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国債取引におけるフェイル増加への対応

2016年5月号

ホールセールソリューション企画部 上級研究員 片山謙

日本国債の取引において外国人の存在感が高まると共に、「フェイル」が増えている。業界としてフェイル抑制策は既に打たれているが、今後は、機関投資家等におけるフェイル対応の一層の効率化が検討課題となろう。

日本国債取引の国際化とフェイル

 日本国債取引の国際化が進みつつある。国債の買付額全体に占める外国人比率は、2010年頃の12%前後から2016年2月には24%と倍増した(図表1の①)。国内人口の高齢化を受け年金資産や預金の取り崩し時期に入る中で、外国人による買付は重要な存在である。

 外国人比率の高まりと時期を同じくして、取引で当初予定した通りに国債の受渡しが行われない、いわゆる「フェイル」が増えつつある。とりわけ、2014年以降に3度ほど、1ヶ月に400件程度のフェイルが発生した。リーマン・ショック時(2008年9月)の1,600件にこそ及ばないものの、2010年から2013年までと異なり、ピーク時のフェイル件数が増えた(図表1の②)。

 フェイルが増えた要因はこれだけではないかもしれないが、一般的に、外国人との取引は国内取引と比べて受渡しのフェイルが生じやすい。その理由として、第一に受渡しにかかる関係者が多いことが挙げられる。例えば、海外のファンドが国内証券会社と取引する場合、ファンドの運用会社側からグローバル・カストディと呼ばれる資産管理銀行を経由して、サブ・カストディと呼ばれる国内銀行に指図が入って受渡しが行われる。各々に国境や時差、業務サイクルなどの違いがあるため、指図の修正等を行おうとすると時間がかかりがちとなる。

 第二に慣行の違いがある。例えば、日本ではフェイルの影響を抑制するため大きな取引を50億円ずつに分割する慣行があるが、海外では日本の慣行への認識が十分でなく、分割しないままで受渡し用の照合データを送ってくるところもある。そのため決済照合不一致となり、指図内容の再確認や修正が必要な場面が出がちとなる。

フェイル水準の国際的な格差

 さらに、フェイルに係る一般的な水準の違いも改めて意識しておく必要があるかもしれない。日本におけるフェイルの水準は、欧米と比較して格段に低い。金融危機以降のピークである2014年3月においても、フェイルは1ヶ月あたり約400件、金額ベースで約1.3兆円であった。他方、米国でのプライマリー・ディーラーを対象とした調査によれば、米国債の延べフェイル金額(毎日のフェイル残高金額を積み上げたもの)は2015年の少ないときでも1ヶ月あたり約2,200億ドル(約24兆円)に達する。直近の2016年3月23日までの4週間ではリーマン・ブラザーズの破綻以来の水準である約1.1兆ドル(121兆円)となり、ピークの週では1日あたりフェイル金額が600億ドルに達した。日米で国債市場規模の違いはあるにしても、日本の直近ピークの約100倍である。それでも市場はまわっている。

 こうした状況であれば、海外でフェイルについて、「良いことではないが日常なもの」と思われていても不思議ではない。

フェイル抑制策と対応策

 無論、各国の当局や市場参加者が手をこまぬいていたわけではなく、フェイル抑制策を導入してきた。例えば米国では2008年に発生した巨額のフェイルを受けて、2009年5月にフェイル・チャージと呼ばれる、フェイルした側からフェイルした先に一定の経済的負担を課す慣行を導入した(※1)。日本でも同様にフェイル慣行の見直しが進められ(※2)、2010年にはフェイル・チャージを含めた抑制策が導入された(※3)。以来、米日ともに数年間は金融危機よりも低い水準で推移してきたが、前述のとおり、ここ1年はピーク時のフェイルが大きくなりつつある。

 外国人との取引に伴うフェイルが生じた場合、通常、フェイルを受けた証券会社等がレポ取引等で債券や資金を調達し、国内機関投資家等への波及を抑制している。もっとも、今後外国人の比率がさらに高まり、フェイルが増えるようになれば、波及を抑えきれるとは限らない。であれば、機関投資家が受けるフェイルが今後ある程度増加することを想定して、約定処理や後続の事務処理、最終投資家への報告などの一層の効率化について検討しても良い時期に来ているのではないだろうか。

1) 3%を上限とするフェイル・チャージにより、フェイルしたまま放っておくよりも、レポ市場等で国債を調達して受け渡す方が経済合理性を持つよう仕向けることで、ヘッジファンド等を含めた市場参加者によるフェイル解消努力を促す仕組みである。フェイル・チャージの導入以降、米国債のフェイルは2010年頃までは低い水準で推移したものの、2011年以降は趨勢的に増大傾向に入ってきた。
2) 日本証券業協会「債券のフェイル慣行の見直しに関するワーキング・グループ」最終報告書(2010年4月20日)。
3) 日本証券業協会「債券のフェイル慣行の見直しに係る『国債の即時グロス決済に関するガイドライン』の改正について」。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片山謙

片山謙Ken Katayama

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