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金融市場パネル 公開コンファレンス報告

2016年6月号

金融ITイノベーション研究部 竹端克利

野村総合研究所(NRI)は、2016年3月14日に「金融市場パネル 2016年春 公開コンファレンス」を開催した。「金融市場パネル」は、国内外の金融市場の動向と日米欧の中央銀行の政策を考え、その成果を当局を含む関係者と広く共有するための場として2009年3月にスタートした。37回目の開催となる本会合は、従来から本パネルの活動を支援していただいている方々を中心に、金融機関、当局、金融メディアの幹部や研究者を招聘するコンファレンスとして開催し、123名の方々にご来場いただいた。

 この会合における議論の詳細はNRIのホームページで開示しているが、本稿では、テーマや論点の選定と議事の運営を担当してきた立場から、その概要について簡単に報告したい。

基調講演:日本のマクロ政策の課題

 日本経済研究センター 理事長 岩田 一政氏

 岩田氏は、足元の世界経済の状況について、リーマン・ショック、欧州債務危機に続く「ギリシャ悲劇の第3ステージ」にあるとの見方を示し、具体的なリスク要因として、①米国連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに伴う米国経済の不確実性、②新興国の成長鈍化と人民元の切り下げリスク、③原油価格の下落、④ユーロ圏銀行の不良債権処理の遅れを挙げた。また、これらの背景には、世界全体の経済成長力が弱まっていること、貯蓄投資バランスが均衡する下で成立する実質金利(自然利子率)がマイナスに転じていること、それらを映じて主要国の市場金利がマイナス圏にまで低下していること、などがあると指摘した。

 日本経済の先行きについて岩田氏は、日本経済研究センターの短期の成長率見通しでは2015~17年度にかけて各々0.7%、1%、0.1%を見込んでいるものの、前述の4大リスクを考えると下振れする可能性があるとの認識を示した。また、中長期的に政府目標である2%の実質成長率を達成するためには、①人口減少に歯止めをかける、②イギリス並みに対内直接投資を増加させる、③オランダ並みに男女格差を縮小する、④技術革新により労働生産性を向上させる、などを柱とする成長戦略の実行が必要だとの認識を示した。

 日本銀行による「量的・質的金融緩和政策」(QQE)のうち国債買入れについては、機関投資家や金融機関の国債需要を考慮すると、昨年12月に決定された「補完措置」の効果を加味してもいずれ限界が来ると指摘した。また、本年1月に決定されたマイナス金利政策については、日銀当座預金の適用金利に「3層構造」を採用したため、民間金融機関に対する直接的な負担は少なく、この意味で欧州中央銀行(ECB)やスイス国立銀行よりもマイルドな政策であると指摘した。加えて、マイナス金利政策の最大の受益者は資金を調達する主体であるとした上で、家計の中では住宅や教育に投資する若い世代にとっては恩恵があるとの認識を示した。

 最後に岩田氏は、国家債務が1,000兆円を越える日本では、デフレが1%進むだけで実質債務が10兆円も増加するが、これらはすべて若い世代の負担になると指摘した。その上でデフレの最も大きな弊害は、国家債務の実質負担が増加する下で若年世代が勤労意欲を失いつつある点であるとし、マイナス金利政策がすべての問題を解決する訳ではないが、若い世代を応援する意味合いはあるとの考えを示した。

基調講演:最近の国際金融情勢について

 前財務省 財務官 山崎 達雄氏

 山崎氏は、2016年の世界経済について、2014年より低く、2015年並みの3%程度の緩やかな拡大になるとの見通しを示した。

 米国経済については、労働市場はタイトで個人消費は非常に堅調である一方、企業活動の停滞によって潜在成長率並みの成長に留まっているとの見方を示した。もっとも、民間設備投資はエネルギー関連を除くと4.6%の増加であるとし、エネルギー関連による下押しが大きいと指摘した。

