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ウェアラブル端末の普及が拓く新しいサービス

2016年5月号

デジタルビジネス開発部 上級研究員 亀津敦

スマートウォッチやスマートグラスと呼ばれる、身につけるIT機器=ウェアラブル端末が続々と市場に登場している。これら新デバイスは、単なる「便利な端末」としてだけではなく、健康保険や決済などのサービスの入り口としてビジネスに活用され始めている。

普及が拡大するウェアラブル端末

 身につけるコンピューター=ウェアラブル端末をめぐる状況は、2015年に大きな盛り上がりを見せた。

 2015年4月のApple Watchの登場はメディアで大きく報道され、普段は最新技術に関心を持つことのない一般の生活者にも“ウェアラブル”というキーワードを知らしめることとなった。

 先行する米国市場では、日本に比べウェアラブル端末に対する社会的受容が進んでいる。2015年7月にはフィットネス用途のウェアラブル端末(アクティビティ・トラッカー)の老舗メーカーであるFitbit社が、ニューヨーク証券取引所にIPO(株式公開)を果たした。この“ウェアラブル専業企業初のIPO”は、ウェアラブル関連ビジネスの着実な成長を象徴するものとして大きな話題となった。

“サービスの入り口”へと進化するウェアラブル端末

 アクティビティ・トラッカー(活動量計)は、2009年頃から製品が登場し始めた。日本でも2013年にソフトバンクモバイルがFitbit社の製品販売を始めたことで携帯電話ショップや家電量販店でも購入可能になり、ダイエットや健康に関心のある生活者の利用が伸びてきた。

 これまでのところ、このような生活者が自分で毎日の歩数や消費カロリー、睡眠時間を計測して、日々の生活習慣の改善に活かすというのが一般的な利用形態である。しかし、海外ではアクティビティ・トラッカーで収集した個人の活動データを利用したビジネスも始まっている。

 フランスの保険会社AXAは2014年、フィットネスに特化したWithings社のウェアラブル端末「PulseO2」を、新規の生命保険契約者に無料で配布し、一ヶ月間、毎日7000歩以上歩いた契約者に対し、インセンティブとして、“代替医療(整体や針治療、フットケアなど)”を受けられるチケットを提供している。

 保険会社にとっては加入者が健康になればなるほど、保険金の支払いが減ることになり、保険会社・加入者双方にメリットがある。また、契約者は“単に保険に加入している”というだけではなく付加的なメリットを感じるため、他社の保険商品との差別化につながる。保険会社だけでなく、銀行が自行の口座保有者に対して同様のサービスを始めたりもしている。

 将来的には、保険加入者がウェアラブル端末からのデータを提供することで保険商品の条件が変わるような流れが形成される可能性が高い。自動車保険では、走行距離に応じて掛け金が変動する、いわゆる「テレマティクス保険」が登場しているが、任意で加入できる生命保険においても同様にウェアラブル端末から取得できるバイタルデータを活用した保険のイノベーションに期待が寄せられている。

ウェアラブル端末から決済も

 また、ウェアラブル端末による決済も既に可能になっている。NFCを搭載したApple Watchによる非接触決済(Apple pay)が、2015年7月から米国だけでなく英国でも利用可能になっており、英国ではAppleWatchをかざしてバスや地下鉄に乗ることもできる。他にも、英国のBarclaycardの「bPay」やウェアラブル活動量計のJawbone UP4とアメリカン・エキスプレス・カードの提携による非接触決済など、ウェアラブル端末による決済サービスが拡大する兆しを見せている。

 日本においても、多くの非接触電子マネーに採用されているFelicaが2020年に向けて腕輪型・指輪型等のさまざまなウェアラブル端末の形状に対応したFelicaチップを組み込み可能にするという。

 ウェアラブル決済が本格化すれば、高度なセキュリティに対するニーズも高まる。カナダのTD BankとMaster Cardは2015年8月、心拍数のパターンから個人を識別するNymi社のウェアラブルバンド「NymiBand」を用いて、セキュアな決済の実験に成功したと発表している。心拍数には、人それぞれの固有のパターンがあり、本人のバイタルデータがないとなりすましができない。端末から得られる心拍データによって本人と確認できた場合のみ、搭載されているNFCによる決済を可能にするというものだ。

ウェアラブル端末はアイデンティティとパーソナライゼーションのためのキーデバイスに

 ウェアラブル端末は将来的に、“便利な情報端末”としての役割だけではなく、“ユーザーにもっとも密着した端末”として、パーソナルデータの収集とアイデンティティの識別に使用されるようになる。そして、個人に合わせたサービスの提供や安心・安全に貢献する役割を担う。もちろん、そこで取得するバイタルデータは非常にパーソナルで、なおかつプライバシーに配慮すべきデータの集合体であるため、ビジネス活用においては利用者のプライバシー保護に対する細心の配慮が必要になろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

亀津淳

亀津敦Atsushi Kametsu

IT基盤イノベーション本部 ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:情報系システム全般

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