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マイナス金利の影響を最も強く受けるのは誰か

2016年6月号

未来創発センター戦略企画室 上級エコノミスト 佐々木雅也

日銀のマイナス金利の導入が市中の金融機関などに与える負の影響も無視できないが、最終的にその影響を最も強く受けるのは、現行の金融緩和策を転換しようとするときの日銀自身ではないだろうか。

マイナス金利の導入が日銀自身に与える影響を考える

 日本銀行は1月29日、新たな金融緩和策として、マイナス金利の導入を決めた。

 一口に「マイナス金利」と言っても、世の中に存在する様々な金利が一気にプラスからマイナスへと変化するわけではない。しかし、マイナスの金利という状況が未知の世界ということもあって、人々の間にはその効果よりも、預金金利の低下や金融機関の収益懸念といった副作用の方に関心が向かっているように見える。

 だが、こうした政策を実施している当の日本銀行に、マイナス金利の導入がどういった影響を与えるのかという議論はほとんどされていないように思える。

 図表は、極めて簡略化した日銀のバランスシート(2016年4月20日時点)を示している。日本銀行の総資産は同日時点で410兆円あるが、そのうち資産側では国債が354兆円を占める一方、負債側では当座預金が285兆円、同行が発行する銀行券の残高が95.3兆円存在する。このように、バランスシートの資産側では国債保有が、負債側では日銀当座預金が異常なまでに膨らんでいるのは、ひとえに2013年4月から続いている量的・質的金融緩和の影響によるものだ。

 だが、このバランスシートを中央銀行のものとしてではなく、一金融機関のものとして捉えてみると、当座預金や無利子の銀行券で資金を調達して、より利回りの高い日本国債で運用する巨大な運用主体としてその存在が浮かび上がってくるはずだ。現に日銀はこの長短金利差を生かして大きな収益を上げており、2015年9月までの半年間の経常利益は6591億円に達している。

マイナス金利の導入が日銀の出口を縛ることに

 問題は、マイナス金利の導入でこうした日銀の収益の構図がどのように変化するかである。

 まず日銀のバランスシートの負債側、特に当座預金の金利の変化を確認してみよう。日銀は以前から、所要準備額以外の当座預金残高に対して0.1%の金利を支払っていたが、今回、マイナス金利を導入した際には、当座預金の金利をプラス0.1%、マイナス0.1%、0%の3種類に分け、市中銀行の収益に配慮した。

 具体的には、2015年に既に存在していた当座預金残高の平均金額である210兆円程度(※1)には、今後も0.1%の金利を日銀から金融機関に支払うこととした。

 その一方で、日銀は年間80兆円のペースでマネタリーベース(※2)を増やす政策は今後も維持していくため、日銀当座預金もそれに近いペースで増えていくことになる。そこで日銀は、短期市場の金利をマイナスにするのに最低限必要な10兆円から30兆円程度に対してだけマイナス0.1%の金利(言い換えれば、0.1%の手数料)をかけ、残りの部分は無利子にすることとした。

 平たく言えば、日銀の当座預金は今後も年間80兆円のペースで増え続けるけれども、当座預金全体のうち210兆円はプラス0.1%の金利、10~30兆円はマイナス0.1%の金利と残高が固定されるので、マイナスでもプラスでもない無利子の当座預金部分だけが年間80兆円のペースで増えていくことになる。この構図を前掲図表の当座預金残高(285兆円)に単純に当てはめてみると、無利子になる当座預金残高は、285兆円から210兆円と10~30兆円を差し引いた45~65兆円程度となる。

 それでは、マイナス金利を導入したことでどれだけ当座預金全体の金利が下がるのか。図表の事例で日銀当座預金の加重平均金利を試算すると0.063~0.070%(※3)となり、マイナス金利導入前より0.03%ポイント以上、支払い金利が低下している。ただし、現行の枠組みでは、金利が付かない当座預金の残高部分だけが増えていくことになるため、当座預金の加重平均金利はゼロに向かって下がり続けていくものの、その下落ペースは徐々に低減していくことになる。

 一方で、日銀のバランスシートの資産側はどうなるか。マイナス金利の導入は、日銀側も指摘しているように、国債のイールドカーブ全体を大きく下に押し下げており、長期金利の代表的な指標である10年国債の利回りは、マイナス金利導入直前の0.2%台からマイナス0.1%前後にまで、0.3%ポイントほど低下している。

 しかし日銀は同時に、その利回り全体が大きく低下した国債を年間80兆円ペースで購入する主体でもあり、資金運用機関として、イールドカーブ低下の影響を最も強く受ける存在でもある。特に、現行の金融政策では国債買入れの平均残存期間を7年~12年程度としているため、マイナス金利導入後の日銀は、マイナスの利回りになっている国債を大量に購入していると想定される。日銀が保有する国債の運用利回りは2015年9月末時点で0.436%だが、今後、マイナス金利政策が長期化していくと、国債の運用利回りが当座預金の加重平均金利よりも大幅に下がってしまう可能性が高い。

 こうして見ると、マイナス金利の導入は、日銀が稼ぐ“利ざや”を今後、大幅に押し下げると考えられる。このことは、日銀がどこかの時点で現行の金融緩和策を転換しようとする際に、自らがとりうる手段を大きく縛ることになるのではないか。

 例えば、日銀の収益性の低下は、政府への納付金を減らすだけでなく、同行のバランスシートの膨張度合いに比した自己資本の蓄積が一段と難しくなることを意味する。これは、国債の購入ペースを徐々に減らしていく「出口」の段階で起きうる長期金利の上昇に対して、バランスシートの抵抗力を弱めることになるはずだ(※4)。

 また、マイナス金利を解除する際には、日銀は当座預金の金利を上昇させることになるが、日銀が稼ぐ“利ざや”が極めて薄い状況が定着してしまった後では、当座預金金利の上昇幅も自行の収益やバランスシートへの配慮から自ずと限られてくるはずである。

 日銀はマイナス金利の導入によって、金融政策正常化という「出口」に向かう扉を自ら閉ざそうとしているように見える。

1) 正確には、2015年中の当座預金平均残高は約220兆円だが、そこから0.1%の金利がつかない準備預金分(約9兆円)を差し引くため、0.1%の付利が今後も行われる金額は210兆円程度となる。
2) マネタリーベースは、日本銀行券発行高、貨幣流通高、日銀当座預金を足し合わせたもの。
3) 当座預金残高が285兆円のとき、マイナス金利適用残高を10兆円とすると、加重平均金利は、((210兆×0.1%)+(10兆×マイナス0.1%)+(65兆×0%))を285兆で割った値になり、その結果は0.070%になる。同様に、マイナス金利適用残高が30兆円の場合は、加重平均金利は、((210兆×0.1%)+(30兆×マイナス0.1%)+(45兆×0%))を285兆で割った値になるので0.063%と計算される。
4) 2013年春にFRBが国債購入のペースを徐々に弱めていくこと(テーパリング)を示唆すると、1%台後半にあった米国の長期金利は一時、3.0%にまで上昇した。
また、IMFが2013年4月に発表したレポート“Unconventional Monetary Policies—Recent Experience and Prospects”のなかで指摘しているように、国債の購入などによって量的緩和政策を実施した中央銀行は、金利が大幅に上昇(=国債の価格が大幅に下落)すると、時価ベースで見たバランスシートの資産側の価値が大きく目減りしてしまい、多額の含み損を抱えることになる。
ただし、日本銀行の会計規程によれば、バランスシート上における円貨建債券の評価は償却原価法によるとなっている。このため、国債を満期まで持ちきれば、国債の含み損益は日銀の決算には反映されない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

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