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FinTechを加速させるAPIエコノミー

2016年3月号

金融ITナビゲーション推進部 上級研究員 柏木亮二

金融業界におけるAPI活用の議論が急速に活発化している。個々のプレーヤーによる取り組みの進展と並行して、政策レベルでの議論も始まりつつある。多様なサービスを生み出すAPIエコノミーの勃興が期待される一方で、APIへの対応の巧拙が金融機関の競争力を左右する可能性も高い。

APIの効果、APIのビジネスモデル

 API(Application Programming Interface)とは、あるソフトウェアから別のソフトウェアの“機能”を呼び出す仕組みを指す。従来はシステム開発の現場で使われてきたが、近年のWebサービスの急速な拡大を背景に、Web上での様々なサービスをつなげるための仕組みとして普及してきた。Webサービス上でのAPIは特に「Web API」と呼ばれることもある。

 Web APIの代表的な例として、GoogleMapのAPI活用がある。グルメ検索サイトや旅行サイトなどで、当該店舗やホテル、観光地の正確な地図を掲載するためにGoogleMapのAPIが多く利用されている。

 APIの歴史を振り返ると、嚆矢は2003年にAmazonがProduct Advertising APIを公開したことに始まると言える。Amazonが公開したこのAPIによってブログなどにアフィリエイト機能を簡単に付加できるようになり、一気にAmazonの商圏が拡大した。ついで2006年頃からtwitterなどに代表されるSNS(ソーシャルネットワークサービス)などでもAPIを公開するサービスが現れた。その後、GoogleやYahoo!、Facebookなど様々なwebサービスがAPIを公開し、それらのAPIを用いた多様なWebサービスが生まれてきた。近年、これらのAPIで様々なサービスを繋いだプラットフォームを「APIエコノミー」や「APIエコシステム」と呼んでいる。

 API導入のメリットとしては、(1)開発負担の軽減、(2)顧客との関係強化、マーケットシェアの拡大、(3)より高度な機能の獲得、(4)多様なアイデアの獲得、の4点が挙げられる。

 現在公開されているAPIは非常に多岐にわたる。利用可能なWeb APIの検索サービスを提供しているProgrammableWebに登録されているAPIは、2016年2月現在で3万種を超えている。

 これらのAPIのビジネスモデルは大きく以下の4つに大別される。

(A)フリーミアムモデル
 無料でAPIを開放するモデル。FacebookやtwitterなどのSNSで多く用いられている。チャネル多様化によるユーザ基盤の拡大に効果がある。

(B)トランザクション課金モデル
 APIの利用件数に応じて課金するモデル。一件あたりの利用料金は低廉だが、利用件数が膨大になることで収益が見込める。Googleをはじめとして多くのAPIが採用するビジネスモデルである。

(C)コミッションモデル
 上記の(B)トランザクション課金モデルとは逆に、APIを経由して自社のサービスが利用された場合に一定の報酬を支払うモデル。チャネルの拡大を目指す意味では広告費に近い性格を持つ。

(D)プロフィットシェアモデル
 APIを経由した商取引が行われた場合に、その利益をシェアするモデル。Amazonのアフィリエイトなどが代表的な例である。

金融業界でのAPI活用の動き

 金融領域でのAPIの活用は、当初、いわゆるFinTech系のスタートアップ企業から始まった。例えば、マーケットデータプロバイダーである米国企業のXigniteは、主要な株式市場や為替などのマーケット情報をAPI経由で提供している。導入に際して初期費用がかからず、利用料に応じて課金される同社のサービスは、ネット系証券会社や、FinTech系スタートアップに多く利用されている。この他、個人資産管理(PFM)、ロボ・アドバイザーやウェルス・マネジメント、そして近年急速に注目を集めているブロックチェーンの分野でもAPIを通じたサービスが多数提供されている。

 こういったスタートアップの動きに追随する形で、既存の金融機関によるAPI開放に向けた検討も進みつつある。欧米ではBBVAやBank of Americaなどの銀行で、銀行サービスの一部のAPIを実験的に公開し、様々なサービス開発を行うコミュニティの形成に乗り出している。例えば実験的なAPIを活用したハッカソンイベントの開催などが実施されている。同様の取り組みはCiti Bankや三菱東京UFJ銀行でも行われており(※1)、実験的APIの活用が実施・検討されている。

 さらに一歩踏み込んで、自社のAPIを公開する金融機関も登場している。ポーランドのmBankは自行のローンサービスなどのAPIをeコマース企業に対して公開し、ショッピングローンなどの提供を始めている。また、VISAなどもカード事業のAPI公開を部分的に開始した。

 政策レベルでの議論も活発化している。英国では金融行動監視機構(FCA)が主導して、「OpenAPI」イニシアティブが提唱された。大手銀行による寡占構造が続いてきた英国において、銀行ビジネスに競争を導入することで市場を活性化させようとするFCAの戦略のもと、金融領域でのAPI開放の議論が進んでいる。具体的には、銀行等による決済システム等をプラットフォームとしてノンバンク・プレーヤーに開放し、これらのプレーヤーが利便性の高いサービスを提供するよう促すことを目的として、API規格の議論を進めている。

 また、日本でも昨年末に公表された金融庁の金融審議会「決済業務等の高度化に関するWG」の報告書において、「オープンAPIのあり方を検討するための作業部会等」を設置することが発表された。この作業部会は2016年度中を目途に、APIの方針に関する報告をとりまとめる予定である。

API導入がもたらす新たな競争

 APIの導入、開放のトレンドは今後ますます加速していくことが予想される。API導入はユーザに多様なサービスを素早く提供するメリットをもたらす一方で、事業者には新たな競争を強いることにもなる。

 APIを開放することは自社サービスへのアクセス拡大に繋がる一方、他社が自社のサービスを活用して新たな付加価値を提供することも可能にする。APIの導入にあたっては自社サービスの収益基盤の維持、APIの提供範囲、採用すべきビジネスモデルなどを周到に検討する必要がある。APIへの対応の巧拙が自社の競争力を左右する可能性が今後ますます高まることになろう。

1) Citi Bankの「Citi’s Mobile Challenge」、三菱東京UFJ銀行の「FinTech Challenge 2016」。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

柏木 亮二

柏木亮二

金融ITイノベーション事業本部 ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:IT 事業戦略分析

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