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米国大手金融機関のFinTechに係る戦略・施策

2016年4月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 嶋村武史

近時、FinTechに対する注目度が高まる中、金融機関はその対応が求められている。変化の先端にあると考えられる米国の大手金融機関はオープン・イノベーションの活用や組織上の工夫を行い、FinTechスタートアップと競合するのではなく協働することで競争力の維持・向上を図っている。

 近時、金融とITを融合させるFinTechに対する注目度が高まる中、金融機関はその対応を求められている。特に米国は様々な観点で変化の先端にあると考えられ、その動向は示唆に富む。そこで野村総合研究所は昨年、米国大手金融機関によるFinTech関連の戦略・施策についてインタビュー調査を行った。

米国大手金融機関の“FinTech”関連の戦略・施策の概観

 米国大手金融機関のFinTechに係る戦略・施策を概観すると、図表のようになる。大手金融機関はこれらを複合的に組み合わせ、幅広い観点からイノベーションを推進している。その鍵はオープン・イノベーション(※1)にある。

 オープン・イノベーションを推進する意図は、自社のみに閉じたイノベーションの限界を超えることにある。自社のみでは、複雑な組織構造やコンプライアンスの観点から技術の適用や事業開発スピードが相対的に遅く、発想も従来の枠組みに限定されがちになる。更に、現在注目されているブロックチェーンのように、特に金融インフラとしての利用価値が高いと見込まれる分野は、所謂ネットワークの外部性(※2)が働きやすいと考えられ、自社のみに閉じて利用・開発しても価値を発揮しづらい。そこで、近時台頭しているFinTechスタートアップ等との協働を推進している。

 ただし、有望なスタートアップと協働するためには相応の工夫と配慮が求められる。ベンチャー・キャピタル等から多額の資金がテクノロジー・スタートアップに流入する中、有望なスタートアップを囲い込むのは容易ではない。また、コンプライアンスの制約が厳しい金融機関は、スタートアップとの相性が良いとは言い難い。更に、協働するにはスタートアップ側に相応の手間とコストがかかるが、そうした負担に耐えられずに協働が上手くいかなかった場合、スタートアップ・コミュニティ内での金融機関の評判が毀損するリスクもある。特に米国西海岸においては、スタートアップ・コミュニティの「内」と「外」という区分けの意識が強く、コミュニティの外側にいる金融機関は、上手くコミュニティの内側に近づこうとしている段階であり、相応の配慮が求められる。

Citigroupのケース

 上記のようなスタートアップとの相性や力関係の変化に適切に対応しつつ、オープン・イノベーションを推進している米国大手金融機関の例としてCitigroupが挙げられる。同グループはイノベーション推進のため、2010年にCiti Venturesを設立した。同社は、CitigroupのCFOとCEOの監督下、イノベーションの推進役を担っている。敢えて別エンティティを設立する狙いの一つは、スタートアップとの協働の促進にある。総勢30名程度と比較的スリムな組織で、必要なノウハウを持った外部出身者の比率も高いため、スタートアップにとっては協働しやすいとの評判が聞かれる。

 同社の主な活動は二つに大別される。一つは投資活動である。Citi Venturesは主な注力分野として4つ(※3)挙げており、それに関連するスタートアップに出資を行っている。もう一つがイノベーション関連の活動で、スタートアップ企業を育成するアクセラレーター・プログラム(※4)等に加えて、グローバルに複数個所で運営している研究所(ラボ)における活動が挙げられる。これらの研究所では、ブロック・チェーン等の最も破壊的な部類のテクノロジーや、ビジネス・モデルに関連した調査・研究活動を実施しており、スタートアップと協働した実証実験も行っている。このような活動は、新しいサービスの商用化に結びつくものであるため、Citi Ventures単体で行うのではなく、寧ろCitigroupの各ビジネス・ユニットが主導する体制となっている。Citi Venturesはスタートアップとの関係や財務面でのリソース配分(どこに重点を置くべきかなど)に関して支援を行うという役割分担により、ビジネスユニットと協働して活動を推進している。実際、同グループのイノベーションに係る競争力の源泉は、Citi Venturesという組織自体にあるのではなく、本体のビジネス・ユニットとの連携にあるとの意見が聞かれた。

今後の見通し

 上述の通り米国大手金融機関はスタートアップと直接競合するのではなく、寧ろ協働することで競争力の維持・向上を図っている。このような状況を考えると、専業のFinTechスタートアップが決済や資産運用といった金融機能毎に細分化して顧客に提供するアンバンドリング化の流れが更に進むというシナリオは、必ずしも正しくない可能性がある。実際、顧客利便性に鑑みると提供者が分散するのは好ましくないため、細分化されたサービスが再びワンストップで提供される流れ(リバンドル化)がどこかで起こるのではないかという指摘も聞かれた。現在台頭しているスタートアップの多くが顧客利便性の向上を標榜しているだけに、この議論は説得力を持つ。

 もしこの仮説が正しいとすると、どのプレイヤーがリバンドリングするか、という点は興味深いように思われる。勿論、金融ビジネスの提供に一日の長があり、規制や当局の監督にも裏打ちされた高い信頼性を持つ既存の金融機関が一番手であると考えるが、米国においてはGoogleやAmazonといったテクノロジー大手や物流大手を潜在的な担い手と見る向きもある。金融とITの融合の高度化によって金融ビジネスの再構築が更に進むとすれば、金融機関の競争環境はこのようにより広い観点で捉え直す必要があるのではないか。

1) 企業内部だけでなく他社や大学といった外部が持つ技術、サービス、アイディアなどを組み合わせることで、革新的で新しい価値を生み出すことを目指すイノベーションの方法論。
2) ある財・サービスの利用者が増加すれば増加するほど、当該財・サービスから得られる1利用者当たりの効用や便益が増加すること。
3) Big Data & Analytics, Commerce & Payments, Financial Technology, Security & Enterprise IT
4) スタートアップの募集をかけた上で選考し、選ばれた数社に対して、一定期間に渡る戦略策定や開発に係る指導等を提供するプログラム。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

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注目ワード : FinTech(フィンテック)

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