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金融機関のクロスメディア戦略

2016年4月号

インサイトシグナル事業部 部長 塩崎潤一

一般企業で導入されてきたコーポレートブランド戦略が金融機関でも重要になってきている。メディアの多様化により顧客接点が複雑になってきており、金融機関でコーポレートブランドを構築するためには、複数のメディアを使い分ける「クロスメディア戦略」が重要である。

金融機関に求められるブランド戦略

 金融機関におけるコーポレートブランド戦略が重要になってきている。コーポレートブランドとは、その企業らしさのことであり、顧客が金融機関を選択する際の重要な要素となっている。

 一般の消費財と比較すると、金融機関のマーケティング戦略は遅れていると言わざるをえない。横並びの意識が強く、他社と「差別化」するよりも、他社と「同じこと」を重視してきた。近年は、個別の商品やサービス内容で差別化が難しくなってきており、そのため、コーポレートブランドが重要になってきている。

 コーポレートブランドを構築する上で、最も重要な視点は「顧客」である。顧客に対してブランドを浸透させることは、ブランドの考え方に共感する新規顧客の獲得や、リピート顧客づくりにつながる。また、同じ商品・サービスでも、ブランド力があることで、価格プレミアムを獲得することも期待できる。

 顧客に対して、コーポレートブランドを浸透させる上で重要な点は「一貫性」である。提供している様々な商品・サービスで一貫性があることや、時系列の変遷の中での一貫性があることが求められる。中でも、すべての顧客接点における一貫性が重要である。

 例えば、金融機関と顧客の具体的な接点としては、テレビCMなどのマス広告、店頭・店員、PRやIRなどによる情報発信が考えられる。また、顧客の行動プロセスも考慮する必要がある。商品やサービスを認知するプロセス、比較するプロセス、選択という意思決定をするプロセス、アフターサービスを利用するプロセスなど、顧客プロセス別に考えることも重要である。このような顧客接点と顧客プロセスの両方を考慮して、顧客に対して一貫したブランド・マネジメントを行うことで、コーポレートブランドが形成される。

大きく変化する顧客のメディア接触

 顧客に対するコーポレートブランド戦略を検討する上で重要になってくる変化として、マス広告における接点の多様化があげられる。

 テレビの視聴時間は減少している。特に20代における減少幅が大きく、20代にとって、もはやテレビは「家にあって当たり前」というものではなくなってきている。新聞や雑誌の発行部数も減少傾向にあり、接触者は減り続けている。

 これらの減少するメディアに対して、接触が大きく増えているのがインターネット広告である。ここ5年の変化を見ても、twitterやfacebookなどのSNSが急拡大し、生活者の接点として拡大している。スマートフォンの普及は、この傾向にさらに拍車をかけている。

 生活者のメディア接点は、テレビ中心だったものから、インターネット中心へと変化してきた。企業が生活者にコミュニケーションをとる手段としては、「テレビCM」から「インターネット広告」へ変わってきたといえる。

 従来は、新しい商品・サービスの発表は、テレビCMさえ利用していれば、ほとんどの人に告知ができていた。今後は、テレビCMでは接触できない人も多くなってくるであろう。企業としては、テレビCMの単一メディアの広告から、インターネットなどを活用した複数メディアの活用へシフトすることが求められる。

求められるクロスメディア戦略

 消費者のメディア接点が多様化する中で、「クロスメディア」による広告が、広告の効果を高めるためには重要となる。クロスメディアには2つの考え方がある。メディアを「重ねる」ことで効果を高める考え方と、あえてメディアを「重ねない」ことで、メディアの接触者数を拡大させる考え方である。

 「 重ねる」クロスメディアの考え方は、複数のメディアに接触させることで、相乗効果を高めようとする考え方である。例えば、テレビCMではコーポレートの名称やイメージだけを伝え、雑誌やWeb広告でコーポレートの具体的な特徴を伝えることにより、その企業らしさを伝えることができる。テレビCMでの接触は有名であるという安心感を醸成し、実際の商品やサービスの特徴をその他のメディアで知ることで、相乗効果が生まれる。これが「重ねる」クロスメディアの効果であり、クロスメディアプレミアムと呼ばれている。今後はクロスメディアプレミアムを高めるメディアの組合せが重要となる。

 一方、「重ねない」クロスメディアは、顧客に対するメディアの接点を最大化しようとする考え方である。テレビCMだけの出稿では、どうしても接触できない層も増えてきており、これらの層に対して雑誌やWeb広告などを使うことで接触を獲得しようとする戦略である。特に、テレビの視聴時間が減少していることは大きな課題であり、テレビを視聴しない層に対して接触できるメディアを見つけることが重要となる。Web関連の広告だけではなく、交通広告などもテレビを見ない層に対して接触できるメディアとして有効である。

金融機関の広告宣伝におけるクロスメディアの活用

 クロスメディア戦略は、とりわけ金融機関において重要である。

 金融機関の場合、商品・サービスが複雑な場合が多く、テレビCMの限られた時間の中では商品・サービスの特徴を伝えることができない。雑誌やWebサイトなどの文字媒体を使って、より具体的な情報を、わかりやすく顧客に伝えることが重要となる。「豊富な情報」を伝えることができるメディアの活用が必須である。

 一方、安心・信頼できる企業ということを伝えるためには、テレビCMなどのマス広告が重要になる。テレビCMで見たり聞いたりしたことがあるということが「信頼感」を醸成する。

 このように、金融機関の広告宣伝では、「豊富な情報」と「信頼感」の両方が必要であり、両方を伝達することで顧客に対してコーポレートブランドが形成される。金融機関では、複数のメディアを活用した「クロスメディア戦略」が他の業界よりも重要となってくる。

 冒頭で、金融機関のマーケティングは遅れていると書いたが、言い方を変えると、これからのマーケティング戦略でまだ差別化をできる状況にあるとも言える。今後、クロスメディアによるコーポレートブランドの構築が金融機関にとって重要な戦略になる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

塩崎潤一Junichi Shiozaki

インサイトシグナル事業部
部長
専門:マーケティング戦略

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