 資源価格下落の要因について山崎氏は、しばしば指摘される中国による需要減ではなく、過去10年間に産油国が供給能力を大幅に増加させたことが大きいとの認識を示した。ただし、世界全体の原油供給量が日産約1億バレルである中で、需給ギャップが150~200万バレルに過ぎないにも関わらず価格下落圧力が大きいのは、わずかな供給過剰に注目する投機筋の動きによる面が大きいとした。今や供給側の新規開発が停滞しているだけに、将来どこかの時点で原油価格が顕著に反発する可能性は残るとし、50~60ドルの水準を大きく上回る反発を見込む専門家もいるとした。

 欧州では、銀行同盟の成立をはじめ金融システム安定に向けた様々な取り組みがなされたが、依然として不良債権比率が高水準にあり、銀行収益の先行きも不透明であるとした。その上で、ECBがマイナス金利政策を導入した背景には、周縁国の銀行が対外借入れを返済する動きを促進する狙いがあったとの解釈を示した。

 本年2月中旬以降に金融市場が不安定化したことについて、背後にはCoCo債などの技術的要素も含めた、欧州の大手金融機関の問題が意識されたとの解釈を示した。また、今や日本の為替市場の主役は“Mrs.Watanabe”と称される個人投資家であり、株式市場でも、NISAの拡充等によって個人投資家が育ってきた中での出来事だっただけに、市場の不安定化が個人投資家を過度に萎縮させる可能性を指摘するとともに、個人投資家にもフェアな取引機会を供する観点から何らかのルールが必要かどうか考える良い機会にもなりうるとの考えを示した。

 最後に山崎氏はG20財務相・中央銀行総裁会議のコミュニケに触れ、「各国が政策を行う際に他国への波及をよく考えるべき」とした部分が最も重要であるとし、FRBによる利上げの継続やECBによる金融緩和が念頭に置かれているとの解釈を示した。また、「銀行セクターにおける資本賦課の全体水準をさらに大きく引き上げない」ことが初めて明記された点にも言及し、危機防止に金融規制は必要だが、金融セクターの不安を煽る事態は避けるべきとの日本当局による主張が反映されたとした。その上で、これまでの規制強化の影響をよく監視し、評価することが今後は重要になるとの考えを示した。

パネルディスカッション(第一部):米国とユーロ圏の中央銀行の政策課題

 FRBの金融政策について加藤氏は、賃金上昇率や各種のインフレ指標が加速していることから、FRBの主流派は政策金利をゼロ近傍に据え置き続けるのは不適切だと判断しているとの見方を示した。その上で、市場予想がFOMCメンバーの予想の中央値に左右されていることや、利上げ期待がドル高を通じて実体経済に悪影響を与えることが、FRBと市場とのコミュニケーションを難しくしていると述べた。また、巨額の当座預金が現存する下での利上げを進めていくことも、FRBにとって重要な課題であると指摘した。

 大島氏は、多くの国の国債利回りがマイナスに転ずると同時に、金利の高い国々の実体経済には不安があるため、結果として世界の資金が米国に向かいやすいと述べた。その上で、FRBは、これ以上金利が低下すると金融不均衡を生むリスクがある一方、これ以上金利が上昇するとドル高や海外市場の不安定を招きかねないという意味で、微妙な舵取りを余儀なくされていると述べた。また、より長い目で見ればリーマン・ショック以前から金融資産の膨張が続き、実体経済との乖離が目立つ中で、その乖離がどう埋まるか、それまでに金融資産が実体経済を不安定化させないかがポイントになると述べた。

 今回、パネリストと来場者との双方向のコミュニケーションを促す観点から、議事の中でアンケートを行った。まず、「2016年中のFRBによる利上げ回数」を尋ねたところ、概ね半数が「2回」、約1/3が「1回」、16%程度が「0回」という回答だった。次に、「利上げをする場合の合理的な理由」を尋ねたところ、「インフレリスクの高まり」が4割強、次いで「バブルの懸念」で約1/3という結果だった。

 ユーロ圏について高田氏は、ECBがマイナス金利政策を導入した背景には、日本と同様に低インフレに悩まされていた点を挙げた。また、経常黒字の大きいユーロ圏が緊縮財政とマイナス金利政策による近隣窮乏化を進めることは、世界経済の足を引っ張り、デフレ圧力を拡散するとも指摘した。加えて、欧州の銀行の預貸率が高止まりしている中で不良債権比率が高水準な国もあることや、低インフレでも住宅価格に上昇の気配が窺われることなども、ECBにとって悩ましい課題になると指摘した。

