのだ。

 今後も数多くのFinTechサービスが新たに立ち上がり、金融機関は、どの領域、どの事業者と協業すべきか、といった経営課題に直面するだろう。その際、顧客数や収益といった最終結果指標のみに着目していては有望なサービスの萌芽を見極めることは難しいだろう。これまで述べたような、消費者の金融行動の変化を通じた価値の創出という観点から、FinTechサービスの企画検討が進められることを期待したい。

1)FinTechサービスに関するアンケート概要。
 1)調査手法:インターネットアンケート調査
 2)調査期間:2015年9月25日(金)~9月29日(火)
 3)回答対象:本文で挙げた4つのFinTechサービスの利用者(1,302サンプル)、および未利用者(1,089サンプル)
 ※事前スクリーニング調査40,018サンプル
2)SNS送金:2.6%、クラウドファンディング:2.1%、資産運用アドバイス:1.6%
3)本稿におけるイノベーター度は、消費者アンケート調査結果を通じ以下の定義で分類を行った。
イノベータ層・アーリーアダプタ層:「人より先に新しい商品やサービスを利用したり、新しいお店に行くほうである」
アーリーマジョリティ層:「少し様子をみてから、新しい商品やサービスを利用したり、新しいお店に行くほうである」
レイトマジョリティ層:「一般に普及してから新しい商品やサービスを利用したり、新しいお店に行くほうである」
ラガード層:「新しい商品やサービス、お店には関心がないほうである」
4)グロースハックとは、サービスの改善仮説の実行と利用者データ分析による検証を高頻度で繰り返すことで、顧客の獲得、利用、収益化を促進する活動。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

伊部和晃

伊部和晃Kazuaki Ibe

金融コンサルティング部
主任コンサルタント
専門:リテール金融、電子決済

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