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人工知能とビッグデータが変える不動産投資市場

2016年6月号

グローバルインフラコンサルティング部 上級研究員 谷山智彦

情報が不透明で恣意的な意思決定が多い不動産投資の世界でも、近年、人工知能やビッグデータの活用に注目が集まっている。日本でも幾つかの不動産価格推定サービスが登場しつつあるが、不動産とITの融合であるReal Estate Tech(不動産テック)を更に推進することで、効率的で透明性が高く、生産性の高い業界へと変わることができるだろう。

 近年、FinTech(フィンテック)というバズワードがメディアを賑わせている。ディープラーニング(深層学習)によって第3次のブームを迎えた人工知能、オープンデータやIoTの進展に伴うビッグデータの増大、ブロックチェーンなどの技術革新、そしてシェアリングエコノミーやAPIエコノミーと呼ばれる新しい経済圏の登場などを背景として、利便性・汎用性が高く、コスト競争力があり、新しい付加価値を創出するサービスが国内外で次々と登場している。

FinTechからReal Estate Tech(不動産テック)へ

 このような金融業界におけるFinTechの動きに留まらず、不動産業界においても人工知能やビッグデータを活用した動きが広がりつつある。これはReal Estate Tech(不動産テック)(※1)などと呼ばれ、不動産に係るオープンデータの整備やビッグデータ解析技術の目覚ましい進歩を背景として、新しい付加価値を創出したり、生産性を高めたりするサービスが続々と登場している。

 具体的には、先行している海外での事例を踏まえれば、(1)プラットフォームやクラウドを通じて、不動産投資・融資、売買・賃貸等の取引を迅速に低コストで提供するサービス、(2)ビッグデータ解析に基づいて物件や地域の評価情報を提供するサービス、そして(3)モバイル端末やツールを活用して、不動産業務の効率性・生産性を向上させるサービスなどが登場しつつある。

 これらの不動産テック系サービスは、従来の不動産プレイヤーの機能を大きく上回る可能性を秘めており、この「不動産テックの衝撃」が日本の不動産市場に与える影響を冷静に見据え、それに備える必要がある。

日本でも続々と登場する不動産テック:人工知能とビッグデータから見た不動産市場の姿とは

 実際に、日本においても、不動産に係るビッグデータに基づいて、物件や地域の評価情報を人工知能等の解析技術を用いて提供するサービスが2015年頃から続々と登場してきている。以下の図表に示すように、異業種からの新規参入やスタートアップ企業などが、不動産の価格や賃料を推定するサービスを次々と発表している。

 特に、中古マンション等を売買しようとする個人だけではなく、不動産投資家を対象としたサービスも登場しており、まずは人工知能とビッグデータ解析による不動産価格の推定サービスという新領域が生まれつつある。

 これらの価格推定サービスを利用することで、従来は不動産仲介業者などに依頼しないと知ることができなかった現在のトレンドを、容易に低コストで瞬時に知ることができる。不動産市場の透明性向上だけではなく、情報の非対称性の解消にも大きく貢献していると言える。

不動産テックが日本の不動産業界に与えるインパクト

 それでは、不動産テックの登場により、日本の不動産業界には、どのようなインパクトがあるのだろうか。特に、デベロッパーやアセットマネージャー、そして個人投資家や機関投資家など、既存の不動産業界プレイヤー達の役割や業務を、どのように変えてしまうのだろうか。

 まず、不動産テックの登場により、従来プレイヤーが提供しているバリュー全体のうち、一部の機能で他を大きく上回る特化型のサービスが登場するだろう。元来、不動産はテクノロジーやデータ解析とは縁遠い業界であるため、人工知能やビッグデータ、そしてITを活用することで、人間の恣意的な判断を上回る客観的な意思決定を支援したり、不動産に係る非効率な取引慣行や業務を改善したりするイノベーションの余地が大きい。

 それに伴い、不動産ビジネスの更なるアンバンドリング(機能の分解)が進展するだろう。以前、不動産の証券化が導入されたとき、不動産業界では物件の開発・保有・運用などの業務が分業化され、アンバンドリングが進展した経緯があるが、再び不動産に係る機能・サービスの更なる分解が進むだろう。こうしたアンバンドリングの進展は、不動産業界の生産性・効率性を向上させ、異業種・異業界からの新規参入も活性化されるため、産業規模の拡大に寄与することになる。また、ユーザーから見れば、単一ではあるものの特定のセグメントに特化した機能・サービスを自由に組み合わせられるようになり、低コストで効率的なサービスを享受できるようになる。

 例えば、不動産の資産運用ビジネスでは、投資物件の取得、管理運用、売却などの業務フローがある。ともすると、人工知能が発展すると、その資産運用会社の存在意義がなくなり、新しいベンチャー企業に代替されてしまうのではないか?と考えがちであるが、決してそうではない。既存の資産運用会社が担っている機能・サービス全体ではなく、例えば物件のソーシングや投資家マーケティングなどの個々の機能・サービスが、人工知能やビッグデータなどの新しいテクノロジーによって分解され、代替されることになるだろう(※2)。

 しかし、現時点における日本版の不動産テックは、未だ黎明期にあるのも事実である。不動産価格の推定サービスや一部の業務効率化サービスは登場しつつあるものの、従来の不動産ビジネスに対する「破壊的イノベーション」とまで呼べるサービスは未だ登場していない。

 折しも2016年4月から、国土交通省は不動産取引価格情報のAPI提供サービスを開始した(※3)。不動産と情報技術の融合は、どうしても情報の取得容易性に課題があったが、不動産に係る情報基盤の整備の進展に伴い、日本でも更に本格的な不動産テックが登場することを期待したい。

1) FinTechと同様に、Real Estate Techにも厳密な定義は未だ確立されていない。RE TechやProperty Tech(Prop Tech)等とも呼ばれ、情報技術(IT)を用いて不動産関連サービスを進化させようとするスタートアップ企業や新規サービスを指す幅広い概念となっている。
2) その場合、既存プレイヤーにとっては、個々の機能・サービスで優れたテクノロジーを持つスタートアップ企業と提携する方策(オープンイノベーション等)が必要になってくる。
3) http://www.land.mlit.go.jp/webland/api.html

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

谷山智彦Tomohiko Taniyama

デジタル事業推進室
上級研究員
専門:不動産金融工学

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