 江川氏は、ECBによる資産担保証券(ABS)の買入れについて、買入れ対象が原則として最優先トランシェに限定されている点を提起した。つまり、ECBが買入れを進めても劣後トランシェは銀行に残るため、銀行の資金調達を助けても、貸出を促進する効果は期待できないと指摘した。また、ECBによるカバードボンド買入れについても、信用リスクの削減や自己資本制約の緩和に繋がりにくい点でABSと同じ課題を抱えていると指摘した。

 ユーロ圏に関するアンケートとして、「3月10日のECBによる追加緩和に期待される効果」を尋ねたところ、「効果は期待できない」という回答が約4割と最多であり、「市場のみに効果あり」が概ね同数だった。次に、「ユーロ圏にとって最も活用すべきマクロ政策」を尋ねたところ、「財政刺激」が約6割、「金融システムの強化」が約3割であった。

パネルディスカッション(第二部):日本銀行の政策課題

 内田氏は、「マイナス金利付きQQE」のポイントが、実質金利の低下を通じて金融市場や実体経済に働きかける点にあるとした上で、名目金利は既にマイナス領域へと低下しているが、インフレ期待は最近の資源価格下落等の影響を受けて低下しているため、実質金利がむしろ上昇している可能性があると指摘した。また、長期にわたる量的緩和の影響として、資産価格の相関が急上昇していることや、企業向け与信を中心にシャドーバンキングが拡大していることを指摘した。

 渡部氏は、インフレ期待に関連する学術研究の成果を紹介し、多くのケースで、インフレ期待は粘着性が高く即座に動かしにくいことや、経済主体によるバラつきが大きく、その度合いも変化しうること、が明らかになっていると説明した。また、中央銀行が掲げるインフレ目標とインフレ期待の関係を分析した研究では、高いインフレを沈静化するためにインフレ目標を設定した国ではほぼ例外なくインフレ期待の安定化に成功する一方、デフレ克服のために目標を設定した日本では成功していないと結論付けられていると紹介した。

 柳川氏は、「QQE」について、資産価格は大きく変化したがインフレ期待は思ったほど変化しなかったことから、期待に働きかける効果は必ずしも十分でなかったと指摘した。これに対してマイナス金利政策は、実質金利を下げるために名目金利をマイナスにする意味で、経済理論と整合的でわかりやすい政策であると述べた。もっとも、わずか0.1%の幅で大きな効果が見込めるか疑問であることや、国民にその意味や効果を十分納得させられなかったことを問題であると述べ、経営者や家計が将来に明るい見通しを持たない限り、金融政策だけで実体経済を動かすことに限界があるとも指摘した。

 細野氏は金融政策の波及経路について、資本コストの低下を通じて投資や輸出が増加する経路と借り手や銀行のバランスシートが改善することで実体経済を刺激する経路があると述べた。その上で、「マイナス金利付きQQE」は、資本コストを通じた経路によって景気刺激の作用を発揮している可能性が高い一方、銀行のバランスシートを介した経路は、銀行業の株価の動きなどから判断する限りうまく働いていない可能性があると述べた。

 徳島氏は、短期的にはともかく、長期にわたって日銀が実質金利をコントロールすることに懐疑的な見方を示した上で、経済成長のためには人口政策や生産性向上に取り組む必要があると指摘した。また、日銀の「マイナス金利付きQQE」によって、国債市場では低金利の下で超長期ゾーンを中心にボラティリティが高まっていること、社債市場では3年から5年物の高格付銘柄のクーポン利回りが0.001%まで落ち、適切な価格付けが難しくなりつつあると述べた。さらに、長期金利の低下によって、退職給付積立金の運用環境の悪化や、退職給付債務の評価額の上昇によって、企業財務にも負担増が生じていると述べた。

