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踊る湯葉が描く世界地図

2016年5月号

御竿健太郎

2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震では、東北・関東をはじめとする広範囲の太平洋側地域に津波が到達し、大きな被害と犠牲をもたらした。

 この原因となった地震は、「海溝型」と分類され、地球上の表面を覆うプレート同士の衝突・沈み込みによって歪みが長年蓄積していき、それがある時に一気に解放されることで発生するものである。プレートの沈み込み速度が一定である限り、ほぼ一定のサイクルで解放が発生すると考えられている。

 では、規則的に発生する地震であれば、予測や対策が容易ではないかと思えるが、実際の防災に活かすのはそう簡単ではない。観測や古地震の研究により、近いうちに次のイベントが起きそうなことが明らかになったとしても、その発生時期は例えば「数十年以内」といった非常に長い期間となってしまう。地球の時間軸からすればかなり規則的に起きるイベントであっても、人間の時間軸から見れば、「そのうち起こりそうだが、いつ起こるか正確にはわからない」事象になってしまうのである。

 プレート同士の衝突・沈み込みといっても、人間の時間軸から見れば静止しているようにしか見えない。確かに、日本海溝におけるプレート間の相対スピード(陸側の北米プレートに対する海側の太平洋プレートの移動速度)は年間8.3cmでしかない。しかしながら、何千万年から何億年という地球の時間軸から見れば、プレートは沸騰した豆乳に浮かぶ湯葉のように不安定で、互いに衝突して豆乳の対流に潜り込むダイナミックな動きを見せる。現在の世界地図は、踊る湯葉の一瞬の絵姿にすぎないのだ。

 例えば、南米ホーン岬と南極大陸間のドレーク海峡からサンドウィッチ諸島にかけての海底地形は、プレートの流動を示す非常に美しい形状をしている。地球物理学の分野で、プレートの挙動を説明するために流体力学を用いるのも頷けるのである。

 見る時間軸によって景色が異なってくるのは、金融市場も同様である。例えば株価チャートでは、月足/週足/日足など、どの時間軸で見るかにより形状は全く異なったものとなる。目的に応じた的確な時間軸の設定が大事であることは言うまでもないが、時には目的よりも長い時間軸で眺めてみて、裏に潜むダイナミズムに想いを馳せるのもまた重要なのだ。

 なお、GPS観測網が発達した近年では、1秒間隔・精度1cm以下という精密さでの地殻変動解析も行われるようになり、地震や噴火等の兆候把握などにおいて新たな視点を提供している。HFTやアルゴトレードによる価格形成が主流となりつつある昨今、分足のみならず秒足/ミリ秒足の視点もまた不可欠になるのかもしれない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

導入事例

御竿健太郎Kentaro Misao

金融コンサルティング部 上級コンサルタント