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フェア・ディスクロージャー規制の導入に向けて

2016年7月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

金融審議会ワーキング・グループの提言に基づき、フェア・ディスクロージャー規制の導入が検討される。規制の精神は当然のものだが、制度化にあたっては、企業を萎縮させないための配慮が求められる。

金融審WGの提言

 2016年4月、金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループが、上場企業と株主・投資家との建設的対話に向けた制度改革に関する提言を取りまとめた。そこでは、会社法、金融商品取引法、取引所規則に定められた情報開示の内容を整理することに加え、上場会社等が未公表の重要な情報を特定の第三者に対して選択的に開示することを禁じるフェア・ディスクロージャー規制の導入が、検討課題の一つとして提示された。

 フェア・ディスクロージャー規制の先駆となったのは、2000年に米国の証券取引委員会(SEC)が制定したレギュレーションFD(フェア・ディスクロージャー)である。欧州では、EU(欧州連合)が2003年に採択した市場阻害行為指令に同じような内容の規制が盛り込まれ、各国の国内規制に反映されることとなった。例えば英国の場合、金融行為規制機構(FCA)の開示及び透明性規則に規定が設けられている。

海外における規制の内容

 フェア・ディスクロージャー規制の詳細は、国によって異なるが、基本的な内容は共通している。すなわち、証券価格に影響を及ぼすような未公表の重要な情報を証券アナリストや機関投資家のファンド・マネジャーだけに選択的に開示することの禁止である(図表)。

 重要な情報の選択的開示を行ってしまった場合には、速やかな当該情報の公表が義務付けられる。上場企業が重要な情報を発信する場合には、情報を公平に提供しなければならないというわけだ。ただし、弁護士やアドバイザーなど、契約によって守秘義務を負う者への情報提供などは規制の対象とはされない。

 既にSECによる規制違反事案の摘発実績のある米国を例にとると、業績に関する企業の予想が強気に振れている場合に、業績公表時の株価急落を恐れた企業が、アナリストにだけ自社の予想情報を漏らすといった行為が問題視されることが多いようである。

日本の現状と今後の課題

 これに対して日本では、株価に影響を及ぼすような未公表情報の取扱いについて一定の規制が設けられてはいるものの、欧米のように未公表の重要情報を上場企業等が証券会社のアナリスト等に選択的に開示することが正面から禁じられているわけではない。

 例えば、上場企業等から未公表の重要事実を伝達された者が、当該企業の株式等を売買すれば、インサイダー取引として処罰される。2013年の金融商品取引法改正で、未公表の重要事実を伝達する行為自体についても、一定の場合には処罰の対象とされることとなった。また、証券会社が、上場企業等に関する未公表の情報で顧客の投資判断に影響を及ぼすようなもの(法人関係情報)を提供して勧誘する行為も禁じられている。

 こうした中で、最近になって、証券会社が法人関係情報を顧客に伝達して株式の売買を勧誘したとして金融庁による行政処分を受けた。これらのケースは、インサイダー取引規制違反とまでは考えられないものの、一部の投資家だけが不当に得た情報によって取引したという点で、一般投資家に不公平感を与えかねない。行政処分の対象事案は、決算発表前に証券アナリストが業績についてヒアリングする「プレビュー取材」に絡むものであり、既に複数の証券会社が今後は「プレビュー取材」を行わない方針を明らかにしている。ワーキング・グループによるフェア・ディスクロージャー規制導入の提言は、こうした事情を背景としたものである。

 フェア・ディスクロージャーの精神を頭から否定する人は誰もいないだろう。また、欧米でルール化されている以上、日本だけ規制が緩やかだと思われれば市場の信認が損なわれかねないという懸念もあるだろう。

 しかし、制度化にあたっては留意すべき点もある。最初に規制を導入した米国でも、当初多くの企業が機関投資家との一対一のミーティングを一律に中止するなど過剰反応とも言うべき現象が起きた。規制の効果をめぐる実証研究の中には、市場に発信される情報の質や量が低下したと指摘するものもある。

 今後の論点の一つは、規制の形態をどうするかである。法令上の義務として違反者に刑罰を課すという厳格なルール化から取引所などの自主的なルールとして違反者には情報開示実務の改善を求めるという緩やかな手法まで、様々な選択肢が考えられるだろう。

 また、規制の対象とする情報をどこまで拡げるかも重要な課題である。日本ではインサイダー取引規制の対象となる重要事実が詳細かつ技術的に定義される一方、かなり幅広い情報が法人関係情報として規制されるといった状況にある。それらのどこまでについて、選択的な情報開示を禁じるのか検討を深める必要がある。

 近年、上場企業等が機関投資家との建設的な対話を通じて「稼ぐ力」を高めるべきとの声が高まっている。フェア・ディスクロージャーは重要だが、仮に企業の情報開示姿勢を萎縮させれば、そうした動きに水を差しかねない。慎重な検討が求められる所以である。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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