 第二部でも会場に対してアンケートを行った。まず、「金融経済のダウンサイドが顕在化した場合、日銀はどのような政策手段を活用すべきか」という問いに対しては、「信用緩和の強化」「その他」がそれぞれ4割弱、次いでマイナス金利幅の拡大が15%、国債買入れの拡大が8%であった。次に、「2%のインフレ目標をどう考えるべきか」という問いに対しては、「目標自体を見直すべき」とする回答が6割弱と最も多く、「中長期的な目標とすべき」が4割弱という結果だった。

総括:

 日本経済新聞 編集委員 清水 功哉氏

 清水氏は、日銀の「QQE」について、最初の2年間は「円安と株高という市場の好影響を実現したが実体経済への波及は限定的」と明快に評価できたが、3年目は市場への好影響すら不透明になったと述べ、その理由としてグローバルに見て「通貨高の引き受け手」がいなくなったことを挙げた。そして、経済成長力の強化に真剣に取り組まない限り、金融緩和の効果が発揮されない事実が一段と明らかになったとの認識を示した。

 「非伝統的金融政策」の悲観論に対して清水氏は、中央銀行は経済の「急性症状」に対して-理論的に正しいかどうかはともかく-何らかの政策対応を採ることが求められる、その意味ですべてが行き詰まったとは思わないし、今後も様々な知恵が出されるだろうと述べた。

 一方で、2%のインフレ目標達成という面では「非伝統的金融政策」も妥当性を含めて限界を露呈しつつあるとし、目標達成のために強力な金融緩和を維持する意味を問い直す価値があるかもしれないと述べた。もっとも、「2%」がグローバルスタンダードになっている以上、あくまでも国際協調の下で見直しを議論しないと、単独行動は自国通貨高を招くリスクが高いと述べた。

 清水氏は、各国の中央銀行が優秀な人材を集めているとの印象を示した上で、実際の経済見通しを誤ることが多い事実にも触れた。加えて、「中央銀行は市場の知らない情報を持っている」という幻想が市場に存在することを指摘し、これが訂正されない限り、中央銀行と市場の対話を巡るトラブルはなくならないとの認識を示した。

 最後に清水氏は、物価安定が中央銀行の責務として法律に明記されている以上、「金融政策だけではデフレ脱却が難しい」ことが正しいとしても、法律論に落とし込まない限りは意味がなく、中央銀行との議論が噛み合わないと指摘した。この点を踏まえ清水氏は、「金融市場パネル」でも法律論の観点からの議論を行うことも有益ではないかと述べた。

金融市場パネル 2016年春 公開コンファレンスプログラム

13:00 主催者挨拶

13:05 基調講演「日本のマクロ政策の課題」
 岩田 一政氏  日本経済研究センター 理事長

13:35 基調講演「最近の国際金融情勢について」
 山崎 達雄氏  (前)財務省 財務官

14:05 パネルディスカッション(第1部)
「米国とユーロ圏の中央銀行の政策課題」
 ・パネリスト
 江川 由紀雄氏 新生証券 調査部長 チーフストラテジスト
 大島 周氏   みずほ銀行 常務執行役員
 加藤 出氏   東短リサーチ 代表取締役社長 チーフエコノミスト
 高田 創氏   みずほ総合研究所 常務執行役員 チーフエコノミスト
 ・モデレーター
 井上 哲也   野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

15:40 ― 休憩 ―

15:50 パネルディスカッション(第2部)
 「日本銀行の政策課題」
 ・パネリスト
 内田 和人氏  三菱東京UFJ銀行 執行役員 融資企画部長
 徳島 勝幸氏  ニッセイ基礎研究所 年金研究部長兼上席研究員
 細野 薫氏   学習院大学 経済学部 教授
 柳川 範之氏  東京大学 大学院経済学研究科 教授
 渡部 敏明氏  一橋大学 経済研究所 教授
 ・モデレーター
 井上 哲也   野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

17:30 総括
 清水 功哉氏  日本経済新聞 編集委員

※ コンファレンスの詳細は、http://fis.nri.co.jp/ja-jp/fmp/fmp/discussion.html

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

竹端克利

竹端克利Katsutoshi Takehana

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:マクロ経済分析、金融政策分析

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