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イノベーションを支える「エコシステム」という考え方

2016年3月号

デジタルビジネス推進部 テクニカルエンジニア 林田敦

イノベーションを創出するエコシステムを一企業内で形成することは難しい。そこで、企業の枠を超えたイノベーションへの取り組みが重要である。日本のイノベーションを取り巻くエコシステムは発展途上であり、大企業とスタートアップ企業とが歩み寄れる場が必要である。

イノベーションを支えるエコシステム

 イノベーションの起こし方を学んでこい――これが、イノベーションの本場、サンフランシスコでの3ヶ月間にわたる研修に参加した私のミッションだった。3か月を通じての最大の発見は、サンフランシスコには起業家やエンジニア、大企業、投資家が数多く集い、街全体がスタートアップ企業を取り巻く「エコシステム」を形成していることであった。エコシステムとは本来「生態系」を意味する科学用語であるが、近年の経営・IT分野では「複数の企業や登場人物が結びつき、循環しながら広く共存共栄していく仕組み」といった意味で使われる。

 サンフランシスコでは、起業家やエンジニアが中心となってスタートアップ企業を立ち上げ、大企業や投資家がそれに対し積極的な投資を行っている。投資家は利益を追求するために非常にドライであると同時に、投資先は勿論、将来自社の投資先になるかもしれないスタートアップ企業に対して、目先の利益を度外視して事業に関するアドバイスや、有力者の紹介などを積極的に行っている。投資家には一度成功を収めた元起業家や経営者などが多いため、実務を理解した上での的確な支援が可能である。そして、上場したり、大企業に買収されるなどして成功した起業家は、再び起業したり、投資家となって次世代の起業家に貢献したりする。多くの成功例に惹かれて、優秀な起業家やエンジニアが世界各地から集まり、新しいサービスや事業が生まれる。このサイクルが、サンフランシスコのイノベーションを支えるエコシステムである。

日本におけるエコシステムのジレンマ

 このようなエコシステムは日本にも必要だという議論は古くからある。最近では、企業内での研究開発やなじみのベンダーからの提案だけでは競争に打ち勝てないという危機感も、エコシステムへの期待が高まる理由の一つであろう。ところが、日本のエコシステムは発展途上であり、サンフランシスコのような正の循環が機能しているとは言えないのが現状である。その理由の一つとして、大企業からスタートアップ企業への投資、もしくは両者の協業が活発ではないことが挙げられる。

 大企業にとって、スタートアップ企業への投資はシナジー創出が目的であることが多い。その際、スタートアップ企業に対して既存大手ベンダーのサービスと同レベルの品質や恭順を期待する。つまり、自社の既存事業と同じ物差しを使って、スタートアップ企業と成果を出そうとしてしまうのである。結果として、現在の事業規模やサービス品質が投資額に見合わないと判断してしまいがちである。

 スタートアップ企業で働く起業家やエンジニアにとって、大企業は魅力的な投資家候補であり、顧客候補である。一方で、意思決定のスピード感が遅い、実務に入る前の手続きが煩雑である、品質に対する要求水準が高すぎると感じているのが実態である。また、仮に投資を受けると、事業展開に対して的外れな指図をされたり、必要以上に囲い込まれて事業成長を妨げられたりする懸念がぬぐえない。

 それぞれの理由が両者の協業を阻害し、協業が進まないため成功事例が出ない、成功事例が出ないから協業が進まないといった『鶏が先か、卵が先か』というジレンマを生み、エコシステムとして成長しない状態を生み出している。

エコシステム形成を試みるNRIの事例

 NRIは、既存顧客とスタートアップ企業を繋げ、そこから新たな事業を生み出すことを目標としてオープンイノベーションを推進しており、その一環として2014年からNRIハッカソンを開催している。

 ハッカソンとはハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語で、プログラマーやデザイナーがチームを組み、決められた時間内で新しいサービスアイデアを出し合い、発想や技術を競い合うイベントである。その第3回は「Money×IoT」というテーマを掲げて開催(※1)したが、FinTechやIoTに関連する17もの企業・団体の協力を得ることができた。さらに、ハッカソンを一過性のイベントとしないよう、優秀チームを対象とした事業化支援プログラムも提供している。

 事業化支援プログラムでは、参加チームの方向性や事業化に際する課題に応じて社内外の有識者を集め、アイデア出しの場やコンサルティングサービスが提供された。イノベーティブな参加者ばかりが集う、言わばイノベーションを起こすための「特区」である。

 筆者はこのハッカソンで最優秀賞を得て、その後のプログラムを通じてサービス事業化に向けた継続検討・開発を行う機会に恵まれた。その中で見えてきたことの一つは、ハッカソンで評価されるアイデアと、ビジネス的に実現可能なアイデアは異なるということである。アイデアを事業プランへと磨き上げるうえで、NRIが持つコンサルティング能力やシステム構築に関する知見を活用できただけでなく、ハッカソン協賛企業やNRIの既存顧客を交えて集中的に議論できたことは、新しい事業を生み出す場として非常に有効であったと感じている。

まずエコシステムへ飛び込む

 金融機関にとって、イノベーションを起こし自らを変革する必要性は、金融機関をとりまく競争環境に鑑みると、今後高まることこそあれ、減じることはないであろう。一方で、イノベーションにしても自己変革にしても一朝一夕で実現できるものではなく、自社なりの試行錯誤が不可欠である。したがって、いま小さな一歩を踏み出し、来るべき競争に備えることが肝要である。

 ハッカソン後の事業化支援プログラムのように、スタートアップ企業と大企業が歩み寄れる「特区」を設けて、その中から互いを事業パートナーとして「共創」を生み出せるエコシステムが形成できるのではないか。このようなNRIのオープンイノベーションへの試みは、まだまだ発展途上である。この取り組みが、金融機関のイノベーションへの一歩に少しでも貢献できれば幸いである。

1) NRI ハッカソン@ CEATEC JAPAN 2015 開催レポート(http://www.nri-aitd.com/201510hackathon/report.html)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

林田敦Atsushi Hayashida

(出向中)

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