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取引所の国際的再編

2016年5月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

ドイツ取引所とロンドン証券取引所グループが経営統合で合意した。2013年以降沈静化していた国際的な取引所再編が改めて動き出す可能性もある。

DBとLSEの統合合意

 2016年3月16日、欧州の取引所運営会社であるドイツ取引所(DB)とロンドン証券取引所グループ(LSE)が、新たに設立された持株会社の傘下で経営統合することで合意したと公式に発表した。

 近年、世界の取引所は、非営利の会員制組織から株式会社へと組織変更し、国境を越えたM&A(合併・買収)の展開によるグループ化や多角化を進めてきた。とりわけ、2010年の秋から翌年初めにかけては、世界の有力取引所による国際的な経営統合構想が相次いで発表され注目を集めたが、その多くは、自国の取引所を守ろうとするナショナリスティックな感情や独占禁止法の規定が壁となって頓挫させられた。

 その後、2012年には、香港取引所によるロンドン金属取引所(LME)の買収とインターコンチネンタル取引所(ICE)によるニューヨーク証券取引所(NYSE)の運営会社NYSEユーロネクストの買収という二つの大きなディールが実現したが、2013年以降、国際的な取引所再編の動きはいったん沈静化したかと思われていた。

 DBとLSEは、企業としての実力を示す指標といえる自社の株式時価総額でランキングした場合、世界の取引所運営会社の中で4位と5位に位置付けられる。その両社が統合すれば、現在トップのシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に次ぐ世界第2位の取引所運営会社が誕生することとなる(図表参照)。

 今回の統合合意をめぐっては、CMEやICEなど、ライバル会社による対抗買収提案を呼ぶとの憶測もなされており、世界的な再編の動きにつながる可能性もある。

経営統合の意義

 世界的な金融センターであるロンドンを代表する取引所運営会社であるLSEは、早くから多くのライバル企業によるM&A戦略のターゲットともなってきた。過去には、DBやナスダックが買収提案を行ったほか、ユーロネクストやカナダのTMXグループとの経営統合を模索したこともある。

 今回統合合意に至ったDBとLSEという組み合わせは、①いずれも欧州域内に本拠地を有すること、②世界最大級のデリバティブ取引所ユーレックスを傘下に有するDBと現物株式の取引や関連情報サービスに強みを持つLSEという相互補完的な組み合わせであること、③両社がともに、取引の場や情報の提供から清算・決済機能までを一貫して担う垂直統合モデルと呼ぶべきビジネス・モデルを追求する取引所グループであること、といった点が注目される。両社は、統合完了3年後までに年間4億5千万ユーロのコスト削減効果や相当な収益面でのシナジー効果が見込めると、統合の意義を強調している。

 取引所運営会社がM&Aによる事業規模の拡大を図るのは、現代の取引所ビジネスが大規模なシステム投資を継続的に必要とする装置産業となっているからである。また、世界の有力取引所運営会社はいずれも、現物株式の取引市場だけでなく、有価証券から通貨や金利、商品(コモディティ)といった多様な原資産のデリバティブ(派生商品)の取引市場も開設する総合取引所化を進めており、M&Aは、運営市場の多様化を実現するための手段ともなっている。

注目されるJPXの戦略

 日本国内では2013年1月に東京証券取引所と大阪証券取引所が経営統合して日本取引所グループ(JPX)が発足した。おりからアベノミクス効果で株式相場が回復し、売買も以前に比べて活発になったこともあり、同社は、株式時価総額でみた場合、世界の取引所運営会社のトップ10位以内の位置を安定的に確保している。

 もっとも、JPXの開設する市場は日本国内に限られ、海外展開が遅れている。また、高い成長性が見込まれるデリバティブ取引の分野では、日経225株価指数と東証株価指数(TOPIX)に関連する取引への依存度が高く、幅広いデリバティブ取引を扱う総合取引所ではない。

 取引所運営会社のM&Aは、市場の統合には必ずしも直結しないこともあり、上場会社や投資家といった取引所の利用者には、その意義が理解されにくい。また、JPXが国際的な競争力という点で他の取引所運営会社に比べて見劣りする状況に陥ったとしても、日本株の取引が海外に流出するといった目に見える影響が生じるとは考えにくい。しかし、中長期的にみれば、JPXの国際的な位置付けは、日本市場の国際金融センターとしての競争力にも大きな影響を及ぼす。今後のJPXの戦略展開が注目されるところである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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