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アジアの銀行で進展するデータ活用とデータ整備

2016年4月号

ホールセールソリューション企画部 主任研究員 片岡佳子

アジアのローカル銀行において、データ分析はマーケティング活動やクレジット分析に活用され始めている。またデータ活用の拡がりに伴って、分析体制やデータ環境の整備も進展している。

データの活用状況に関するサーベイを実施

 野村総合研究所では、昨年の夏から秋にかけて、欧州を中心とする銀行の業界団体であるEfmaと共同でアジアのローカル銀行におけるデータの活用状況に関するサーベイを行った(※1)。近年、日本の金融機関においても、取引情報や顧客情報などのいわゆるビッグデータを、不正取引防止や対顧客サービスの向上といった業務改善に活用する事例が増えてきている。今回のサーベイでは、アジアの銀行においても、既にデータ活用の動きが浸透しているばかりでなく、それと共にデータ整備やデータ管理といった領域に対する関心も高まっていることがわかった。サーベイは、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、インドのローカル銀行を対象に、オンライン経由で質問項目を送付、必要に応じて追加インタビューを行うかたちで実施された(※2)。

 まず、参加行には調査の実施にあたり、データ分析の重要性をどのように考えているのか質問した。これに対しほぼすべての銀行が「顧客を維持するために不可欠である」と回答している。この背景には、ビッグデータ分析のビジネスへの有用性が示されつつあることに加え、アジア地域でもAlipayやAlibabaなど異業種からの銀行業への参入が存在感を増しつつあること、クラウドファンディングなど代替手段の発達といった競合環境が変化していることなどがあるようだ。事実、今回のサーベイ対象の銀行の約7割が、ノンバンクや新規参入事業者への顧客流出を意識していると回答している。

データ活用は主にリテール領域で浸透

 データ活用の具体的な状況をみると、9割以上の銀行が実際にデータ分析を活用していると回答。中でもリテール事業の領域は84%の銀行がデータを利用した分析を行っていると回答しており、ホールセール事業や富裕層向け事業での利用率が50%以下だったのと比較して、足元では最もデータ分析が浸透している分野といえる。

 リテール事業の中では、預金商品などのマーケティング促進のために利用していると回答した銀行が94%に上り、最も一般的な利用領域となっている。マーケティング促進の具体的な手法としては、保有商品など基本的な顧客情報を用いた分析が足元では主流であり、中でも既存顧客へのクロスセルへの利用度が60%と最も高い。これについては、回答した銀行の8割程度が、クロスセルが増加したと回答しており、一定以上の効果が得られていることがうかがわれる。次いで多かった回答が、クレジット関連領域でのデータ活用で、具体的には、スコアリングモデルの開発と回答した銀行が半数以上となっている。

 今後の注力領域としては、顧客の位置情報など外部データやリアルタイムデータの活用を含む分析の高度化や、業務効率化やコスト削減のためのデータ活用への関心が高くなっている。すでに一部の銀行では、顧客行動を分析し顧客によって自動化チャネルに誘導したり、各プロセスにかかる時間やミスの頻度等の分析により、一部の手作業の業務を自動化するなどして効率化が図られているようだ。

データ分析環境の整備も進展

 こうした中、データ活用の浸透と共にデータ分析体制や環境の整備が進んでいることが、今回のサーベイでは確認されている。

 データ分析体制については、50%近い銀行がデータ分析体制を集中化、あるいは集中化予定と回答している。また、分析体制を集中化させる取り組みのほかに、分析の元となるデータを一元管理するデータ管理部署(Data Management Office)について、半数以上の銀行が設置済み、あるいは設置予定としている。さらに、データ品質の管理を行うデータスチュワードや、データに対して責任を担うCDO(Chief Data Officer)を設置していると回答した銀行も3割に上った。

 こうした体制整備と共に、多くの銀行が分析のためのデータ整備を進めている。足元では各部門や拠点を中心にデータが保存されていると回答した銀行が40%に上ったが、8割以上の銀行が今後2年の間に、分析業務の集中化に伴って、顧客データや取引データを中心に分析データを集中化させると回答している。

 実際に、サーベイに回答した銀行の中には、本店の事務高度化センター内に分析専門チームを設置し、1億ドル以上の設備投資を行って拠点向けの顧客データ分析、マーケティングおよびCRMを統括して行う機能を担わせているところもある。その他、シンガポールのある銀行でも、近年データ管理及び分析部署を一元化させ、各事業ラインと連携しながら、分析に必要なデータセットの整備・提供やデータ品質の確保、データディクショナリーの整備といった取り組みを進めている。

今後の課題と着眼点

 サーベイ対象の銀行からは、今後の課題として、個人情報が利用されることに対して不快感を示す顧客の存在や、サーベイの対象国の中でもばらつきがみられる個人情報保護法(Personal data protection act)などデータに関する規制の動向、特にデータの国外持ち出し規制やその際の手続きの煩雑さ、といった幾つかの点が指摘された。さらに、データ分析や管理の能力を持った人材の不足も課題として挙げられている。

 しかしながら、前述した競争環境の激化や、データ活用で既に一定の効果が得られていること、また、アジアにおいても、一部の大手銀行がリスクデータを中心としたデータ管理の高度化を促すバーゼル規制であるBCBS239(※3)に対応する必要があることなどを背景(※4)に、幾つかの課題はあるものの、今後もデータの整備やデータに関する体制の整備は進展するものと考えられる。

 これまでも、トップダウン型の意思決定や、銀行の事業範囲が限定的で機動性が高いことなどから、アジアの銀行では大胆な経営判断や先進的な取り組みが行われる事例がみられている。従って、こうしたアジアの銀行から、今後データを活用したユニークな取り組みや成果等が出てくる可能性もあるのではないだろうか。

1) https://www.efma.com/
2) 回答銀行の中には各地域のシェア上位行が含まれるが、欧米系の銀行は含まれていない。
3) バーゼル銀行監督委員会が公開した、実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則で、銀行におけるリスクデータ集計能力を高度化させることが求められているもの。
4) NRI がAuthorized Partner となっている米国のデータ管理コンソーシアムであるEDMカウンシルが実施したデータ管理への対応状況に関するサーベイでも、7割以上の銀行が、BCBS239対応が主な理由となってデータ管理を高度化させた、と回答している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片岡佳子

片岡佳子Keiko Kataoka

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融関連ソリューション企画

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