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個人の資産運用アドバイスの高度化のために

2016年6月号

株式会社ウエルス・スクエア 代表取締役社長 竹崎竜二

個人の投資パフォーマンスは、投資するファンドのそれに劣後するという研究がある。海外ではその行動の背景がホルモンとの関係にまで広げられている。貯蓄から投資への流れを強固にするためにも、投資家行動の分野に関する研究が盛んになり、成果をアドバイザーが共有できるようになることが望ましい。

 個人によるリスク資産の運用は、20年余りで株式の個別銘柄投資中心から、様々な資産を扱う投資信託中心へと大きく変わってきた。バブル崩壊以降のデフレ環境が続く中で、日本株の低迷がそれを促進した面がある。市場環境の変化に伴い、投信の売れ筋も外債型、REIT型、毎月分配型、通貨選択型等へと変遷し、結果的に商品の分散が進んだ。しかし、投資家の実質的なパフォーマンスは満足のいくものだろうか。たとえば現状の個人の投信平均保有期間は2年余りと世界的にみても短く、頻繁な売買が運用成果を毀損していると考えられる。金融庁も「金融モニタリングレポート」(※1)で短期間での乗換え売買について言及している。

 個人投資家の運用パフォーマンスには、個人の投資行動が大きく影響しているとみられる。本稿では、投資家行動の傾向に関する研究をレビューし、アドバイス高度化の一助とすることを考える。

内外の個人投資家のパフォーマンスについての研究

 海外では、個人投資家のパフォーマンスについて、様々な研究がある。有名なものに米Dalbar社の調査(※2)があり、それによれば1984年~2014年までの株式投信を保有する投資家のリターンは3.79%で、同期間のS&P500の11.06%と比べ大きくアンダーパフォームしている。その傾向は直近の3年や5年でも同様である。別の研究(※3)では、米国の投信に投資する個人投資家のパフォーマンスとファンド自体のパフォーマンスの比較が行われている。1991年から2013年6月まで、ファンドのパフォーマンス平均が8.81%であったのに対し、それらに投資した投資家のパフォーマンスは6.87%であった。運用スタイル別の分析も行っているが、結果は同様であった。

 日本における研究(※4)では、国内株式(アクティブ)や海外債券に投資する投信を購入した投資家のパフォーマンスが、それら投信自体のパフォーマンスに劣後するという結果がある一方で、国内株式(パッシブ、日経平均連動)投信に投資する投資家のパフォーマンスはアウトパフォームしていることが示されている。前述の米国の研究ではインデックスファンドに投資する投資家のパフォーマンスはファンドのリターンを下回っていただけに興味深い。

 このように個人投資家のパフォーマンスがファンドに比べ劣後する背景としては、投資家のモメンタム投資志向が挙げられる。つまり、過去のパフォーマンスが良いファンドに投資するという問題である。パフォーマンスが良いというのは過去の実績であり、その好調さが継続すれば問題ないが、結果からみれば逆の状況が起きているわけである。

投資パフォーマンスとリスク回避度-男女の違い

 男女の投資行動にも違いがある。2001年の米国の研究(※5)は、個別銘柄投資において、男性の方が女性に比べ、自信過剰な分だけ45%も取引が多く、パフォーマンスを劣化させていることを示した。特に独身男女間の差が既婚の男女間の差よりも大きかった。また、リーマン・ショックを挟んだ2008〜2009年について分析を行い、男性の方が危機時での解約率が高いことを示した論文(※6)もある。更に別の論文(※7)は、模擬市場での実験により、市場参加者が男性の場合の方が女性の場合より高い価格を作り出し、バブルを引き起こしやすいことを明らかにしている。

 リスク選好についてホルモンとの関係を分析した研究もある。例えば、男性ホルモンの一種であるテストステロンの量とリスク回避の傾向に関する論文(※8)がある。それによれば、全体としては女性の方が男性よりリスク回避の傾向が強く、女性だけでみると、テストステロン量とリスク回避傾向に有意なマイナスの相関が現れている(テストステロン量が多いとリスク回避が低い)。

 これまで述べた男女差の研究はすべて海外のもので、日本ではなかなか同様の研究が見られない。そこで、日本の家計の資産配分の実態から、日本でもこうした男女差が存在するのかを推定してみた。

 投資パフォーマンスの多くは基本資産配分で決まると言われており、それはリスク回避度とも関係する。図表は総務省の平成26年全国消費実態調査の2人以上の世帯、単身男女世帯の資産配分の違いを定期預金と有価証券比率で示したものである。定期性預金比率、有価証券比率共に、年齢が上がるにつれてすべての世帯種類で上昇傾向にあるが、世帯種類別にみると、定期性預金比率は単身女性世帯の比率が高く、有価証券比率は単身男性世帯の比率が高い傾向がある。これらは平成21年や平成16年の調査でも同様であった。こうした点から、女性の方がリスク回避度は高いと考えられる。また、2人以上世帯では、単身男女の中間になっており、これは共同生活によって、リスク回避が中庸になっているためと思われ、今回紹介したいくつかの研究と共通点があるように見える。

顧客の投資行動に対するアドバイザーの役割は大きい

 日本では、個人の資産運用、特に投資信託の運用に関する話と言えば、過去のパフォーマンスが優れたファンドの紹介、分散投資、信託報酬の高低、ドルコスト平均法の活用といったものが多い。本稿で取りあげたような投資家の行動そのものに着目した研究が少ないためと考えられる。

 日本でもこうした研究成果が増え、その成果を資産運用アドバイザーが共有するようになれば、顧客のパフォーマンス改善に寄与することができるのではないか。パフォーマンスはリスクに対する対価である。アドバイザーは資産運用のホームドクターとして、顧客のゴールに向けた資産運用に対し、時には顧客の行動に注意を喚起することも必要であろう。投資から貯蓄へという流れの中でアドバイザーの役割はますます重要になっていく。そのためにも、投資家行動について、産学の関心が高まっていくことが期待される。

1) 金融庁「金融モニタリングレポート」2014年7月及び2015年7月。
2) Dalbar, “Dalbar’s 21st Annual Quantitative Analysis of Investor Behavior”, 2015 Advisor Edition
3) Jason Hsu, Brett W. Myers, and Ryan Whitby,“Timing Poorly: A Guide to Generating Poor Returns While Investingin Successful
Strategies”, Journal of Portfolio Management, Winter 2016
4) 金子久「わが国投信の投資家行動に関する定量的分析」ファンドマネジメント(野村アセットマネジメント)、2004年新春号。
5) Brad M. Barber and Terrance Odean,“ Boys will be Boys: Gender, Overconfidence, and Common Stock Investment”, The Quarterly Journal of Economics, February 2001
6) John Ameriks, Jill Marshall and Liqian Ren,“Euity Abandonment in 2008-2009: Lower among balanced fund investors”, Vanguard Research Note, December 2009
7) Catherine C. Eckel and Sascha C. Fullbrunn,“Thar SHE Blows? Gender, Competition, and Bubbles in Experimental Asset Markets”, American Economic Review, February 2015
8) Paola Sapienza, Luigi Zingales and Dario Maestripieri,“Gender Differences in financial risk aversion and career choices are affected by testosterone”, Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America, September 2009

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

竹崎竜二Ryuji Takezaki

株式会社ウエルス・スクエア
代表取締役社長

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