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マーケットプレイス・レンディングの進展と規制論の高まり

2016年6月号

デジタルビジネス開発部 グループマネージャー 城田真琴

マーケットプレイス・レンディングが急成長を遂げる一方、政府当局による監視の目も強まっている。主要事業者は規制を回避すべく、共同で自主規制を公表し、先手を打ったが、当面は当局との綱引きが続くだろう。

急成長を遂げるマーケットプレイス・レンディング

 FinTechを代表するサービスとして、「マーケットプレイス・レンディング」が注目を集めて久しい。

 マーケットプレイス・レンディングは、インターネット上のプラットフォームを融資のマーケットプレイス(市場)として、資金が必要な借り手(主に個人)と投資家をマッチングさせる融資サービスである。当初は、個人投資家が多かったことから、「P2P(Peer to Peer)レンディング」と呼ばれていた。しかし、最近ではマーケットプレイス・レンディングの高い利回りに目を付けた機関投資家やヘッジファンドなどが貸し手となることが多くなった。このため、P2Pレンディングではなく、「マーケットプレイス・レンディング」という言葉が使われるようになっている。

 マーケットプレイス・レンディング事業者の代表格であるレンディングクラブ(Lending Club)の融資額は2010年の約2億ドルから、2015年には約84億ドルとなり、5年間で42倍になった。2番手のプロスパー(Prosper)も2010年の約2700万ドルから、2015年には約37億ドルとなり、年100%以上の成長率でビジネスを拡大している(図表)。この2社を含むマーケットプレイス・レンディング事業者の個人向けローンの組成額は2015年に200億ドルを超え、米国の個人向けローンのうち、実に24%を占めるまでになっている(※1)。

 この急成長の背景にあるのは、2008年に勃発した金融危機である。銀行が個人向け融資の引き締めを図った結果、クレジットスコア(※2)が高い個人であっても銀行から融資を受けることが難しくなった。マーケットプレイス・レンディングはこの間隙を突いた。インターネットで簡単に申込みが可能で、既存のローンに比べ低金利で融資が受けられることから、消費者間で急速に普及していった。一方、事業者は、借り手をクレジットスコア640以上のいわゆる「ニア・プライム層(※3)」以上に限定することで、貸し倒れのリスクを最小限に抑えている。

規制論の高まり

 マーケットプレイス・レンディングが急成長を遂げるにつれ、当局による監視の目も日に日に強まっている。

 大きな契機となったのは、カリフォルニア州サン・バーナディーノで2015年12月に起こった「サン・バーナディーノ銃乱射事件」である。14名が殺害されたこの事件では、FBI(米連邦捜査局)が米Appleに対して犯人が使っていたiPhoneのロック解除を求めたことで、セキュリティ業界中心に大論争が巻き起こった。一方、マーケットプレイス・レンディング業界では、別の観点で大きな議論を呼ぶこととなった。

 実は、この事件の犯人はプロスパーのマーケットプレイスを利用して28,500ドルを調達、銃や弾丸、爆薬などの購入費用に充てていた可能性があることが判明した。

 マーケットプレイス・レンディングはインターネット上で取引が完結するだけに、借り手の顔が見えない。そのため、テロ組織への資金供与やアンチマネーロンダリングの温床になり得るのではないかと懸念されている。問題となっているのは、事業者が審査を行う際、顧客確認、および融資目的を適切に検証したのかという点だ。もちろん、借り手が融資を申し込む際には、氏名や職業、収入、返済負担率、融資目的などを入力する必要がある。しかし、それを額面どおりに受け取るのではなく、適切に検証したのかどうかが問題となる。実際、この事件の犯人は融資目的を「債務整理」としていた。

 事態を難しくしているのは、マーケットプレイス・レンディングのスキームの複雑さである。マーケットの運営者であるプロスパーはあくまで場の提供にとどまり、資金の出し手は投資家である。しかも、投資家は、借り手に直接資金を貸し付けているのではなく、プロスパーと提携する銀行(ユタ州にあるWebBank)が貸し出した債権を買い取る仕組みになっている。この事件の場合は、WebBankが貸し出した債権をシティバンクが買い取り、それをさらに機関投資家に販売していた。こうなると、責任の所在が非常にあいまいになってくる。

 マーケットプレイス・レンディングの事業者は実際に融資を実行しているわけではない。このため、銀行と同レベルの規制対象にはならない。プロスパーは、反テロ法、反マネーロンダリング法、SEC(証券取引委員会)の規制、および債権が売り出される32州の州法に従っていると主張している。しかし現状では、マーケットプレイス・レンディング事業に対する特定の規制は存在しない。このため、何らかの規制が必要ではないかとの論潮が高まっている。

業界による自主規制

 米国財務省はこの事件以前からマーケットプレイス・レンディング業界に注目し、2015年7月にはRFI(※4)(Request For Information)を提示するなど、情報収集に努めてきた。また、CFPB(消費者金融保護局)も2016年3月からマーケットプレイス・レンディングに関する苦情受付を開始している。一連の動きは、何らかの規制が設けられることを示唆していると言えるだろう。

 一方、こうした動きを察知したレンディングクラブ、プロスパー、ファンディングサークル(Funding Circle)の大手3社は、2016年4月、非営利の会員組織「MLA(Marketplace Lending Association)」を設立した。MLAは、投資家や借り手に対する詳細な情報公開(すべての融資に対するリターン実績、金利など)による透明性の向上など、借り手と投資家の双方にとって利益のあるポリシーを策定し、業界の健全な成長を目指そうとするものである。いわば業界としての自主規制であり、対外的に発表することで、規制当局に対して先手を打った格好である。当面は、業界と当局のこうした綱引きが続くと思われる。

1) 2016年4月に米国で開催されたカンファレンス「Lendit USA 2016」でのLending Club CEOのRenaud Laplanche氏の講演より。
2) クレジットカードや住宅ローンなどの返済履歴をもとに個人の信用力を点数化したスコア。
3) クレジットスコアが300-600の層をサブ・プライム、601-660をニア・プライム、661-720をプライム、721-780をプライム・プラス、781-850をスーパー・プライムと呼ぶ。マーケットプレイス・レンディング事業者は借り手としてニア・プライム層のうち、640程度以上を対象にするケースが多い。
4) ビジネスプロセスにおいて、サプライヤーの実行能力等を確認するために文書等で情報の提供を依頼すること。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

城田真琴Makoto Shirota

デジタル基盤イノベーション本部 デジタル基盤開発部
グループマネージャー 上級研究員
専門:新技術の動向調査

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注目ワード : FinTech(フィンテック)

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